第1話 ヒーローになれない主人公

 それからしばらくして、零はモヤシ炒め(味付けは塩コショウおんりーだよっ☆)を黙々とほおばるアルテミスを見ながら、この子がうちに来ることになった過程を振り返っていた。事態は数時間前にさかのぼる。


                ◇


 榊原零はいつもの下校ルートを一人でとぼとぼ、てくてくと歩いていた。

 運動も勉強も中の上。一般的な男子高校生で自他とも認めるフツメンで、いわゆる『年齢=彼女いない歴』の人間であった。

「あぁ~!もう平凡はイヤだ!空から美少女降ってこぉ~い!」

 こんなことを大声で言えるくらいには馬鹿なのである。

「・・・・・・・・て!」

「うん?」

 いきなり少女のもののような声が聞こえた。しかし、あたりを見渡しても誰もいない。

「気のせいか?」

「うえ!上!キャッチしてぇぇぇえ!」

 今度ははっきりと聞こえた。

 反射的に上を見ると、

「おーまいがー」

 ついアホっぽくなってしまうのも仕方ない。だって、だって・・・

「空から美少女降ってきたぁぁぁああ!?」

「いーから助けてよおぉぉぉ!」

 俺はその声を聞いて素早く落下点を予測し、滑り込み、両手を広げまるでどこぞの主人公様やヒーローのようにかっこよく美少女キャッチを・・・・・・・・・・・・

・・・決められずに顔面レシーブ。

「ふぐぉがッ!!」

 だけどその美少女を守るという目的は達成された。

「お、おい。大丈夫か?」

「う、う~ん・・・」

 彼女は気絶してしまった。

 いったいどれくらいの高さから落ちてきたのかは分からないが、生きている方がおかしいくらいの奇跡だ。気絶するくらいは当たり前だろう。

 とりあえず道端に放っておくのもアレなので、家に連れて帰ることにした。

 しばらく美少女をおぶって帰るという貴重な体験をしながら家に帰る。

 少女の体は力を入れて抱きしめれば簡単に折れてしまいそうなほど華奢で、軽かった。

「ただいま、澪」

「おかえり!れ~いに~い!って、ええぇぇぇ!」

 うん、そうなるよな。普通は美少女背負った兄が帰ってきたらそうなるよな。

「いや~、ちょっと空からこの子が降ってきて、助けたのはいいんだけど気絶しちゃってさ~。ほら、放っておくのもアレじゃん?だから連れてきました!」

「大丈夫、大丈夫。こんな・・・こんなちょっとやそっと可愛いくらいの子でれいにいの心は揺らいだりしない。いつも『愛してる』って言ってくれてるし大丈夫大丈夫・・・」

 何やらぶつぶつとつぶやきだした澪。

「あ、あの。ミオ、SAN?」

 すると澪は少し涙ぐんだ上目づかいこちらのほうを見ながら手を握り、

「れいにいは私のれいにいなんだからねっ!」

 このセリフはシスコン兄貴には威力が強すぎたようで、零は胸を押さえうずくまった。うわすごい。何この破壊力。そうです!俺は澪のものです!

 零のシスコン度合いに軽く引くが、仕方ない。だって澪は本当に可愛いのだ。

「私以外の女の人について行っちゃ、ダメなんだからね?」

 再びウルウル上目づかい。

「はいッ!」

今日も妹の言いなりのダメダメ兄貴であった。

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