第19話 攻撃においては物理こそ至高

「こ、これでも喰らえぇぇっ!!」



 トウヤの『壁』を警戒しながら走る僕は、左手を前に翳す。

 『凶器召喚』で呼び出す、奥の手その1。


 拠点にしているボロアパートの近くにあったマンションの貯水タンクだ!

 都会ではこんな貯水槽を備えたマンション自体が既に珍しくなったようだが、僕の住む片田舎の街ではまだまだゴロゴロ見かける。

 そのデカさと重さと、更に中に入っている水が何か役に立ちそうだと思い、『凶器召喚』のために屋上までよじ登って触れておいたのだ。



「こ、今度は何だ!?」



 いきなり巨大な円筒状のタンクが現れ、余裕を見せていたトウヤも再び身構える。

 右手を高く上げながら呼び出した貯水タンクは、僕の目の前で地面に落下すると同時に、トウヤに向かって転がり出す。

 貯水タンク自体を見慣れていなかったのか、トウヤは迫り来るタンクを巨大な爆弾か何かだと思い込んだようで、全力で止めるために『見えない壁』を作り出した。

 1枚目の壁で動きを止めると、続く2枚目の壁でタンクを上から押しつぶし破壊する。


 だがそのせいで、薄い金属で作られていた貯水タンクはぺしゃんこになり、発生した亀裂から勢いよく水が吹き出した。



「これは……まさか、薬品か!? 引火性のある燃料である可能性も……!?」



 タンクを破壊した『壁』を消失させたトウヤは、溢れ出るただの水を警戒し、必死になって前方に腕を突き出して液体を遠ざける。

 これで、1枚目の壁を使わせ続けることができる。

 そして僕は更にたたみかける。



「お次は、こいつだぁぁぁっ!!」


「な………………!?」



 奥の手、その2。

 僕は全力で腕を伸ばすと、空中に『それ』を召喚した。

 亜空間を覆う不自然な青い色の空、その景色を遮るほどの巨大な物体。

 トウヤは自身の真上に召喚された『それ』が何なのか、まるで見えないはずだ。


 正式名称は『銅造阿弥陀如来坐像どうぞうあみだにょらいざぞう』。

 通称『鎌倉の大仏様』。

 この2週間でお出かけしてきた最終目的地、鎌倉で触れてきた、僕の最終兵器リーサルウェポンである。

 高さ11メートル超、重さにして約120トン!

 まさかこんな罰当たりな使い方をするなんて想像もしていなかったけど……触っておいて良かった!

 トウヤの直上に召喚された大仏様は、重力加速度に従って落下を始める。



「バ、バカなッ……………!?」



 唖然とした表情で見上げているトウヤを尻目に、僕は巻き込まれないようにすかさず遠のいた。

 トウヤの作り出す『見えない壁』は、確かに頑丈だ。

 だがこれだけ重い物が落ちてきたら、防御はできても重さを支える事はできないかもしれない!

 僕は一縷の望みを賭けて叫んだ。



「行っけぇぇぇぇーーーー!!」



 真上に手を翳すトウヤ。

 既に防御のため『見えない壁』を展開しているようだ。

 落ちてくる大仏様が、トウヤに迫る。

 頼む、これで終わってくれ!!


 徳の高そうな御尊顔に向けて祈る僕だっが



「ぐ、おおおおおおおおおッ!!!!」



 鈍い音がした直後、大仏様の落下は止まってしまった。

 トウヤは目を剥いて歯を食いしばっているが、それでも『見ない壁』で大仏様を空中で受け止めている。

 う、嘘だろ…………アレを受け止められるのかよ…………!?



「ふ、ふははははッ……! これほど巨大なものを受け止めるのは初めてだったが……ボクには効かないッ!!」



 宙に浮いた大仏様はどこか神々しささえ感じる景色になっていたが、僕はそれどころではない。

 まさかこれまで通用しないとは。

 だが、これでトウヤに2枚の壁を使用させた。

 足を止めたトウヤを倒す。

 きっとこれが最後のチャンスだ。


 僕は、全身全霊を込めて『凶器召喚』を使う。

 恐らく僕が今呼び出すことのできる武器の中で、最強の威力を持つものだ。



「これで、どうだああああああああああああああああああっっ!!」



 目の前の空間が、大きく歪む。

 僕の『凶器召喚』の加護に、数の制限は無い。

 出血大サービスで、一度に3つの召喚だ。


 僕が呼び出したのは、電車の車両。

 今日までの2週間の移動で使用していた、私鉄の特急・快速の列車車両だ。

 それも、停止状態ではない。

 各路線で最高速度を出した状態で手に触れた、超高速の移動エネルギーを秘めたものだ!

 召喚された瞬間から時速100キロ近い速度で飛び出して行く。

 線路は無いが、構わない。

 呼び出された12両編成、計3本の巨大な車列をぶつければ、凄まじい威力になるに違いない!!


 これだけ大量の物体が直撃すれば、いかにトウヤの『見えない壁』が頑強であったとしても無傷とは行くまい。

 歪んだ車両に巻き込まれでもすれば、倒せる可能性もある。

 最悪の場合、もしこれさえも防がれた場合でも、大量の車両で動きを封じる事ができるはずだ。



 僕は勝利を確信し、ジュラルミン製の列車を召喚した。




 だが



「ふッ、ふざけるなああああァァァァァッ!!」



 トウヤが叫ぶ。

 直後、窮地に陥る事になったのは僕の方だった。





「えっ…………!?」



 自信満々で呼び出したはずの列車車両が


 突如、目の前で破裂した。


 まるで爆発でもしたのかと思ったが、そうではない。

 吹き飛ぶ車体、飛び散る窓ガラス。

 僕が『凶器召喚』で呼び出した場所の、すぐ目の前に────────


 トウヤが作り出した『見えない壁』が押し寄せていたのだ。




「う、うわああああああああああああああああああああああああっ!!??」



 鼓膜が破れるのでは無いかと思う程の破壊音が響く。

 呼び出した直後に『壁』にぶち当たった列車は、大量の金属片となって押し返されてくる。

 折れ込むように持ち上がった車体は、ぐしゃぐしゃに潰れながら上空に押し出されると、しばらくして僕の方へ倒れ込んできた。

 地面に打ち付けられた車体が、更に細かく砕け散る。

 まるで弾丸のような速さで、ネジやナットなどの小さな部品が飛んでくる。


 仕掛けようとしていた攻撃を、そっくりそのままやり返されてしまった。

 視界いっぱいに埋め尽くされた銀色の列車に押し流されるように、僕ははるか後方まで吹き飛ばされてしまった。

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