ノーイグジット

昆布 海胆

ノーイグジット

脱出ゲーム。

一度は耳にした事があるだろう、閉じ込められた部屋から外に脱出する事が出来るかというゲームである。

基本的に謎を解く事で脱出する事が出来るのがこのゲームの形である。


「それでは準備の方は宜しいですか?」

「あぁ、いつでもいけるぜ」


とある企業が販売しているゲームのアンケートで実際に脱出ゲームを体験したいという希望者を募っていた。

そのゲームが発売されてから最初のアップデートである1週間以内にそのゲームをクリアすると、そのアドレスが表示されるという形式で行われた極秘企画。

ネット上にこの事を一切書かないという制約の元、俺達はここに来ていた。

なんとここまでの移動に掛かる費用から、宿泊設備まで完備されているというのだから驚くのも無理はないだろう。

しかもこの脱出ゲームをクリアした者には褒賞として500万円が支給されるというのだ。


「それでは、頑張って下さい」


俺は言われた通りヘッドギアを外した。

そこはキャンプ等で使われるような木で出来たコテージの中の様であった。

薄暗い視界の中、ボンヤリと見える視界を頼りにゆっくりとベットから起き上がり辺りを見回す。


「おっ!」


俺は直ぐにそれに気が付き手を伸ばす。

壁に触れるとカチッと音が鳴り天井の照明が部屋の中を照らした。


「をを~本格的じゃないか~」


部屋の中にはベットが一つ、食料等が入っている冷蔵庫が置いてあり、ドアが3つあった。

一つは『トイレ』と書かれており、もう一つには『シャワー』と書かれていた。

俺はこの建物から3日以内に脱出する事が出来ればゲームクリアという訳だ。


「それにしても静かだな・・・」


ここへ来た時、俺以外にも男女合わせて13人の人間が同じようにあのゲームをクリアしてこの企画に参加していた。

まさかこれ程の人数が1週間以内に攻略するとはと主催者も驚いていたのが印象的であった。


「ってあれ?主催者の人ってどんな人だったかな・・・?」


どうにもその辺の記憶が曖昧になっている気がしたが、俺はとりあえず部屋の中の探索を開始した。

こうして俺の最後の3日間が始まったのであった・・・




1日目の夜。


「くそっ一体どうなってやがるんだ?!」


俺はシャワーを浴びながら苛立っていた。

何故ならば、どれ程探しても外に出るヒントの1つも見つからなかったのだ。

いや、1つだけあった。

果たしてそれがヒントなのかどうなのかは分からない、だが唯一俺の直感に引っ掛かった物があったのだ。

俺はシャワーを出てタオルを体に巻きながらそれを眺める・・・


「充電式なのか?」


そう、冷蔵庫だ。

部屋中探し回り何も見つける事が出来なかった俺であったが、本来あるべき筈の物が無いのに気が付いたのだ。

この冷蔵庫・・・


「なんでコンセントが無いんだ?」


身長と同じくらいの大きさもある冷蔵庫、中身が入っているそれは実に200キロ近い重さがあるだろう。

だがその中は確かに冷えているのだ。

俺は床が傷付くのを覚悟し、全面下の足を回して浮かせた。

冷蔵庫には基本的に後ろの部分にキャスターが付いてあり、少しだけ前面を浮かせれば前後へ一人でも動かす事が可能なのである。

そうして、埃で汚れたが確認した結果、この冷蔵庫にはコンセントの類は一切なかったのだ。

こうして俺の初日は過ぎて行った・・・






2日目


今日も再び部屋の中を重点的に探し回った。

何処かに何かのヒントが隠されていないか等を調べ尽くすため、シャワーのヘッドから排水溝の蓋を外しまでして探せるところは全て探した。

トイレの水を落として、洋式便器を外してまで調べたのだが結局何も見付からないまま俺は昼食を食べていた。


「くそっ、なんだ・・・何を見落としている?」


枕元に置いたヘッドギアまで分解して調べたが、やはりなにもない・・・

仕方なく俺は実力行使も視野に入れ再び部屋の中を隅々まで調べる事にした・・・


「くそっ駄目か・・・」


窓の一つもない部屋の中、冷蔵庫の上に置かれた時計だけが現在の時刻を知らせている。

午後6時半・・・

既に半分以上の時間が過ぎている事を示していた。

あれから更に色々調べ探したのだが、部屋から出れない事以外は何も分からないまま時間だけが過ぎて行った・・・

自分は拉致されて監禁されていると言われれば、納得が出来そうなくらい外に出る方法が一切見付からなかったのだ。


「本当にどうなってるんだ?」


おかしいと感じたのはそれだけではない、もしもあのゲーム会社が主催しているイベントであるならば、何処かで撮影されている筈なのだ。

だが外に出る方法どころか、それらしい物の一つすらも見つける事が出来なかったのだ。


「あーもうわかんねぇ! 明日の朝探して何も見付からなかったら実力行使だな!」


そう言って床にシーツを敷いて寝転がる。

部屋の隅に固められた分解されたベットと、中身を全部抜いた布団の残骸を見ないように俺は眠りに付くのであった・・・






3日目。


遂に俺は実力行使に出る事にした。

ドアノブも無いドアの前に立った俺は入手した工具を並べドアを観察する・・・

この工具たちは色々な物を分解して入手した物だが、これだけあればなんとかなるだろう。

ベットに使われていたネジ、シャワーのノズルなどの金具、冷蔵庫にあった瓶の蓋を加工して作ったマイナスドライバーモドキ・・・


「ドアの角に蝶番が見えないから押戸の筈!」


そう言って俺はおもいっきりドアをヤクザキックで蹴り飛ばす。

だが、予想通りビクともしないので俺は予測を立てて削る事にした。

蝶番があるとするならば上部と下部の2か所、蹴った感じ動かなかったからその部分をネジで抉ってノズルの金具で穿り、マイナスドライバーモドキを使って抉っていく・・・


「隙間に何か突っ込んで開ける方法で良いんだったら本当楽勝だったのにな」


それは初日に試した方法、冷蔵庫の中に在った紙皿を重ねて行ったのだが、結果は言わずとも分かるだろう。

そうして、俺はドアを削り掘り進めて言った・・・

だが・・・


「ん? えっ・・・う、嘘だろ・・・」


何かに当たったマイナスドライバーモドキ、ネジで周囲を削りそれを見て絶句した。

なんとドアの削った隙間から見えたそれは間違いなく、コンクリートであった。

そう、外からコンクリートでドアが塞がれているのだ!


「お・・・おい!ふざけんなよ!こんなんどうしろっていうんだよ!?」


何処かで監視されているのだろうと考え、俺は天井に向かって叫ぶ。

だが、返答は何も返ってこず、俺は諦めて座り込んだ。

3日かけて頑張ったが結局どうにもならなかったのだ。

コンクリートを削るとしても外に出るまでどれ程時間が掛かるか分からない。

遂に心が折れた俺は口にする・・・


「ギブアップ、降参だ・・・」


だが、どれ程待っても何の変化も訪れない。

どうやら制限時間が過ぎるまでは助ける気すらも無い様だ。

俺は再びシーツの上に寝転がり眠る事にした。

家に帰るまでの交通費を貰ったら、出来るだけお金を掛けない方法で帰って差額を貰っちゃおうと考えて仮眠をとる事にしたのだ。

それが何を招くとも知らずに・・・







「ん・・・なんだ?なんか・・・暑苦し・・・?!」


目を開いた俺は飛び起きた。

部屋の中が異常に暑くなっていたのだ。

そして、起き上がって時計を見る、制限時間を10分すぎた事がそれで分かり俺は焦った。

まさかそんな・・・


「未クリアだったら罰ゲームか?!」


明らかに異常な熱を持つ部屋の空気、これほど息苦しいのは初めてであった。

俺はすぐさまシャワー室に飛び込み水を出して中を冷やそうと考えた。

だが・・・


「うおっ?!」


なんとシャワー室の中が火の海になっていたのだ。

ドアを開けた瞬間炎が天井に燃え広がり慌ててドアを閉める。

それと同時に隣のトイレのドアがはじけ飛んだ!

そして、その中から火が噴き出す!

バックドラフトというやつなのだろう、燃えて酸素が無くなった場所に空気が一気に流れ込んだら爆発的な燃焼が起こる現象である。


「うわぁぁっ?!くそっどうしたこんな・・・」


俺は必死にドアの方へ行き釘でドアの削りを行った。

燃え広がる室内、火が広がり俺の衣類にまで燃え広がってきた。

脱ぐべきなのだろうが、一刻も早くドアを何とかして外に出なければ、既に正気では無かったのだろう。

何度も何度も全身が燃える中、ドアに握った釘を叩き付けて必死に叫んだ!


「誰かー! 助けて―!!!」


やがて口から吸いこむ息が燃える様に感じ、俺は全身を焼かれる痛みに絶叫しながら力尽きていく・・・

体がまるで自分のモノではない様な感覚の中、玄関のドアだけが少しだけ冷たいのを幸せと感じながら・・・













「ゲーム終了です」


男がそう告げ、カプセルの中に横たわる人々の蓋がゆっくりと一斉に開く。

その結果に男は嬉しそうに笑みを浮かべながら経過を観察していく・・・

並べられたカプセルの中には14人の男女が居た。

そして、その各々が痙攣したかと思うとその体に変化が訪れた。


「ををっ!素晴らしい・・・」


一人は皮膚に切断されたような跡が浮き上がり、一人は燃やされたように皮膚が黒く炭化し始め、一人は水ぶくれの様に皮膚がぶよぶよになり、また一人は串刺しにされたかのように全身に赤い模様が浮かび上がり、他にも多種多様な現象が起こっていた・・・

プラシーボ効果の一つとも言われる現象で想像妊娠等、そうだと思い込むことにより肉体に変化が現れる現象である。


「ふむふむ・・・やはりフルダイブを使ったゲームではまだまだ課題が山積みのようだ。だがこれで得られた観測結果は今後医療にも大きな影響を及ぼすに違いない!なにより・・・」


そう言ってチラリと男が視線をやると一人、また一人とカプセル内の人の息が止まっていく・・・

この男の仕掛けたフルダイブゲームの中で実際に自分が死んだと信じ込み彼等は生命活動を止めて行ったのだ。

結果、14名全員が帰らぬ人となってしまった。


「残念、全く残念だ。なぜ誰一人ヘッドギアを付け直し、起動させて『ログアウト』を行わなかったのか?」


そうこのゲームの唯一の攻略法を口にしながら笑い、機械を操作してカプセルの蓋を閉める。

そして、何処かへ連絡をし始める・・・


「私だ。喜んでくれ、若くて新鮮なドナー提供者が多数見つかった。つい数分前に息を引き取った者達ばかりだ」


そう嬉々として会話する男には死んだ者達が金にしか見えていないのだろう。

男は部屋を出て次の部屋に移動する・・・

次の部屋でも第2グループが同じようにデスフルダイブ脱出ゲームを行っているのだから・・・




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