八方塞がり


およそ4分ほどの曲が終わり、リューは静かにイヤホンを外した。

俺は、新曲『Alba』を聴き終わったリューに感想を聞いた。


「どうだリュー?俺としてはかなりのデキだと思ってるんだけど、率直な感想を聴かせてくれ!」


するとリューは、いつもよりも真剣な顔をしながら俺にある提案をして来た。


「なあキョー。真白ちゃんの事は俺が絶対になんとかするから、その代わりにこの新曲『Alba夜明け』を俺に歌わせてくれないか?もちろん他にも要望があるなら叶えられる限り叶えるからさ!頼む!!」


「・・・・えっ?!」


リューからの突然の提案に対して、俺は呆然としてしまった。

しばらくして、固まっていた俺にリューが話しかける。

 

「おーい、大丈夫かキョー?」


「おお!悪いリュー。あまりにもいきなりの事でちょっとフリーズしてたわ」


「そうか、そいつは悪かったな。だけどなキョー!さっきの話だけど、俺は本気マジだぜ!この曲にはそれだけの価値がある!俺が補償するぜ!」


リューは普段では考えられない位、真剣に頼んできた。


「まぁ、お前がそこまで言うのなら別に構わないけどさぁ。それにしても珍しいな?普段から俺に何かを頼む時は、もっとふざけた感じのお前がこんなに真剣に頼んで来るなんて、なんだか調子が狂いそうだ」


俺がそう言うと、リューが自分の肘で俺の事を突っつきながら


「何言ってんだ、当たり前だろ!ずっと暗い感じの曲しか聴かせてくれなかったお前が、初めて聴かせてくれた前向きな曲だぞ!こんなの聴かされたら歌手として絶対に歌いたくなるわ!!むしろ、暗い曲ばっか作ってたキョーが良く作れたよな?」


と、リューが質問して来たので俺は


「確かに、俺は今まで絶望系や失恋系の歌ばっか作ってたけど、この前のデートのお陰でようやく明るい系の曲が作れるようになったんだよ!この新曲も、デートの翌日から取り掛かってこの前完成したばかりなんだけど、またすぐ新曲のアイデアがめちゃくちゃ頭の中に溢れてきて、現在進行形で新しい曲を作ってる最中なんだよ」


俺は軽い感じでリューの質問に答えたけど、なぜかリューは不満そうな顔をしながら


「いやいやいや、普通このレベルの曲を連続で作れる奴なんてそうそう居ないぞ!さらに言えば、お前はもっと欲を出しても良いとおもうけどな!」


「…?どうゆう意味だ?」


俺が頭に疑問符を浮かべているとリューは嘆息した後


「……マジか?!全く、相変わらずだなキョーは・・・でもまぁ、そんなキョーだからこそ俺は気に入ってるんだけどな!」


話し終わると、リューはどこか誇らしげな顔をしながら俺の肩に腕を回してきた。


俺はリューの腕を払ってから


「おいおい、まさかお前も有栖川病に感染してるとか言わないよな?知ってると思うが、俺にそんな趣味は微塵もないぞ!」


俺がそう言うとリューは顔を赤くしながら大声で


「ちょっと待て!!いくらなんでも、流石に千尋バカと一緒にされるのだけは勘弁してくれ!千尋バカはともかく俺はちゃんと女の子が好きだし、男にそんな感情を持ったことは無いから!!」


動揺しながら否定して来たリューに俺は呆れながら


「そんな事分かってるよリュー。ほら、急に大声を出すから真白さんがこっちを見てるぞ、ほら!」


「えっ?!」


俺の話を聞いてリューが真白さんの方を見ると、真白さんはリューを見てると言うより、まるでリューの事を親の仇のように睨んでると言った方がいいかも知れないような熱い視線をリューに送っていた・・・・


リューは慌てて視線を逸らしながら俺に話しかける。


「なぁ、めっちゃ怖いんだけど!あれ絶対に、俺の事を殺そうとしてるよね?」


と、心配しているリューに俺は


「何言ってるんだよリュー。流石に殺そうとは思って無いだろう、むしろ跡形もなく消し去ろうと考えてるんじゃないか?さっきも、有栖川に消すとか言ってたしさ」


最初は真面目な顔をしていた俺だけど、耐えきれなくなって途中からニヤニヤしながらリューと喋る。


するとリューが


「お前ふざけんなよ!完全に、とばっちりじゃねぇーかよそれ!つーか、余裕そうだけど俺よりもお前の方が大変だろ?」


「……しまった、忘れてた!おいリュー、さっきの約束は本当なんだよな?」


俺がリューに聞くと、リューは顔をしかめながら


「無理無理無理無理無理無理!!」


俺の問いかけに対して、リューはまるでジョジョみたいに無理だと否定して来やがった!!


「おいリュー、話が違うじゃねーか!頼むよリュー。お前しか頼める人がいないんだよ!」


俺は落ち込みながらもリューに頼むが、逆にリューはとんでも無い事を言ってきた。


「それならいっその事、葵さんとかに頼んでみたらどうだ?たしか葵さんってこの前大会で優勝した位強いんだろ?それなら、たとえ真白ちゃんがかなりヤバめのヤンデレだとしても対処出来るんじゃねーか」


リューの提案は、たしかに魅力的ではあるが、それはあくまで表の南ちゃんだけしか知らないからだと言える。


ちなみに俺は反対だ!!絶対に二人を合わせてはいけない・・・・何故ならば


「馬鹿やろー!!そんな事したら、即バトルだよ!!それも間違いなく、口論からの物理的バトルになるよ!あの二人がバトったら俺じゃあ止められないからな!!」


そう、見た目は知的そうな南ちゃんだけどその実、もの凄く手が出るのが早いのだ!!

去年の暮れに、忘年会代わりに二人で居酒屋に行った時、絡んできた酔っ払いの青年三人を南ちゃんは黄猿並みの速さで投げ飛ばした程、手が出るのが早いのだ!


ちなみにその後、投げ飛ばした青年たちから南ちゃんは「姉御」と呼ばれるようになったらしい・・・


俺の話を聞いてリューは


「いくら真白ちゃんでも、流石に葵さんに勝てないだろ?」


と、リューは否定してきたが俺はさらに根拠を話す


「いや、有栖川を吹っ飛ばした真白さんの蹴りをリューだって見ただろ!あれは絶対に経験者の蹴りだからな!」


俺がそう言うとリューが


本当マジか?!」


と、聞いてきたので俺は


「ああ、マジだ!」


と肯定する。


すると何故かしばらくの間、俺とリューの間で沈黙が続いた。


「「・・・・・・」」


そして、お互い顔を見合わせた後


「「はぁ〜」」


と、二人で同時に溜息をついた。

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