お天道様がみてる
おくとりょう
ようこそ
駆け出し降車もおやめください!
「信…っじらんない…っ!」
あたしは思わず膝をついて、吐瀉物のように言葉を吐き出した。周りから見たら、酔っぱらって嘔吐しているようにでも見えるだろう。それでも本音を吐き出さずにいられなかった。
それほど、街の様子は異様だった。
…なんっで、わざわざ『当たり前の禁止事項』を書いた看板なんて、胸にぶら下げて歩かなきゃいけないんだよっ!!
そんな嘆きをなだめる様に、暖かな日差しが背中を照らす。石畳にあたしの影がくっきり映っていた。
これは知らない街でのとある穏やかな午後の話。
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『あぁ、逃げ出したい』
そう心の中でつぶやいたのが、まずかったのかもしれない。
その日もあたしはいつも通りの通勤電車に乗って、会社へと向かった。…ハズだった。
いつものように寿司詰め列車に乗って、いつものようにBL妄想に逃避していたら、いつものように会社の最寄り駅に着く。
…そのハズなのに、いつまで経っても駅に着かない。
特にアナウンスもないままに、真っ暗な地下をずぅーっと走る。静かな車内には、トンネルを走る轟音が窓越しながら響いていた。
だんだん不安になってきて頃、ガシャガシャと慌ただしい音とともに、ようやく車内アナウンスが流れた。
「ひゃーっ!
ふざけたような妙な話し方だった。
「えー、まもなくぅー、―――。―――でごぜぇーまぁす」
耳慣れない駅名だった。
「…お出口はぁー、右側にぃ、変わりまぁす」
それなのに、あたしはついつい降りてしまった。その電車に乗っているのが耐えられなくって。
だって、妙なアナウンスと見知らぬ駅に止まる路線だよ。乗り間違えたのかも?って思うじゃない!
降りてすぐ、あたしは駅名の看板を探してたけど、見つかんなくて、駅員さんに聞いてみた。
「すみませぇーん、ここ何ていう駅ですかぁ?」
改札の横の椅子に腰かけていた駅員さんはアタシが声をかけると、黙ってゆらぁっと立ち上がった。すっごく大きくて、もしかしたら三メートルくらいあったかもしれない。
そして、彼はアタシの顔を覗き込むみたいに背中を丸め、
「おめでとうございます!あなたは――人目のお客様です!
無料でこの駅に降車できます!目的駅までの料金も追加は不要です!」
と、甲高い声で叫んだ。
ワケの分からない駅の奇妙な駅員。もうあたしは気持ち悪くて堪らなくて、言われるがまま駅から出てしまう。早くその場から去りたくて。
…でも、それが間違いだった。あそこが最後の分かれ道だった。そんな気がする。
目深に被った奥で、にたぁっと歪んだ彼の下品な笑顔が今でも忘れられない。
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