五話 〝攻撃する魔法〟
実技試験が始まってから二時間が経過した。
ライゼは結構後の方、というか後から二番目なのであと三十分近くしたら呼ばれる。もうすぐ、今日の実技試験が終わるのだ。
『ここまでで、明日注意しなくちゃならない相手はいたか?』
『うーん。皆魔力量はあっても魔法技術はそこまで高くないからね』
まぁ、そりゃあそうだ。そもそも、その魔法技術を高めるためにここにきている子が殆どなのだ。
というか、ライゼは魔法技術は高いが、『くだらない魔法』とされている魔法を一つでも多く扱いたいがために、それらの魔法が記載されている魔導書を求めて王立図書館に入ろうとしている。
普通の役に立つ魔法は王立図書館の書物にも記載があったのだが、役に立たない魔法の書物はそもそも書く人も発行する数も少ないので、ここらへんだと王立魔法学園にしかないのだ。
あとは魔法を熟知している講師たちに専門的な魔法学を学びたいと思っているのである。基礎的な技術を目的にここに来ているわけではないのだ。
なので、基礎部分がまだまだ疎かな子たちに注意するも何もないのだが。
『けど、武術専門とか、武術を混ぜてくる子の強さはまだわからないからね。それに、手を抜いている感じの子も何人かいたし』
『まぁ、そうだが』
実技試験が後半になっていくに連れて質のいい服を来ている子供たちが増えてきた。というのも、彼らは貴族である。
実技試験の順番は主に筆記試験の順位を参考にして作られている。まぁ、ただ、ライゼが後から二番目であることから分かる様に完全に順位に沿っているわけではない。忖度というものがあったりする。
と、まぁ、それは置いといてライゼを除いた残り五人は、身なりや居ずまいからして貴族である。というか、貴族以外であれだけの風格を出せるのかが気になる。
放出される魔力も大きく、また多少なりとも洗練された質があるのでここら辺から明日の対戦相手として頭に叩き込む必要がある。
なので、二時間という時間に退屈していたが、ここからは楽しめそうである。
それはライゼも同じで、〝
『楽しみだな』
『うん』
ライゼは無表情を装いながらも心では楽しそうに頷いたのだった。
そして、ライゼの期待に答えるように次の子が呼ばれる。
「ハイネ・ブラウンさん」
「はい!」
ライゼの二つ前に座っている子が呼ばれた。横二列、縦十五列である。
呼ばれた子は大きな木製の杖を持っている。また、ふんわりとした茶髪は歩くたびに靡いていて、お嬢様感が凄い。
初めてあんな感じのお嬢様を見た気がする。
久しぶりにファンタジー感を味わっている。
『ヘルメス、大丈夫? 変な思念が混じるんだけど』
『……す、すまん。つい、興奮して』
『ふーん』
ライゼは不審そうに思念を発しながら、ハイネという子の試験を見ている。
『魔力量は予想通りか』
『うん』
水晶によって測られたハイネの魔力量は、俺達が放出される魔力から推測した魔力量と同じだった。俺達が気づかないレベルで隠蔽をしていることはなさそうだ。
そして、魔法実技だ。
「最初に一般攻撃魔法をあの的に」
「はい」
ハイネは十メートル先の案山子に向かって、杖を向け、そして魔力を収束させていく。
「〝
収束した魔力はその言葉と共に実体を持ち、案山子に向かって放たれた。そして勢いよく放たれた魔力弾は、案山子を貫いた。
おお、今までの子は当たりはしても貫かなかったのに。
ようやく、あれを貫ける子が出てきたのか。
まぁ、けど。
『魔力のごり押しだな』
『うん、そうだね。だけど、あれだけの魔力があればそのごり押しすらも武器になるよ』
『確かにな』
技術もへったくれもなく、必要以上に魔力を注ぎ込んだからこそ、ハイネが放った〝
そして、その余分な魔力を消費しても彼女の魔力は全くもって減っていない。百分の一程度だろうか。
かなりの魔力量である。
と、ここで〝
魔力の収束と実体化、そして位相指定と射出指定の技術を測るには分かりやすい魔法であるのだ。
だけど、測れたのは魔力量だけである。収束や位相指定はあの杖が大幅に補助していたし、実体化と射出指定は魔力でごり押ししていた。
それに〝
けど、ライゼの言う通り魔力のごり押しも一つの武器になるので、油断は禁物である。
それから幾つかの魔法が指定され、ハイネはそれを杖の補助と魔力のごり押しでことごとく突破していった。
けど、試験官である老人とエルフが評価シートを書いている手元を見る限り、減点はされているだろう。
最初らへんは本当に暇だったので、老人たちが評価シートに記入する動きから、どの動きが加点なのか減点なのかを解明することに成功したのだ。
そして、俺がそれを伝えなくてもライゼはそれ見抜いていた。
ライゼはある程度の指標を把握したのだ。
それからハイネの実技試験が終わり、また、ライゼの前の三人も無事終わった。
そしてライゼの番である。
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