黄昏の空


部屋から飛び出した後、俺はTDWで1番景色が綺麗に見えるTDW城の展望フロアにいた。

沈んでいく夕陽を見ながら俺は先程の事を考えていた。


なんで南ちゃんが俺にあんな事を言ったのかは、わかっている。


きっと南ちゃんは、俺が背負っている罪と罰から解放させる為に天音さん、いや、楓ちゃんと会わせたんだろう。


「天音楓」

その名を呟くと、俺の中で様々な言葉が湧き上がってくる。


本来ならば、もう忘れていたはずの女性。

口に出すどころか、思い出す事さえしたくなかった筈の女性。

俺が唯一愛した、ただ1人の幼馴染。

そして、俺に恋愛をできなくさせた呪いの元凶であり、彼女の事を思い出すとあらゆる感情が現れる怒り、憎しみ、嫌悪、けれどそれと同じくらい彼女と過ごしたかけがえのない日々の記憶がよみがってくる。


それはあの時、思い出せなくなりそして忘れてしまった記憶。


俺にとって、天音楓とはどんな存在だったのかを改めて認識させる記憶。


もしあの時離れ離れにならなければ、きっと一緒の高校に入って、付き合って、卒業して、お互い大学生になってから同棲して、ゆくゆくは結婚していたかもしれない。

そんな淡く儚い妄想を抱いていた。


眼前に広がる景色を眺めながら、黄昏ている俺の肩を叩く人がいた。

俺が振り返ってみると、そこには心配そうな顔をした東子ちゃんがいた。


俺はそんな東子ちゃんに謝る。


「ごめんね東子ちゃん。こんな事になっちゃって」


すると東子ちゃんはいつものように笑顔になりながら


「今回はしょうがないよ、それに私としてはキム兄に振られなくて良かったしさ!」


と言って、俺の背中を叩いてくる。


うん、いつもの東子ちゃんだ。


そんな東子ちゃんを見て、俺は少し笑みを浮かべながら


「あはは、相変わらず東子ちゃんはポジティブだね。・・・あのさ東子ちゃん、1つ聞いていいかな?」


俺がそう、東子ちゃんに聞くと


「何ですかキム兄?1つと言わず幾つでも良いよ」


と言って笑顔で返してくる。


やっぱり東子ちゃんは笑顔が一番だよね。


そして俺は、答えの分かっている疑問を聞く


「東子ちゃんは俺の事が好きなの?」


俺の質問を聞いた東子ちゃんは


「うん大好き!世界で一番好きだよキム兄!」


と、男冥利に尽きる言葉を言ってくれた。

そんな東子ちゃんに俺はさらに質問する。


「どうして東子ちゃんは俺のことが好きなの?」


すると東子ちゃんは驚いた顔をして


「えっ!?今更それ聞く?」


「まぁ、一応にきいとこうかなと思ってさ」


「単純だよ、キム兄は私を救ってくれた。それだけです」


「それだけ?」


「うん、それだけ!」


「随分とちょろインだね、東子ちゃんは」 


「そんなことないよ、それに南姉さんだって同じくらいチョロいから」


「それはそれは、似たもの姉妹で」


「質問に答えたんだから今度はこっちの質問に答えて」


「何?」


「キム兄はあの天音さんの事を、本当はどう思っているの?」


東子ちゃんは俺の予想よりもストレートな事を聞いてきた。

流石は東子ちゃんだと思う。俺は少し考えてから


「・・・そうだね。別れてから初めの頃は憎しみや嫌悪しかなかったよ。それはもう酷いもんだった!けどだんだんと薄れていって昨日までは記憶の片隅にぽつんとある程度だった。でも再開した今は・・・あの時の気持ちを思い出すと同時に、認めたくないけどもしやり直すことが出来るので有れば、今度は友達としてやり直したいって思っている自分がいる事は確かだよ」


俺はの答えに対して東子ちゃんは真面目な顔で


「そう、恋愛感情についてはどうなの?」


と聞いてきたので、俺は素直に思っている事を伝える。


「安心して良いよ。友達として、とは思ったけど恋愛感情は湧かないかなぁ、どうしても心の奥底でまだ彼女を許せない自分がいるのは確かだしね」


俺の言葉を聞いて、東子ちゃんは


「そう、ならいいや!」


と言って東子ちゃんは沈みかけた夕陽を見ている。


「かっる!いいのそれで?」


俺は不本意ながら、その姿に見惚れながらそう言った。

すると東子ちゃんは


「障害になりそうなら対処するけど、特に問題無さそうだしさ」


なんともあっけらかんとした様子で言うので、なんだか俺も


「そうっすか」


いちいちツッコむのを辞めてしまった。


すると、何かを思い出したかのように東子ちゃんが


「あっ!でも、私の勘ではあの人多分、何かを隠してると思うよきっと!」


と言って、人差し指を立てる。


東子ちゃんの話に対して俺は


「だろうね」


と、軽く言う。


東子ちゃんは少し驚いたように


「なんだ、キム兄も気づいてたんだね」


と言ってきたので、せっかくだから俺が分かった理由を話す。


「別れの時に楓ちゃん、ずっと踵を上げてたんだよ」


「それが理由?」


「うん、楓ちゃんは知らないだろうけど嘘をつく時や隠し事をするときに踵を上げる癖があるんだよ、だからすぐわかったんだ」


「ふーん、ならなんで聞かなかったの?」 


「聞けなかったと言うよりも、聞きたくなかったと言ったほうがいいかな」


「そう。ねぇ、キム兄はこれからどうするの?」


「これからって楓ちゃんの事?」


「うん、そう」


「取り敢えずもう一度ちゃんと会って決めようと思うよ」


「頑張ってねキム兄。キム兄が前に進める事を祈ってるよ」


そう言って、俺と東子ちゃんは二人で沈んでいく夕陽を見る。


俺たちは夕陽が沈みきったあと、南ちゃん待っている部屋に戻った。



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おーと!ここで東子がやってくれましたね!


京も薄々分かっていましたが、ここでの東子の告白は京にとって思っている以上に意識する事になりますが、本人が気づかないのが残念でなりません!


対する南は果たしてこれからどんな手を打ってくるのか楽しみですね

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