Final ──決勝──
フィチが2位につけ、トップをうかがっている。否が応でも期待してしまうというものだ。
アレクサンドラもディスプレイ越しに声援を送り。チャットにも書き込む。
その他世界中の視聴者がForza E World GPを観戦して、チャットにも思い思いの思いの丈を書き込んで盛り上がった。
突き抜けるようなモーター音がディオゲネスの市街地コースに響き渡る。それに交じってタイヤのスキール音や画面の中の観客の声援も響き渡る。
「いけえ……!」
龍一はどうにか1台抜いて9位に上がった。トップ集団は4台に絞られ、後続集団を引き離しにかかっている。
急がないと引き離されてトップ争いに絡めなくなる。
「しかし難しいな」
オンラインでマルチプレイも経験したことはあるが、やはりそれとは勝手が違う。ここにいるシムレーサーたちは世界トップクラスの腕前。どうにかひとつ上がったからといって、立て続けに抜き続けられるようなことはなく、前にしっかりラインを塞がれた。
後方でクラッシュがあった。二台が絡むダブルクラッシュだ。一発廃車レベルの損傷で、マシンが幻と消えてゆく。
それぞれの選手が同時に立ち上がり、互いに詰め寄り。慌ててスタッフが駆け寄る。
「てめえ、なに巻き込んでんだ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」
エキサイトし、言い合いになり。スタッフたちが慌てて諫めて。その効果かあってか、ふたりはどうにか落ち着き。
「ざっけんなよ」
とのジェスチャーを見せて、チームのスペースにゆき。ふてくされた表情で差し出されたドリンクを飲む。
コロナ過での試合参戦が出来た喜びもつかの間、不本意なかたちでリタイヤはさぞ無念だろうが。
これもまたレースの一場面だった。
20台以上のマシンが走っているのに、視界はクリア。前には誰もいない。
ゼッケン7、ヴァイオレットガールはトップのみが享受出来る特権の、クリアな視界を見据えてひた走った。
後ろからゼッケン3のフィチが迫る。それにレインボー・アイリーンが迫り、またそれにカール・カイサが迫る。
(いい感じで走れてるじゃん)
レインボー・アイリーンはフィチのマシンのテールを見据え、無理に抜くよりもしばらく尾行することに決めた。
まだレースは前半。無理してクラッシュ、リタイヤほどつまらない終わり方はない。
それはカール・カイサも同じで、無理せずレインボー・アイリーンについてゆくことにした。
ミラーをちらっと覗けば、後ろとはいくらか距離もできている。なおさら無理する必要はない。
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