Final ──決勝──

 3番手に下がったヴァイオレットガールも黒い瞳でディスプレイを凝視し、没入する。

 前をうかがいつつ、後続のカール・カイサのラインもさりげに潰す。ミラーがあるとはいえ、まるで後ろに目があるかのように。

 さらに後ろ。5位6位に、7位の龍一。

(急がないと離されるぞ)

 と自分に言い聞かせる。優佳はステディな走りをといったが。

(思ったより調子が戻った)

 いけるがままにゆく。まだいけるは危ないというが、勢いに乗れるなら乗るべしだ。

「まあこの順位でもフィニッシュすれば上出来なんだけどね」

ソキョンは龍一の健闘を素直に認める。プロ初参加の試合が世界大会で、7位フィニッシュでも十分好成績だし。契約も更新させられる。

 それからトップ4の順位の変動はなく、膠着状態で周回をこなしてゆく。5位6位7位も同じように膠着状態で周回を重ねる。と思われたが。

「いくぞ」

 目の前には前車のテール。最終コーナーを抜けメインストレート。スリップストリームに入る。

 もちろん前も必死に抗う。それの左側に並ぼうとしたが、進路を塞がれる。後ろの様子を見て危険がなければ進路を塞ぐのは妨害ではない。

 途端に龍一は素早く走行ラインを変更し、相手の右側に着けた。

「Shit!」

 6位の選手は唸る。フェイクだった。左に行くと見せかけ誘導し、進路の空いた右側に飛び込む。これもレーステクニックのひとつだ。

 その場面が映し出されて。龍一は6位に順位を上げ、5位に張り付いて第1コーナーに飛び込む。

「やった!」

「いける、いける、頑張って!」

 と思わず叫びながら言い、コスプレコンビもやんやの喝采だ。

 龍一の両親は呆気に取られている。

「あいつ、あんなに上手かったんだ」

「そ、そうね。知らなかったわ……」

 画面を眺めて、ぼーっとして。時折コーヒーや茶をすする。

 フィチの両親もお菓子や紅茶をおともに、息子の健闘を観戦する。

 アレクサンドラも、コスプレコンビも、その他、世界中の視聴者たちは、それぞれの気持ちを胸に抱いて画面に見入っていた。

「抜かれるぞ、なんとかしろ!」

「なんとかしようとしてるよ!」

 龍一に張り付かれた5位の選手はスタッフからハッパをかけられ、抜かれまいとなんとかしようとする。

(じっくりなんてしてたら離される、少々強引でも抜こう!)

 龍一は覚悟を決めた。連続S字区間を抜け、次のコーナーも抜け、最終コーナーでは遅めの、レイトブレーキングで追突しそうなほど接近する。その様は前車のミラーにしっかりと映り、焦りを誘う。

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