第29話 国王からお詫びの招待~エルフも添えて~

「どうか【家族】に幸せが訪れますように──」


 セージは首飾りのような物を手に祈る。

 それは沢山の球がつらなり、十字の形のものが付いていた。


 向かう対象は先祖代々、神棚かみだなと呼んでいる祭壇さいだんだ。

 彼の言う【家族】の範囲は幅が広い。


「あのう、セージ様」

「いつも思うのですが、王は一体、何をなさっておいでで?」


「これ? エルフの会議の時の自己紹介で言ってた日課の祈り──って、その時は二人ともいなかったのか。いやいや、ていうか毎日見てない? 『いつも思う』ってんなら遠慮なく聞いていいよ? 俺、エルフと違って情報を小出しにはしないから、聞かれたことは答えるし」


 情報について、軽く二人をディスるセージ。


「ぅぐ」

「ほ、本日の王は一層いっそう手厳てきびししいですね。しかし、日課のお祈りですか。今お手持ちの物と、そちらの箱のような物は?」


「あっ指差ゆびさすんじゃない。それ、ご神体が入った神棚だから。この【祭具さいぐ】を使ってだな、その中のご神体を通じて家族が幸せになるよう、祈りを捧げてんの」


「なっ!? そのような不遜ふそんな存在が!?」

「ご、ご神体!? 王であるセイヤ様やセージ様を差し置いて!? ──!! なるほど、その【ご神体】というのは【セイヤ様の英霊】、と」


「おま、なんでだよ! 第一、王や勇者は聞いたけど神扱いまでは、さすがに無かっただろ!? 俺やご先祖様を差し置いていいんだよ! ってか、初代の頃からかしてない祈りだからなこれ!」


「セイヤ様の代から……まさか! 異世界に召喚される時にお会いになったという【神】では!?」

「なるほど、アイナ。それは道理が通りますね。【農業チーター】キサラギや【武力チート】ハルカ様のように、お世話になったと」


「ああ、そっちの方は勘違いしても仕方がないか。どうやら召喚関係ではないらしい。というのも、ご先祖様はそういう存在にお世話にはなってないそうだよ。むしろ、先祖代々『【ソイツは拉致誘拐犯らちゆうかいはん】の烙印らくいんでも押しとけ』って言い伝えが」


「【拉致誘拐犯】!? 仮にも神を名乗る相手に!?」

「さすがはセイヤ様!! そのような胡乱うろんな存在など歯牙しがにもかけぬ、気高けだかきおこころざし!」


「……逆に聞きたいんだけど。エルフって、宗教──っていうか崇拝すうはいしてる神っているの?」


「もちろん、ございますよ」

「その御名みなは、セイヤ様とおっしゃ──」


「結局、ご先祖様じゃねーか!! なんなんだよお前ら、もったいぶりやがって!! だから! 今まで一度も神扱いまではしてねえだろ!!」


 エルフィのセリフさえぎられ率は高かった。

 最後まで言わせてもらえないことも多い。

 二番目に発言的な役割ゆえである。


「あれっ? 【ホーリー・パレス】には神であるセイヤ様の肖像画がございませんでした? 思わず、祈りをささげたくなるような」

「セイヤ様がエルフを支配者から脱出に導いた、【しゅつエルフ】の著述ちょじゅつはあまりに有名です」


「あれご神体だったのかよ!? んで【出エルフ記】ってまた初耳なんだけど!! ……えっ? エルフって、どっかから脱出してきてんの?」


 そういえばであるが。

 セージが激しくツッコみを入れるさいのことである。

 二人がおびえることは、大体ない。


 怒っているようで実は全く怒っていない状態。

 彼にとって、冗談と本気で分けてでもいるのだろうか。

 ……一部のツッコみには例外があるが。

 案外、【覇気】とは便利なバロメーターなのかもしれない。


「勇者であるセージ様もご存じの通り」

「エルフとは美しくも弱く、はかない存在」


「おう待てやコラ。ごぞんじじゃないんだけど。美しさしか認める点がないんだけど」


「う、美しいなどと!」

「我が王からの、そのセリフ──」


「もうそれホントいいから。話進まないから止めてくれる? てかさ、二人の【エロさ】と【恥じらい】の価値観、逆じゃないの? 尺度しゃくど、バグってない?」


「では、【出エルフ記】からの歴史を少々、申し上げます」

「その昔──エルフは人間に支配され迫害され、家畜のように扱われておりました」


 価値観については釈明しゃくめい放棄ほうきするエセ双子。

 何事もなかったかのように、話を進め始めた。

 たまに怯えを見せるクセに、この二人も意外に図太ずぶとい。

 それも彼への好意ゆえと言えば、それまでであるが。


「……マジで? 逆じゃないの? エルフが人間を武力でおどしてたんじゃないの? ほら、首都【ヴェルフラード】に行った時、ヴァンデリア国王様にやってたみたいな感じで」


「アッ! エルフィ!」

「そうでした!」


「は?」


急に何かを思い出したかのようなエセ双子。

全く心当たりがなく、短い疑問の声を上げるセージ。


「えっと、実はセージ様がお出かけになっていた早朝、ヴァンデリア国王からつかいの者が参ってまして、その者が──」

「『勇者様に対する、先日の無礼ぶれいのおびをしたいので、どうぞ【ヴェルフラード】へおしください。今回の件は王家総出そうでで謝罪せねばなりますまい。先日よりも大きなパーティも開きますので、是非とも。勇者様を呼びつける非礼ひれい、お許しください』とか申しておりました」


「それ、いの一番に言えよ! なんでここにいたるまで黙ってたんだよ!!」


「ですが、たかが国王の遣いからの伝言程度」

「正直、夕飯を囲みつつ『ワハハ』と笑いながら話す雑談レベルです」


「あのね、何べんも言うけど──国王様ってね、この国で一番えらい方なんだよ? 君らは俺を勇者とか王に認定してるけど、ヴァンデリア王国においては俺って一領民いちりょうみんなの。つまり……【雑談レベル】じゃなく【何よりも優先する事項】ってことだよコンチクショウ!!」


「で、では再び参りますか! 【ヴェルフラード】へ!」

「アイナ! 今、私が提案しようと思っていたところですよ!」


 二人の間でみにくの押し付け合いが始まっていた。


「もういいから、分かったから。仲良くしろよ」


 四日後。


「………………」


「王よ、此度こたびの旅はいかがでしたでしょうか?」

「快適にお過ごしいただけたと自負じふしております」


「ねえ、【エルフハーブ】なんだけどさ……本当に人体じんたいに安全なの? あれ使うのやめない? つか、一服盛いっぷくもるなって俺、言ったよね?」


「お久しぶりですね、門番」

「伝えなさい。エルフの覇王で勇者──セージ様が参ったと」


 エルフを見た門番は相変わらず怯えていた。


「聞けよ! 聞けよ!! だから話を!!! 聞けよ!!!!」


 むなしく木霊こだまするセージ怒涛どとうのツッコみ。

 門番はそれよりもエルフ恐ろしさに、城内へと急ぐ。


 すると──王城からあわただしく大量の人が押し寄せてきた。

 しかも、国家元首である国王を筆頭ひっとうに。


「勇者様! この度は! 申し訳ございませんでしたアァアアアア!!」


 人の目があるのに土下座する国王。

 普通、国王とは人前で頭を下げてはならない人種である。

 エルフの脅威度きょういどとはそれほどまで、ということだ。

 この国王に限っては勇者への畏敬いけいの念もあるのだが。


 王家にも異世界文化である【正座】や【土下座】は伝わっていた。


「ちょ!? 国王様!? 人前で頭を下げちゃダメでしょ!! 怒ってませんし大丈夫ですから! 頭を上げてくださいって!!」


「お、お許しいただけるのですか……? 何でも、そうとう横暴な振舞ふるまいをされたとお聞きしたのですが……」


「国王様に悪意がないのは分かっていますし、恐らく事情があるんだろうなと思ってましたから!! それより頭を上げてくださいって!!」


「うぅっ! 勇者様の度量どりょうにはなんと感謝を捧げればよいのか……。下手をすると今頃この国は滅ん──そうだ、お伝えの通り、このまま城内にて歓待かんたいさせてください。すでにパーティの準備に取り掛かっておりますので、明日にでも【国王謝罪こくおうしゃざいパーティ】を開ける予定です!」


「わかりました、ありがたくたまわりますから。せめて、その緊急会見きんきゅうかいけんみたいなパーティ名は変えましょうよ……」


 そのままセージとエセ双子は城内に一泊いっぱく

 そして、翌日。

【勇者様へのお詫びパーティ】が始まりをげる──

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