週刊「タブー」誌 記事より

 ──10月2日未明、X市内の病院において看護師が殺害された。この事件の犯人として現行犯逮捕されたA氏に、ある疑惑が持ち上がっている。彼を凶行に駆り立てた原因は、変異性仮死遊行症(通称:ゾンビ病)ではないかというのだ。

 小誌がさる筋より入手したA氏の容態の電子記録によると、10月1日深夜11時、A氏は一度心肺停止状態となっているが、およそ1時間後に自発呼吸が回復。ただし、体温・脈拍ともにそれ以前より著しく低下しており、これは厚生労働省のガイドラインに示されたゾンビ病発症時の症状に酷似している。

 また、小誌取材中に得られた病院スタッフによる証言として「現場は血の海で、犯人は被害者のそばにうずくまって何かをいじっていた」「連行された犯人は、明らかに何かを咀嚼していた」「口元に赤黒い塊のようなものがあった」といったものがあり、もしこれが事実であるとすれば、まさにゾンビ映画さながらの光景が展開されていた事になる。

 A氏は地域においては実業家として知られ、生花販売を出発点として葬祭業、ブライダル、学童保育など他業種で経営を行っており、関係者は「愛情溢れる人だった。あれほど人間を愛している人は見た事が無い」と口を揃えて言う。また、不幸にして我が子を若くして亡くしてからは、地域の病院や災害遺児の福祉施設への寄付、ホームレスへの支援など、苦境にある人に寄り添う活動を行っていた。

 心優しい篤志家であったはずのA氏が、まるで人間の心を持たない怪物のように豹変してしまった原因は何か。真相の更なる究明が求められる──。

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