春夏秋冬

安藤リョウヘイ

第1話

 出会ったのは春の日。入学式の日。

 学校最寄りの駅に着いた私は、学校がどちらにあるか分からず、辺りを見渡した。寝坊をしてしまったこともあり、周りには学生はいなかった。

 そんな私の後ろから、君は声を掛けてくれた。


「多分こっちですよ。一緒行きます?」


 同じ新入生の彼について行き、結局2人で迷って。当然のように先生に目をつけられた。まだ知り合ってから2時間ほどなのに、ずっと昔から知ってたみたいに仲良くなった。

 温かい春の風が、私の心を撫でた。



 知ったのは夏の日。1学期の最終日。

 いつものように帰ろうとした時、下駄箱で君を見かけた。同じクラスの子と楽しそうに話している。頬を染めながら頭を掻く仕草は、ドラマのワンシーンのようだった。


 そうか。君はその子が好きなのか。夏祭り、誘ってみようと思ってたんだけどな。


 私は来た道を戻り、図書室へ向かった。何故だろう。無性に本が読みたくなった。君への気持ちを忘れたいのかな。

 窓の外で鳴くヒグラシが、私の心を塞いだ。



 戸惑ったのは秋の日。体育祭の日。

 運動神経だけは良かった私は、色々な種目に引っ張りだこだった。誰から褒められることも無かったが、出る種目は全て一着を目指した。


 さすがに疲れてきた午後3時。残すは学年対抗リレー。体育館の影に隠れて休む私を、君は見つけた。


「お疲れ。大丈夫?」


 そう言いながら、君はタオルとドリンクを差し出した。私は嬉しすぎて飛び跳ねそうになるのを抑えながら、受け取り言った。


「ありがとう。頑張れそう。」


 照れを隠しながら伝えると、君は笑顔で去って行った。


 第一走者として立った私は、上級生に囲まれながらも闘志を燃やした。

 スタートを伝えるピストルの音が、私の心を走り出させた。

 


 冬の日。お正月。

 1人で初詣に向かい、混雑する境内で君を見つけた。近づいて声を掛けると、とても驚いた顔をしていた。2人でお参りを済まして喧騒を抜けると、君は言った。


「もしかしたら会えるかなって思ってたんだけど、ほんとに会えるとビックリするね。」

「えっと、私に?」

「そう。ごめん。」

「何で謝るの?」

「いや、嫌な気分にさせたかなって。」


 そんなことない。私も会えて嬉しい。そう言いたいけど言えない。だから私は俯きながら言った。


「別に嫌じゃないよ。ありがとう。」

「そっか。良かった。」


 2人で歩く参道には、冷たい風が通り過ぎる。冷えた体とは裏腹に、私の鼓動は早くなる。


「それじゃ、俺こっちだから。また学校で!」

「うん。またね。」


 遠くから聞こえる神社の鈴の音が、私の心を躍らせた。



 これが私の春夏秋冬。また次の春がやってくる。

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春夏秋冬 安藤リョウヘイ @ryohei_ando070

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