武蔵野市・都市伝説伝 コートを着た男編

DITinoue(上楽竜文)

第6夜 スワンボートと女の声

 「基博~、どう?私のファッション。ステキ?」

「おお、美三子、すごくカワイイぞ!」

会社員、広川基博と、中野美三子は、現在結婚生活をしている。2人は、

中学生の同級生で、それから恋が芽生えた。今日は、2人の結婚記念日。

桜がきれいで、ジブリ美術館もある井の頭恩賜公園へ来ていた。

「ねえねえ、基博、そういえば、ここにある、井の頭自然文化園で、何か

起きたって噂があるけど。怪しい新聞記者だとか―—―」

「おい!美三子、せっかくのめでたい日に、そんなこと言うなよ!」

基博は、怒鳴ってしまう。

「まあいい。それより、ボート乗りに行かないか?楽しそうだし」。

「それいいわね!!絶対楽しいわ!」

 2人が楽しい結婚記念日を過ごそうとしているとき、コートを着た男が桜並木を

歩いていた。

「マニピュレイトヒューマンがあるとは。一体どういうことだ?武蔵野市で、まだ

都市伝説がたくさんあるような気がするのだが。一体なぜだ――?それより、あの中多雷太という人物、なぜあのペンを――?」

 同じころ、新聞記者がコートを着た男と反対側の土手を歩いていた。

「俺はムサシさまを都市伝説界の絶対王者にするためにぃ――!!」

そして、池の中で女の声が聞こえた。

「またもやカップルがやってきたではないか――ああ、悔しいのう」。

 2人は、ボートに乗っていた。かわいいスワンボートだ。先程基博が怒鳴ってから

2人に距離が開いていた。そして、事件は起こった―—―

 ドボン! 白鳥がうごめく池に水しぶきが上がった。美三子は、池の中で必死に

手を伸ばしながら、もがいていた。

「ちょっと、助けてよぉ~!私泳げないのぉぉ――!!」

そして、何とか池から這い上がった。

「ちょっと基博!何やってんの!私のカワイイワンピが台無しじゃない!

ひどいわ!」

「なんで俺のせいなんだよ!俺は普通にこいでいたぞ!お前が勝手に落ちたん

じゃないか!」

壮絶な夫婦ゲンカが始まった。ああだこうだ、もめてもめてもめる。

「ひとまず、嫁が池に落ちたのに、助けに行かないなんて、あんたってサイテー!」

「俺は最低な男じゃねえ!はっきりいって、必死にこいでお前がおぼれている方に

行ったぞ!もういいぜ!絶交だ!!」

そして、2人は、スワンボートから降りて、別々の方向へ向かっていった――。

 「うん?何やら匂いがするな?ひと騒ぎありそうな感じだぞ?この感じ――」

あのコートの男がふと何かを感じたようだ。瞬間的に池を見る。先程、美三子と

基博がスワンボートに乗っていたところだった。

「私はやる。行け、者ども・・・!別れたのなら後はこっちのものじゃ!」

池からは、不気味な女の声が聞こえた。そして、木々からガサガサと音が聞こえた。

 (もう、基博のやつ!何なのよ!)

美三子は、公園の外へ歩いていた。そこに、あるものが目に留まった。あそこで、

誰かが弁天様を祀っていたのだ。その人は、コチラを見た。赤く光った鋭い目で。

「ヒャ~!あれ何?何?何?何?何なのあれ?!」

そして、必死に逃げた。だが、そこには、着物を着た女と見るからに怪しい男たちが

コチラを見ていた。その目は赤く光っていた。

「わしは、仲良くしているカップルが許せん。実に憎い。やれ、皆の衆——!」

人がにぎわう公園で、1人の女性が煙のように消えた―—―。

 「また遅かったか。くそっ、また犠牲者が――。弁天様の嫉妬心は恐ろしい」。

新聞記者は、持っていたペンを池へ向けた――。そして、もうここでは、何も

起きなくなった。だが、別の場所では、ちらほら事件が起きていた。この公園は

関係ない。だが、なぜこのようなことが起きるかは、弁天様に聞くがいい。

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