第7話 エルフ無双アフター・チート農園収奪

「我が王よ、そろそろだと思うのですが」

「ええ、期は満ちました」


 王都から帰ってしばらく経った日。

 エルフコンビは突然切り出した。

 ちなみにその時の一件で、国王からはお土産という名の心付こころづけを大量に贈られている。


 エルフの当人たちには伏せられているが、いわゆる危険手当と同情による見舞金だった。


「そのくだり、この前やったばかりでしょ。それともアレか、ボケたのかな?」


「そんな、面白ひょうきんエルフだなんて」

恐悦至極きょうえつしごく


「無理矢理べため変換するの、やめろ」


「それはともかく」

「今回は国りなんかではありません」


「……そうは言われてもな。エルフの考えてることなんて俺わからないから、直球で説明してくれる?」


「もちろんですとも」

「今回の目的は──【チート農園奪取】です」


「あぁ、以前、農業なんとかって言ったヤツか。土壌に悪そうな感じの。結局のところ聞かなかったけど、それって一体なんなの?」


「そもそもの発端は初代勇者のセイヤ様の時代までさかのぼります」

「それは勇者様がその他の塵芥ちりあくたと一緒に召喚された時のこと──」


「あ、長々とした説明は要らないから。三行くらいでよろしく」


 セージのスルースキルは確実に上昇していた。


「御意に」

「①セイヤ様がこちらに召喚される際、愚民も一緒に巻き込んでこちらの世界に来ました。②恐れ多くも、巻き込まれた愚民風情が勇者様を差し置いて【農業チート】という小癪こしゃくなスキルを保持してました。③分不相応なのでエルフ総出で愚民から農地を接収しました。以上です」


「お、おう……。なんというかエルフィ、すごいな。初めて普通に感心したわ」


「!? エルフィばかりズルいですよ!!」

「アイナ、私ばかり王の寵愛ちょうあいを受けて申し訳ありません。これも魅力の差ということで諦めてください」


「こらこら、仲間割れするんじゃない。どっちも凄い、どっちも凄いから仲良くしろよ。それで? そんな昔の人物なら、巻き込まれた人とやらは、とっくに亡くなってるだろ?」


「それがですね」

「最近判明したのですが、小癪こしゃくにもその子孫が、セージ様と同じく血と共にスキルを受け継いでいるらしいのです。小癪にも」


「そうか。エルフ的にどれだけかんに障るのかは知らんが、小癪って言い過ぎじゃない? まあ、ケンカも戦争も吹っ掛けてくるわけでもなし……放置しといたら?」


「何をおっしゃいます!」

「その昔、時のエルフの長老はげました。【勇者様は、一人だけでいい……】。そして、エルフ族はセイヤ様以外の異世界人を滅ぼすことにしたのです」


「過激なのは今さらだけど、すげえ排他的はいたてき思想なのな。エルフの長老とかいう重要そうなワード、今まで出てきた? つうか、生活魔法より農業の方がよっぽど有能そうな気もするんだけど……」


「「!?」」


「そんな、あごが外れそうなくらい驚かなくても」


「驚きもしますよ!!」

「我が王はエルフの存在意義を否定するおつもりですか!?」


「……エルフの存在と生活魔法って、何か重要な関連でもあんの? そもそもさ、平和に暮らしてる人の土地を奪おうとか。俺ら、まるで強盗じゃん……」


「えっ?」

「セージ様が現在お使いになっているこの土地。過去に農業チート野郎から剥奪はくだつした土地ですけど」


「俺の家系、強盗じゃん!? マジかよ!! その事実は知りたくなかったよ!!」


「王が愚民から租税を取るのは当然の権利ですよ」

「先日も申し上げましたが、そろそろ覇王としての自覚を──」


「覇者になるつもりはないから。しかし、速攻で民衆から革命を起こされそうな思想だなソレ。第一、その農業をやってる人の子孫の居場所、わからないだろ? はい無理。この話お終い」


「え?」

「農業チート野郎ならここから四半刻も行かない場所に住んでおりますけど……」


「はぁ!? メチャクチャ近所じゃん! え、誰?」


「確か──キサラギとかいう猪口才ちょこざいな名前の」

「セイヤ様が止めなければ【根切】にしたものを……」


 エルフ用語の一つである根切。

 要約すると【根絶やし】。

 これは一族郎党皆殺しという意味である。

 そうすれば生き残りから復讐される心配もない。

 実に合理的かつ非人道的な手段だった。


「ああ、いつもトマトを持ってきてくれるキサラギさんね。嫌いなのは理解したけど、余計な形容詞つけるのはやめて差し上げろよ。いやいや、彼、メッチャいい人だよ。ニコニコしながら気前よく作物わけてくれるし。……うっ、そんな人の土地をご先祖様は奪ってるのか。罪悪感がヤベェ。次に会う時、どういう顔で接すればいいんだ」


「悩むまでもございません」

「覇王らしく──鷹揚おうように構えていらっしゃればよいのです」


「それなんて言うか知ってる? 盗人ぬすっと猛々たけだけしいって──」


 エルフコンビをいさめる最中さなか、セージの家の戸を何者かがノックする。


『セージさーん。キサラギっス~』


「噂をすれば影か。本人きちゃったよ……。はい! どうぞー!」


「こんにちはセージさん。農業日和のいい天気っスね。今日は新種を持って来たんスけど……。名付けて【民家ミンカのめざめ】。丸々としたお芋なのに、なんと甘いんスよ! たくさん収穫できたので幸せのお裾分すそわけっス!」


「……できねぇ。どうやったらこんな人から土地を奪うとか、むごい発想が出るって言うんだ……」


「【農業チーター】・キサラギよ」

「セージ様に土地を献上するのです」


「ねえ話聞いてた? 俺、いまお世話になったばかりだよ? 恩を仇で返すのってエルフ的にどうなの?」


「土地? セージさん、土地が欲しいんスか? ちょうど開墾かいこんしすぎた土地が余ってるんで、差し上げましょうか?」


「キサラギさん良い人すぎでしょ!? 容易に詐欺師からカモられそうで俺心配なんだけど!!」


「あはは、誰にでも上げるわけじゃないから大丈夫っスよ。ウチとセージさんの家って代々仲が良いですし。確か初代は、生活魔法の恩恵に預かる代わりに開墾を手伝ったとかなんとか」


「……よかった。エルフに乱暴された可哀そうな異世界人はいなかったんだ……」


「ふふん」

「素直に従えば、エルフも鬼ではないのです」


「二人とも後で説教な」


「!!」

「ありがたき幸せ!」


 こうして、エルフの里の勇者伝説に新たな一ページが追加される。

『勇者は海のような広大な慈悲をもってチート野郎の開墾を許す』

 そう、記されたのであった。

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