日和の歌
俺は、自室兼仕事部屋からノートパソコンを持ってきてテーブルに置くと日和と東子ちゃんに何の歌を歌うのか質問をする。
「それで2人はどんな歌にするか決めているのかな?話を聞く限りだと、俺の予想では緑川さんは多分まだ何曲分か動画を撮ってあると思うから、できれば曲が被るのを避けたい所だけど」
俺の質問に対してまず東子ちゃんが
「それなら、なるべくマイナーな曲にするとか、最悪被ってもこっちが先に投稿すれば良いんじゃ無いの?」
「うーん、マイナーな曲だと知ってる人が少ない場合があるから、今回みたいな場合はおススメ出来ないね。それに緑川さんの方が先に投稿している訳だから、こっちよりも知名度が高いって事だよね。それだと、例えこっちが先に投稿しても再生数があまり伸びない可能性があるんだよ」
「成程ね。でもそれじゃあどうすれば良いのキム兄?」
困り顔の東子ちゃんに対して俺は日和の方を見ながら
「その答えは、既に日和が分かっているみたいだから聞いてみようか」
俺がそう言うと日和は驚いた様子で答える。
「えっ?!う、うん。キョー兄の言う通りなんだけど、良いのかな?」
「いいか日和。俺はお前の為に一肌脱ぐって言ったろ!だから、心配しないでお兄ちゃんを頼りなさい」
俺が日和の頭を撫でながらそう言うと、日和は段々と笑顔になりながら
「うん!それじゃあキョー兄に思いっきり迷惑をかけるね!」
「おいおい!なるべく迷惑はかけないようにしてくれよ……」
そんな俺と日和の会話を聞いていた東子ちゃんは、ジト目で俺と日和を見ながら
「あのさ、2人でイチャイチャするのは良いけど私もいるって事を、忘れないでくれないかなぁ!」
と、俺と日和に茶々を入れて来たので
「ごめん、ごめん東子ちゃん!あっ!もしかして、東子ちゃんも俺に頭を撫でて欲しいのかな?」
と言って、俺がふざけ半分に聞くと、東子ちゃんは顔を赤くしながら小声で
「そ、そんな訳、あるけど……って!話を逸らさないでちょうだいキム兄!!」
「あはは!相変わらず東子ちゃんは可愛いね!」
「うるさ〜い!!」
と、大声を上げながら東子ちゃんは俺の足に何度も蹴りを入れて来た。
「ちょっと東子ちゃん!地味に痛いからやめて!」
「ふんだ!」
「はぁ……」
まるで子供のような態度を取る東子ちゃんを他所に俺は日和と相談し始める。
「それで日和、肝心の例の曲は出来てるのか?」
「うんキョー兄。歌詞の方は完成しているんだけど問題は、葵先輩は知らないけど私は楽器を弾く事が出来ないって事なんだよねぇ。
流石のキョー兄でもギターやドラムを一緒に弾く事なんて出来ないし、かと言って一日二日で楽器が弾けるようになる訳無いだろうし」
「それなら問題ないよ日和。俺には秘策があるから!」
俺が右手でオッケーのポーズを取りながらそう言うと、日和は少し疑った表情をしながら
「本当にキョー兄?なんだか嫌な予感しかしないんだけど……」
「ふふふ、まぁ楽しみにしててくれよ日和」
俺が不気味に笑うと日和は引き攣った表情をしながら
「う、うん。楽しみに、してるね」
と言って頷いた。
その後、スタジオの確保や機材のチェックなど諸々の準備がある為、撮影は明日の放課後に行う事になった。
ちなみに、ダメ元で東子ちゃんに楽器の演奏が出来るのか聞いた所、なんとベースを弾く事が出来ると判明した。
何故ベースなのか理由を聞くと、中学の頃に当時大学生だった南ちゃんがバンドにハマった時、ギターを弾いていた南ちゃんがバンドを組むのに足りないベースを、東子ちゃんに無理矢理教え込んだそうだ。
この話をする東子ちゃんは、どこか魂が抜けたような顔をしていたので、改めて南ちゃんが恐ろしい人物だかを知る事が出来た。
東子ちゃんと日和が帰った後、俺はとある人物に電話をしてから近くのスタジオに予約を取り、愛用のギターと東子ちゃんの為にベースをメンテナンスしてから眠についた。
*******
翌日
大学が終わった後、俺は楽器を持って昨日予約していたスタジオへと向かう。
すると、既にスタジオには昨日呼んでいた人物がドラムを叩きながら練習をしていた。
俺はスタジオに入ると、ドラムを叩いている人物の側に行き挨拶をする。
「お疲れ様です。今日は急なお願いなのにも関わらず、本当にありがとうございます」
俺がそう言って右手を差し出すと、その人物は立ち上がって
「気にするな木村。今日はまたまたオフの日だったし、お前にはこの前のライブでうちの事務所の人間が迷惑をかけちまったからな!」
そう言って握手をしてくれた。
「それではお言葉に甘えて、今日はよろしくお願いしますね柊さん!」
「ああ、任せてくれ!お前から昨日メールで貰った楽譜は、取り敢えず楽譜無しでも弾けるようにしたから問題ない」
「流石ですね!やっぱり柊さんに頼んで正解でした!」
ここで補足すると、【RIZIN】ではそれぞれ、リューがギター兼ボーカル、有栖川がキーボード、加賀美さんがベース、そして柊さんがドラムを担当してライブでバンドを披露する事があり、中でも柊さんのドラムはX○APANの
YO○KI並みに激しく、素晴らしい演奏をすると評判であるので今回お願いした。
しばらくして、東子ちゃんと日和がようやくスタジオに来たので、早速2人を交えて曲合わせをしていく。
柊さんに関しては、2人とも俺がリューと知り合いだと知っているので、特に突っ込まれる事は無かった。
東子ちゃんに関しては、予想通りと言うべきか、やはりと言うべきか、最初はヨレヨレだったベースがわずか数回の練習で、及第点の演奏が出来るようになっていた。
本当に東子ちゃんは天才である!
短時間で感覚を取り戻した東子ちゃんに、流石の柊さんも驚いていた上、隣で発声練習をしていた日和を見て、柊さんはさらに驚いていた。
正直言うと、本気を出した日和の歌声はマジで危険だ!
優しい声色なのにも関わらずどこか力強さがあり、それでいてどこまでも伸びる声と、上手く形容し難い声だ。
その為、今まで日和はカラオケなどで本気で歌を歌った事が無いらしい。
なんでも、本気で歌ってしまうと曲が歌声に負けてしまうらしいが、実際よく知らん!
けれど、今回日和が歌う曲は俺が数週間かけて作曲し、日和が2ヶ月近くかけて作詞した俺と日和の共同作『promise』だ!
俺はこの歌詞を日和から渡された時、日和がどんな気持ちでこの歌詞を書いたのか知り正直戸惑ったが、それでも俺は確信している事がある。この曲は日和の為の曲であり、この曲を最高に歌う事が出来のは日和だけだと…
1時間後
合わせ練習も終わり、撮影をする前に俺と柊さんは身バレすると面倒な事になるので、某グループと同じように犬の被り物を着用すると、いよいよ撮影が始まる。
「それじゃあ3人共、始めるけど準備はいい?」
俺が最終確認をすると3人はそれぞれ
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「ええキム兄、いつでも大丈夫よ」
「うん。私も大丈夫だよキョー兄!」
3人共、準備が整ったようなので俺は撮影用のビデオカメラの録画ボタンを押した。
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