四話 洞窟の夕餉
俺達が抜け道の洞窟を進んで二日。
どうやら、ライゼが着けているピカピカ眼鏡には暗視効果以外にも、影が薄くなる魔道具が組み込まれているらしい。というか、たぶん、自由都市ウーバーでレーラーが買った眼鏡を改造したのだろう。
厭な改造である。
もう少しスタイリッシュな眼鏡にはできなかったのだろうか。
と、そのライゼが身に付けている眼鏡の影が薄くなる効果は、ライゼだけでなく俺達にも効果があるらしい。
そのため、コーレアクスには今のところ遭遇していない。
いや、コーレアクスらしき魔力反応は幾つか捉えたのだが、やり過ごしたのだ。
暗闇に包まれていようと、レーラーは
俺達は暗闇の洞窟を意外にも楽しめたのだ。
そうして、楽しみながら洞窟を進んでいたが、それでも二日もすれば飽きる。
闇鍋の夕餉を取りながら、俺はそう思う。
「レーラー師匠、あとどれくらいあるの?」
「一日くらいかな。急げば半日で出れると思うよ」
闇鍋といったが、ライゼもレーラーも俺も鍋の中身はある程度見えているので、物理的な闇鍋の事である。
おかしな食材が入っているわけではない。
ただ、暗闇の鍋という事でライゼが面白がり、いつもは使わない絶品で見た目が悪い食材をふんだんに使っていた。
それらの食材は虫やら何やらなのだが、上手いし、保存がきく。見た目の忌避感さえなければいい食材なのだ。まぁ、俺は虫でも問題ないのだが。
だが、俺やライゼが良くても、レーラーは虫を食べたいとは思わない。
虫の見た目が嫌いだそうだ。因みに、ライゼが魔法学園に入るときの実技戦闘試験で黒いゴマの虫を大量発生させたときは、内心気絶しそうなほどだったらしい。
ただ、逃げ出すわけにもいかなかったので、精神鎮静や現実逃避用の魔法を自分に使いまくり難を乗り切ったそうだ。
それを知った時は凄く笑った。レーラーでも苦手なものがあるのだと知って嬉しかったのだ。
まぁ、それは置いといて、幾ら暗闇でも目がきくとはいえ、全体的に暗く見える事には変わらない。
また、レーラーは虫の見た目が嫌いなだけで、虫だと分からなければ食べる事はできるらしい。積極的に食べたいとは思わないが。
そして、しっかりした厨房がある厨房は兎も角、今は洞窟内だ。虫の見た目が分かりにくくするほどの調理をする余裕はない。
けれど、レーラーの視界でも全体的に黒く暗く見えるのは先程も言った通りだ。
だから、今日は虫鍋なのだ。
ある程度調理して、微妙に食材が虫だと分かるくらいの見た目にして、鍋に突っ込む。また、山菜や香辛料で味付けをしっかりすれば栄養満点の美味い鍋となる。
本格的な鍋ではないが、それでもライゼの料理スキルにかかれば、そこらの料理屋に負けないほどの美味い御飯が出てくるのだ。
まぁ、身内に対しての過大評価が入っていないとはいえないが、それでも美味い。
「ふぅん、そうなんだ。……そういえば、この洞窟に出た後って何処に行くの? ベターラー盆地に直通するって事は聞いたんだけど、フリーエンさんが盆地そのものに住んでるわけじゃないでしょ。何処の町に行くの?」
「……いや、洞窟を出れば直ぐだと思う。フリーエンは街中で暮らしてなかった筈だよ。たしか、盆地の大樹近くに居を構えたって言ってたし」
あれか、スローライフ的な感じか?
いや、まぁ、竜人って言ってたし、レーラーの言葉を信じるならば、無口で隠居を望んでたって話だしな。
「盆地に大樹なんてあるの?」
だが、ライゼはそこには気にならなかったらしい。
普通、死の間際の筈の老人が盆地内で暮らしていれば、気になるものだが。まぁ、いいや。
「あるよ。丁度、六百年前くらいに、私の知り合いの
というか、仙凛桃樹が身をつけるのって八百年くらいかかるよな。凄い悠長だな。未来を見据えすぎだろ。
「へぇー」
「まぁ、けど、その
肝臓が腎臓でもやったのか?
だが、あらゆる部分が頑丈で、生命力が高いと知られている
「……もしかして病気? ならレーラー師匠が……」
「いや、妻というか、彼女というか、パートナーというかそんな存在に一生酒を飲まないって誓ったんだ。アイツ、酒飲んで彼女との結婚式をすっぽかしたんだよ」
「……うぁぁ」
『……ひど』
ライゼが珍しく顔を凄く顰めていた。と思う。幾ら暗闇でもある程度見えるとはいえ、影が分かりづらいのだ。
まぁ、というか、酒飲んで結婚式をすっぽかすとか酷すぎると思うんだが。前世で恋愛の『れ』の字も知らない俺でも流石に不味いとおもう。
まぁ、だから酒を飲まないと誓ったのだろう。相手も、ん? 何かレーラーの言葉おかしくなかったか。まぁ、いいや。
それにしても
というか、
いや、まぁ、結婚が真心とか、そういう欲以外の想いによっても創られる事は知っているが。
けど、ここら辺は感覚だし、詳しく知りたいなら、レーラーの知り合いらしいし、直接聞いた方がいいだろう。
何も知らない俺が考えたところで意味はない。
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