ぼくと吸血鬼

しぐなる

ぼくと吸血鬼の出会い1

高校生になって1年がたち、この校舎で2回目の春を迎えることになった。

1年前と比べてぼく、空木慧斗は成長しているのだろうかと自問自答している。


成績は悪くもなく、よくもなく。

運動はあまり得意ではなく。

本が好き。

そんなどこにでもいる高校生だ。


高校も自分のレベルで問題ないところに進学し、問題なく高校生活を送っている。

多少本を読むこともあって、本の中のような劇的で面白いようなお話をなぞってみたいと思うことはあれど、そんなこととはかけ離れたところで生活をしていた。


あの女の子に出会うまでは








「きみはこわがらないのね?」


「そう…だな。怖いと言うより驚きのほうが勝ってて…。」


夕暮れ時の図書館にぼくは彼女といた。

本棚でできた影の中から出てきた彼女。

彼女とは初対面ではあったが、よく知っていた。

どこの学校でもよく耳にするような噂。

七不思議と呼ばれるようなヤツ。

―この学校の図書館には真っ白な吸血鬼がいる―

最初たまたま人影が見えた気がして図書館に入ってきたが、そこでぼくが目にしたのは日本人とは思えない真っ白な肌と色素のない髪を持つ儚げな彼女だった。

噂の事も一瞬頭をよぎり、恐怖や不安もあったのだが、そんなことを気にさせないほどぼくには綺麗に見えた。

「驚き?」

首をかしげてこちらをのぞき込む彼女。

彼女の赤い目がこちらをまっすぐ見ている。

「そう。綺麗に透き通ってるみたいで」

「…キレイ?」

「あ、ああえっと・・・」

なぜか告白みたいになってしまって顔が赤くなっているのが自分でもわかった。

「きみ、おもしろいのね。」

慌てるぼくを見て彼女はふわりと笑った。

「ここに来る人もみんな私の姿を見ると逃げて行ってしまうから。わたしもれっきとした人間、なのに。」

人間と言ったところでいやそうな顔をする彼女。

「吸血鬼の噂…」

「そう、それ。こっちを見るたびに悲鳴を上げて逃げていくの。血なんか飲まないのに。」

ため息をつきながら憂鬱そうな目をしている。


「でも、いいじゃないか吸血鬼。伝説というか、物語というか。それに出てくるようなものに例えられて噂されているんだから。かっこいいと思う。」

「かっこいい…?」

「うん。」

この言葉に嘘はない。人並みよりは本を読む自分からすれば、物語に出てくる登場人物はとても綺麗で男女問わず華がある。

一時期そんな物語の世界にあこがれたこともあったが、結局何もせず、なにか異能などに目覚めるわけでもなく、なにも無いまま平凡に終わっていくのであろうぼくからしたらとても羨ましい話だった。



「…そうかな。きみは面白いことを、いうね。」

少し考えてから、こちらを向いて彼女はそう言った。

「私からしたら…ううん、なんでもない。」

「?」

「じゃあね。」

この時の寂しそうな目は気のせいだったのだろうか。それを確かめる勇気もなく、彼女は外へ出ていってしまった。

これが彼女とのファーストコンタクトになったのだった。

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ぼくと吸血鬼 しぐなる @runagusi

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