陰キャさんの正体

side芽依


夕食をご馳走になり、木村さんのマンションを出た後、家に帰る途中ずっと私は木村さんのマンションでの事を考えていた。



「あの服と帽子って陰キャさんと同じ物だよね。それに日和ちゃんが木村さんは眼鏡もかけるって言ってたし。日和ちゃんが眼鏡の話をした時の木村さんが一瞬動揺していたような気も。・・・ヤバいどうしよう木村さんがあの陰キャさんと同一人物としか思えないんですけど!」


私は家に着くなり、自分の部屋と向かいベットに寝っ転がる。


「うう、どうしよう。木村さんがあの陰キャさんだなんてそんなのあり?いや、何となくそうなんじゃないかなとは思っていたけどさぁー」


私は足をバタバタさせながら枕に顔を埋めて周りに聞こえないように叫んだ後、一度冷静になってから


「でも、あの陰キャさんが木村さんで良かったって、心の中でホッとしてる自分がいるんだよねぇ。だって、私が好きになった人がそこら辺の・・・あれ?ちょっと待ってよ!これって不味いような・・・」


すると今度は頭を抱えながら


「あーどうしよう!改めて考えてみるとこれって不味いわよね!だって東子先輩や日和ちゃんも木村さんの事が好きなんだよねぇ。つまりこれって、私と東子先輩と日和ちゃんの3人が木村さんの事を好きって事だよね!

どうしよう。ただでさえ日和ちゃんはほぼ一緒に住んでる様なものだし、東子先輩は学校とは違って道場だとあんなにデレデレしてるし、それに比べて私は道場で会うくらいしか接点がない訳だし・・・これ私が2人に勝てる要素が無いと思うんだけど?」


そんな事を考えるほど、私の中で自分がどれだけ不利な状況だと気付かされて落ち込んだけど、私は自分の両手を頬に向けて勢いよく叩く。


パン!!


私は頬を叩いてから


「大丈夫!私なら大丈夫!」


と言いながら自分を励ます。

本来、普段の私の性格ならば木村さんの事を諦めていた所だろうけど、今回ばかりは諦めるのが嫌だ!

でも、私が木村さんの事を好きだと日和ちゃんや東子先輩に伝えれば、きっと今の関係が終わってしまう。そう考えると、私は怖くなっていった。


今まで誰にも言ってこなかったけど、私は周りが思っているよりも寂しがり屋だ!


誰かと一緒にいないと寂しくて不安になるし、ひとりぼっちは嫌だ!


前に、あまり目立ちたく無いとは言ったけど、それでも誰からも構って貰えないのはもっと嫌だ!


そんな兎のような私が生まれた理由についてはそのうちお話しますが、そんな事よりも私は、これからどうするべきかを悩んでいた。


木村さんの事を諦めたくは無いけど、日和ちゃんや東子先輩との関係も終わらせたくは無い。そんな感情が入り混じって私の中で蠢き合っている。


そして、しばらく考えてから私は一つの結論を出した。


「木村さんの事は諦めよう」


私は恋愛よりも、友愛をとった。



翌日


私が学校へ行くと日和ちゃんが話しかけてくる。


「おはよう芽依ちゃん。昨日は大丈夫だった?」


「おはよう日和ちゃん。うん大丈夫、ちゃんと家に帰れたよ」


「本当!良かった〜。実はあの後、キョー兄にお願いしたら、選挙を手伝ってくれるって言ってくれたんだー!」


「そう、良かったね日和ちゃん・・・」


楽しそうに話す日和ちゃんを見ていると、私の中で形容し難い感情が湧き上がってくる。

この気持ちがなんなのか、分からないけれど絶対良い感情では無い事だけは分かった。


それから私は、ずっとモヤモヤしたこの気持ちを抑えられず、授業に全く集中出来なかった。


学校が終わり、放課後になると日和ちゃんが話しかけて来た。


「ねぇ芽依ちゃん。これから葵先輩と会議なんだけど一緒に行こう」


笑顔で私を誘ってくる日和ちゃんに私は


「ごめん。今日は用事があって帰らないといけないんだ!本当にごめんね」


と言って、日和ちゃんの誘いを断る


「そうなんだ。それなら仕方ないね!それじゃあ芽依ちゃん、また明日!」


日和ちゃんは少し残念そうな顔をしながらそう言って教室を出て行く。


私は日和ちゃんを見送りながら、誰にも聞こえないくらいの小声で


「ごめんね日和ちゃん」


と言いながら帰りの支度をしていると、東子先輩からメールが来た。


【東子  日和ちゃんから今日は来れない聞いたからメールで申し訳ないのだけど、実は芽依ちゃんに頼みがあるの】


私はメールの返信を返す


【芽依  なんでしょうか?東子先輩からお願いなんて珍しいですね】


私がメールを送ると、早速返信が返って来た。


【東子   昨日、キム兄のマンションにお邪魔した事を、道場では内緒にして欲しいのよ。特に南姉さんには絶対に秘密にして!!

じゃないと後でどんな目に合うか、考えただけで恐ろしいから。お願いね!】


私は返信を見て、東子先輩に同情すると共に、まさか南さんも木村さんの事が好きなのかな?と思ったけど、私は東子先輩に聞けなかった。と言うか、聞きたくなかった。


私が東子先輩に【分かりました】と返信すると、今度は日和ちゃんからメールが来た。


【日和   突然ごめんね。実はキョー兄から、芽依ちゃんによろしく言っておいてって、メールが来てたから伝えとくね。あと、今度来る時はもっと手の込んだ料理をご馳走するからだって!】


私は日和ちゃんのメールを見て無意識に


「人の気も知らないで」


と、つぶやいた。


「!!」


自分が何をつぶやいたのかを確認すると、私はすぐに教室を出ていった。


走って家に帰ると私はすぐに自分の部屋に行き、ベットにダイブして叫ぶ


「なんなのよこの気持ち?!本当にどうしちゃったの私?なんで日和ちゃんから木村さんの事を聞かされると、こんなに変な気持ちになるのよ!」


私は何度も枕を叩きながら叫ぶ。


しばらくして、叩き疲れた私は枕を抱きながら呟いた


「本当は、なんで日和ちゃんから木村さんの話を聞くとこんな気持ちになるのか分かってる。分かってるけど」


この気持ちを認めたくない!


だってこの気持ちのを認めてしまったら、今の関係が壊れてしまうから。


だからこそ、私は必死に抑えようと、いや否定しようとしているんだ。


この気持ちの正体が、日和ちゃんへの嫉妬だと言う事を知っているから・・・


私は心の中で呟きながら、そっと目を閉じて眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


自分に対して、正直になれない芽依は果たしてこれからどうするのか?


次回も芽依視点での話となります。

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