間章 突撃、ようこそ木村家へ
親友をご招待
俺とリューは電車を乗り継ぎ世田谷の実家に到着した。
「はぇー、でけー家だな!キョーって実はボンボンなの?」
「いいや、そうでもねーよ。それにお前の家だってかなりでかいだろ?」
「そうだけどさー、家と違って歴史を感じるって言うか趣ある家じゃん」
「古臭くて悪かったな」
「そうは言ってねーだろ」
「冗談だよ」
俺は門を開けて玄関の方へとリューを案内する。
「あーそうだ!さっきも言ったけどお前の事を知ってるの日和だけだからちょっとうるさいかもしれない」
「問題ねーよ!それよりお前が誘ってくれたことのほうが俺は驚きだわ!まぁ、唯一の親友である俺を紹介するのは当然だよな!」
「いや?当然では無いが、偶にはいいかな?と思ったんでな」
「そうか・・・・」
「おい!続きは無いのか!続きは!」
「いやー、改めて言われると照れる・・・」
「このヤロー!」
俺とリューが玄関先で大声を出していると突然玄関のドアが開き家から母さんが出てきた。
「あら!貴方が京のお友達ね。どこかで見た事あるような気もするけど取り敢えずこんな所に居ないでさぁどうぞ!」
「は、はい!お邪魔します」
何故かリューはよそよそしい。
「おい、何動揺してんだよ!」
「いやだってさ、こんなキレーなお姉さんさんがいるなんて聞いて無いぞ!」
「はぁ?何言ってんだお前?」
「だから、お前一度もお姉さんがいるなんて言って無かっただろうが!」
リューの発言俺と母さんは顔を見あってから思わず
「「ぷ、ハハハハハハ!」」
「へぇ?俺、何かおかしな事言った?」
「いやな、お前が姉さんだと思っている人は俺の母さんだよ!」
「は?マジで?」
「マジ」
「いやいやいや、どう見ても20代位にしか見えないんだけど」
「あら!嬉しい事言ってくれるわね。正真正銘私は京の母親よ」
「た、大変失礼しました。それにしてもお母さんお若いですね」
「うふふ、ありがとう。さぁ入って、今夜は腕によりをかけたご馳走よ!」
こうしてようやく家に入ると今度はリビングでも同じようなやりとりが行われることになる事を俺はまだ知らない・・・
俺はリューを連れてリビングの扉を開ける。
「ただいまー!友達を連れてきたよー」
リビングに入るとエリーナさんがちょうど食事の準備をしていた。
「あら、お帰りなさい京君!遅かったのねー。そちらの方が京君のお友達って、もしかして[RIZIN]の氷室龍一さんですか?」
エリーナさんは驚い様子で質問してくる。
「はい、キョーいや、京君の親友の氷室龍一です。本日はお世話になります」
リューは普段では考えられないくらい礼儀正しくしている。
「あっリュー、紹介するよ日和のお母さんで俺の叔母さんのエリーナさん」
「あー、日和ちゃんのお母さんですか。日和ちゃんにはいつもお世話になってます」
「あらそうなの?」
「はい、日和ちゃんには京君が留守の時に部屋の鍵をよく借りてますから」
「おいちょっと待て!お前何勝手に部屋に入ってんだよ!」
「いや、だってお前道場とかで夜いない日があるじゃん」
「あるじゃん。じゃねーよ!何勝手に部屋に入ってんだよ!」
「いいだろー!俺とお前の仲じゃないか」
「はぁー、もういいよ。この話は後でこってりと聞くから」
「げっ!」
「まあまあ、それより夕飯の準備が終わるまであと少しかかるから椅子にでも座ってくつろいでてくださいな」
「あれ?エリーナさん、父さんと叔父さんはどうしたの?」
「ああ、あの人はまだ仕事に行ってるわよ!正樹さんは昨日から戻っていないって佳代さんが言っていたわ」
「そうですか、まぁ父さんはしょうがないですね」
「ごめんなさいね」
「いえいえ、エリーナさんが謝る事じゃないですし、こんなの昔はいつもの事でしたから気にしてませんから」
「そう、今お茶を持ってくるわね」
「ありがとうございます。取り敢えず座るかリュー」
「ああ、悪いな」
俺たちが席に座ろうとすると今度は日和がやってきた。
「キョー兄お帰り!それにリューさんもこんばんわ。お久しぶりですね」
「やあ日和ちゃん!久しぶりだね元気そうで何よりだよ」
「ありがとうございます。リューさんのキョー兄の面白い話をまた聞きたいです」
「おい!今なんて言った?」
「いやー、そのー」
「おいリュー、さっきの事といい覚悟しとけよ」
「・・・はい」
「あれ?私何かいけないことでも言ってしまいましたか?」
日和は状況をよく分かっていないようで?マークが出ている。
「そうだ日和。なんか俺に内緒でリューに部屋の鍵を開けて勝手に入らせたんだって?」
俺がちょっと声色を変えて聞くと日和は目を泳がせながら
「えーと、あのー・・・ごめんなさい」
勘弁したのか日和が謝る。
「うん、取り敢えず今度お仕置きね」
3人で話していると玄関が開く音がした。
「ただいまー!」
「誰か帰ってきたかな?」
「多分お父さんだと思うよ」
リビングの扉が開くと日和の予想通り雄也さんがスーツ姿で来た。
「ただいま日和に京君、あともしかしてアイドルの氷室龍一さんじゃないですか?」
驚いた雄也さんが慌てふためいている。
(こんな姿の雄也さんを見るのは初めてじゃね)
「初めまして、氷室龍一です。本日はお世話になります」
「とんでもない!日和の父の雄也です。
どうぞよろしくお願いします」
「もーうお父さんったら、そんな畏まらなくてもいいのに」
「「「「ハハハ」」」」
と笑っていると
「ご飯出来たわよー!」
母さんがお玉を持って知らせに来た。
(いや、いつの時代だよ・・・)
父さんを除く全員がダイニングにあるテーブルに座る。テーブルの上には様々な料理が並んでいる。
「あの人はまだ帰って来てないけど食べちゃいましょうか!」
「そうだね母さん」
「龍一君もいっぱい食べてね」
「はい!いただきます」
母さんの合図で
「それじゃあいただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
こうして食事が始まった。
「うんめー!このグラタンすっごく美味しいですね!普通のよりも深みがあるって言うか濃厚で美味しいです」
「あら分かる?今日のグラタンは濃くをだすために味噌を加えているのよ!それにチーズも特別な配合で作った自信作なの」
「京君の料理も美味しいけど佳代さんのはもっと美味しいです!」
「悪かったな、母さんより腕が悪くて」
「何すねてんだよ!まったく」
「そうですよキョー兄!キョー兄のご飯も美味しいです!毎日食べてる私が言うんですから間違いありません!」
「ありがとう日和。日和だけだよ俺に優しくしてくれるのは」
「そ、そんな事ないですよ・・・」
「あら?なに顔を赤くしてるの日和?」
「もーお母さん!うるさいですよ!」
「ハハハ、日和も正直だな!」
「お父さんさんまでー」
日和親子が楽しく会話しているとリューが俺にだけ聞こえるくらいの声で
「なぁーキョー、楽しい家族だな。羨ましいよ」
「リュー・・・・」
俺はリューの家庭環境を聞いているので思わず口を紡んでしまった。
リューは俺の背中を叩きながら
「そんな落ち込むなよキョー!俺は気にしてないからさ!」
「そうか、悪いな」
「いやこっちこそ気を使わせたしな」
俺とリューが話していると酔った雄也さんが絡んできた。
「氷室君はどこで京君と知り合ったんだい。やっぱり京君の歌?」
「そうですね。京君には最初、歌を貰う為にお会いしたんですが、いきなり断られて焦りましたよ」
「はーあ?お前嘘つくんじゃねーよ!最初俺の質問に思いっきり嘘ついてたじゃねーかよ何勝手に記憶を改ざんしてんだよ」
「さ、さぁー?どうだったかなー」
「おい!」
俺はリューの頭をチョップする。
「イッテー!やりやがったなこのヤロー!」
「やるかコラ!」
「いや、それは勘弁してくれ」
「そこは、「かかってこい」だろ?」
「無理だから」
「「アハハハハ」」
その後、8時過ぎまで食事が続いたが結局、父さんは帰って来なかった。
食事が終わり片付けを済ませた後、俺とリューは風呂に入り俺の部屋でくつろいでいる。
「なぁキョー」
「何?」
「お前の親父さん帰って来なかったけどいつもこんな感じなのか?」
「ああそうだよ。ガキの頃から仕事仕事で、運動会も、誕生日も居なかったし、たまの休みに帰って来ても書類を書いたり寝てたりで親父らしい事なんてほとんどなかった。けど唯一、俺が柔道や合気道をやってた時はよく道場に連れてがれてしごかれたな!容赦なかったけどアレがなかったら間違いなく俺はグレてたと思うよ」
「いい親父さんだなうちとは大違いだ!」
「そうなのか?たしかにあんまりお前の両親の事について聞いたことが無かったな?」
「多分俺の親父は俺に興味が無いんだよ。俺が音楽をやりたいって言った時も、アイドルになるって言った時もお袋は賛成してくれたけど親父は何も言わなかったし、中学に上がる頃には2人でアメリカに住んじまうしな」
「親父さんのこと、恨んでるのか?」
「いいや、別に恨んじゃいないさ。ただ嫌いなだけ。キョーはどうなんだ?」
「そうか。まぁ俺も最初は父さん事を恨んでいたけど中3の時に俺が引きこもった後、仕事ほっぽり出して色々とやってくれたみたいでさ、後で母さんから聞いた時はびっくりしたよ。それに高校で合気道を始めたのも父さんが俺を強引に道場に通わせたのがきっかけだしな。正直感謝してるよ」
「そうか」
「なぁ、そろそろ寝ないか?もう1時だしさ」
「そうだな寝るか。おやすみキョー」
「ああ、明日は朝7時に起こすからなリュー。覚悟しとけよ」
「うっわ!はやくね?」
「いやいや、そんなもんだろ普通?」
「そうか?」
「そう!」
「寝るわ。起こしてくれ」
「はいよ」
こうして俺とリューは寝た。翌朝、予定通りに俺は起きたが何度起こして起きないリューを最終的に布団ごと叩き起こす事になった。
******
朝9時俺とリューは朝食を食べ、身支度をしてから家の外で待っていると一台の車がやってくる。
この車にはリューのマネージャーさんが運転していて、俺たちを迎えに来てくれたのだ。
「もう行っちゃうの?もっとゆっくりしていけばいいのに」
「いいんだよ母さん。ほらマネージャーさんが待ってるから行くね」
俺が車に乗り込もうとすると母さんが不意に
「ごめんね京」
「???どうしたのいきなり?」
「正樹さんの事よ。あの人いつも京の・・」
「ちょっと待って母さん!」
「えっ?」
「これ以上は大丈夫、俺も分かってるから」
「ごめんなさいね。帰る前にこんな・・」
「ハイハイ!泣かないの母さん。久しぶりに会えて良かったよ。また気が向いたら帰ってくるからさ」
「ええ、待ってるわ!またね」
「じぁーね」
俺は手を振りながら車に乗り込む。
リューが母さんと何か、話しているが聞こえなかった。
そして、車が進んでいくと頬を伝わる冷たい水滴が流れ落ちていく。
「あれ?何だこれ、あれ?」
俺が混乱しているとリューが
「なぁキョー、偶には自分に素直になったらどうだ?」
「・・・・そ・そうだ・な」
俺はしばらくの間泣いていた。
こうして俺の久しぶりの帰省は終わった。
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