十一話 年末
今年最後の日。
今日だけは、ライゼはレーラーを起こさなかった。深夜まで起きてもらうためだ。終祝祭のクライマックスは、年が変わる瞬間である。
しかし、レーラーは起きるのが遅い癖に寝るのが早い。
なので、今のうちに存分に寝かせておくのだ。
それに今は、朝だ。早朝ではない。ライゼも少しだけ、今日だけはゆっくり起きたのだ。
「おはよう、ライゼ君」
「おはようございます、リールエさん」
そして、ライゼは終祝祭の準備を手伝うために、港に来ていた。
終祝祭は港を中心に行われるのだ。この町の港は、漁業が盛んなためか、結構でかい。それに、海に浮かぶ星と月を見て、年越しというのは風情なものだろうし。
「ライゼの坊、次はこっちを運んでくれ!」
「はい、分かりました」
ライゼは、今、自分の背の数倍ほどある角材を両肩に担いで運んでいる。この仕事は主に漁師衆が行ってるのだが、ライゼが手伝いを申し出た。
最初は、子鬼人で小さいライゼが重い角材を運ぶことに疑念を示していた漁師衆だが、ライゼが問題なく角材を運ぶさまを見て、今は仕事を任せてくれている。
老人や女性などは、ライゼがいつも重いものを運んだり、色々と手伝ってくれいたことを身をもって知っていたのだが、漁師衆は冬でも漁にでていた。
それに、飛雷魚を避けるために遠回りして漁に出ていた事もあり、日中に帰ってくることが少なかったのもあり、漁師たちはライゼの話を嘘ではないが誇張だとでも思っていたらしい。
けど、今は問題なく円滑に終祝祭の設営ができている。
また、俺が手伝わないのもあれなので、俺はライゼの深緑ローブの首元に隠れながら、〝
流石に大きくなるのは、説明するのも面倒なのだ。ただ、いい加減、いい感じの言い訳というか、話を作らないとな。
小さいままでも良いんだが、町を大きくなって自分で歩いてみたい。
馬だって歩いているんだし。
それから、数時間後。
終祝祭のための全ての設営が終わった。
「あ、終わったんだ」
と、色とりどりの提灯がぶら下がり、多くの出店と花々に彩られ、また、昨日降った雪が地面を美しく、全てを洗い流すように真っ白に染めている港に、昼頃にようやく起きたレーラーがやってきた。
寒そうに手袋を付け、防寒着を纏っている。
今日は〝
『まぁ、無粋だからね』
そう思ったら、レーラーが〝
『まぁ、私もヘルメスの魔素体だからね。思念を受信しやすいよ』
『……そうだったな』
気を付けないとな。受信しやすいし、発信しやすいんだ。魔素体っていうのは。
たまに、ライゼに俺の心の裡が聞こえていることもあるし、気を抜くと駄目なんだよな。
「おそよう、レーラー師匠」
そんな俺らの会話を知ってから知らずか、ライゼは手伝いのお礼として貰った甘い豆を煮た汁、バールトパストを飲んでいる。
ぜんざいみたいな食べ物である。まぁ、豆は黒ではなく、青色だし、餅の代わりにモチモチしたパンが入っているのだが。
「おはよう、ライゼ。ところで、一口良い?」
レーラーはライゼの冗談みたいなものを無視し、ライゼが食べているバールトパストに釘付けである。
朝食を食べたいなかったためか、お腹が鳴っている。
「もう、しょうがないな。はい、レーラー師匠」
ライゼはそんなレーラーに少しだけ呆れならがも、目尻を下げ、木製のスプーンでバールトパストを掬い、レーラーに差し出す。
レーラーはそれをパクリと食べる。
ライゼの方が少しだけ身長が高いため、お兄ちゃんと妹みたいである。
ライゼの表情がそれを強調している。
レーラーの頬についたバールトパストをハンカチで拭い、レーラーは為すがままにそれを受け入れている。
ここ数カ月間でライゼの子育て能力というか、介護能力というか家庭的な能力が上昇しているのは確実だろう。
魔法学園でレーラーの助手をしていた時よりも手際が良くなっている。
ただ、呆れながらも笑顔でレーラーに世話しているライゼを見ていると、少しだけ心配である。まぁ、レーラーの方が意外にもそこら辺は弁えているし良いか。
「レーラー様、ライゼ様。この度は無事に終祝祭が開催できました。本当にありがとうございます」
と、そんな二人の前に正装を身に着けた町長がやってきた。
その言葉は何度も聞いたが、しかし、感謝の色は褪せていなかった。凄い事だよな。
「何度も聞いたし、いいよ」
「そうですよ」
「いえ、感謝は何度も口にしていいんですよ。そっちの方が温かくなりますし」
まぁ、それは感謝を忘れない人と、感謝を感謝として受け取れる人だけに限られるが。
だが、真実でもある。
「まぁ、そうだね。じゃあ、私たちは存分に終祝祭を楽しませてもらうよ」
「僕もです。あ、それと僕の魔法幻燈会、必ず見に来てくださいね」
「ええ、もちろんですとも」
そして、俺達は町長と一旦分かれて、港を中心に町を見て回った。
多くの町人と話をするのは楽しかった。
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