SCARLET TALE
福田琉魔
1-1「出会い」
共和国の北側にはヨーロッパ特有の薄暗い森が広がっている。
古から様々なおとぎ話の舞台とされ人間を不気味に誘う魔物や神秘の住みかとされてきた。
産業革命以来、様々な事象が科学的に証明されてから久しいこの時代においてもその不気味さは人を惑わす。
今日もまたこの森に惑わされてきたのか、一人走る姿がそこにはあった。
十代半ばくらいだろうか、まだ少年と呼ばれてもおかしくないあどけなさを残している。
服装は、カーキ色のいわゆる軍服を着ていて、頭には重そうにゴーグルのついたヘルメットを被っている。
よく見れば肩に機甲部隊を表すキャタピラーのモチーフと、義勇兵を表す赤色で少年の所属しているのであろう、師団番号の7が描かれた部隊章が貼られている。
「はぁっはぁっはぁっ…」
よっぽどの距離を走ってきたのだろう汗が顎から滴っている。
途中なにかに気付いたのか後ろを振り返る。
「ああ、くそっ!」
かすれた声で悪態をはたく。
茂みの向こう側にフィールドグレーのヘルメットが見えた。
プロセイン帝国の斥候だ。
こちらに向かってじりじりと距離を詰めている。
居場所がばれるのも時間の問題だろう。
「ダニエルのやつめっ」
少年は彼を義勇軍に誘った悪友を恨んだ。
「一緒に勲章もらおうぜ」と兵員募集のポスターを高らかに掲げてやってきたダニエル、つい13時間前の彼ら初陣にて少年の目の前敵の火炎放射を浴びて丸焼けで死んでいった。
少年は乗っていた戦車の潜望鏡越しに見えたその様子を思い出しては何度も嗚咽しそうになるのを堪えた。
「こっちだ!」
すぐ後ろから帝国の公用語のプロセイン語が聞こえる。
かなり疲れているのか、いつの間にか近づかれても気づかなかった。
足がもつれてきた、もはや気力だけで走るしかない。
しかし、その気力も尽きてしまったのか、木の根に足をとられて転んでしまう。
「とまれ!動くな!」
とうとう追いつかれてしまった。
顔を上げると目の前にヌッとマシンピストーレの銃口が現れる。
手を頭に回されてポケットの中を調べられた。
少年よりも図体のでかい大人二人、相手に隙はまずない。
あの捕虜をとるほうが珍しいことで有名な帝国兵だ、ポケットにもろくなもの入
っていない。
いつ用済みとなって殺されるのかと思うと逃げていた時とは違う汗がにじんでくる。
「こいつなんもいいもん持っていねぇ」
突然どつかれた、自然と跪く姿勢になってしまう。
「なあ、確か捕虜収容所にあきなかったよな?」
「ああ、ここで殺っちまっても誰も文句はねえ」
少年の顔が真っ青になる。
プロイセン語なんて覚えなければよかったかもしれない、いや例え言葉が分からなくても相手が自分に何をしようとしているのかは容易に想像できるだろう。
向けられた銃の安全装置が外すれる音が響く。
最後に少年が悔いることは、いくら気の許せる友人に誘われたとしても、気軽に戦場に行って英雄になろうとなんて思うんじゃなかった、ということだった。
少年がギュッと目を閉じて最後の時を待っているとき、
ブボーーーンボボボボッ
どこからともなくエンジン音が響きだした。
「戦車だ」
「どこからだ?」
すぐ近くの茂みのむこうから聞こえてくるらしい、その場にいた全員に緊張が走る。
戦車はかなりのスピードを出していたらしい、その姿が突然見えたらあっという間に目の前を通り過ぎた、と思ったら木に激突してやっと止まった。
帝国兵はというと、あまりの速さに対応できなかったのか戦車にひかれたらしくキャタピラーの下にしっかりと二人分のフィールドグレイの布地に包まれた手や足の一部がのぞいている。
少年はその光景をただ唖然と見ている事しかできなかった。
その戦車はどうやら友軍らしい、少年が乗っていたのと同型の巡行戦車だ。
砲塔の横には義勇軍の識別マーキングと砲塔にスカーレッドの花の絵が描かれている。
「あちゃー、またぶつけちゃったぁ」
戦車の中から女性の声がする、しかも若い。
外から様子をうかがっていると、操縦士ハッチが開いた。
中から戦車を操っていた本人が現れる。
戦車の主は戦場には似つかわしくない美少女だった。
年は少年と近いのだろう、丸縁メガネをかけているが、まるで童話に出てくるお姫様のように整った顔立ちでヘルメットからは透き通るようなな金色の髪の毛がはみ出ている。
少年が見とれていると、少女は誰もいないと思っていたのか、こちらの存在に気付き少し驚いた表情を見せるがすぐに味方だと気づいて微笑みをうかべた。
そして口を開いた。
「ちょうどよかった、君、戦車兵でしょ、ちょっとてつだってくれない?」
SCARLET TALE 福田琉魔 @FKUDARUMA2002
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