15 コラボ配信
「ごきげんよう、レイフ・フェイク=リベリオンだ。今日も集まってくれてありがとう」
いつものように配信の挨拶を始める。
チャット欄にはこんレイフの文字が並んでいた。
「今日は今勢いのある新人VTuberのシオンとのコラボだ。バズったことで知っている人も多いかと思うが、シオンはお嬢様のVTuberで特技は射撃だそうだ。僕と共通点の多いVTuberだと思い、今回誘うことにした」
サイコパスお嬢様と怪物貴族のコラボか、これは確かに相性がよさそうだというコメントが飛び交う。
……そう、僕は怪物貴族とリスナーからは言われている。
24時間カラオケ配信をクオリティを一切崩すことなく隔日で行ったことによって、リスナーから完全に怪物認定されてしまったのだ。
他にも睡眠時間が存在しないようなスイートの投稿頻度や個人勢とは思えない動画の投稿頻度によってそれが補強されていき、マルチタスクも行える無敵キャラという認識が完成されてしまった。
まあそういうわけでサイコパスお嬢様であるシオンとは図らずも互いに良い相性のキャラになってしまったというわけだ。
「みなさん初めまして、シオンと申します。本日はよろしくお願いしますね」
シオンの挨拶に続ける。
「お互いの特技が射撃だということで、今回はFPSのゲームで遊ぼうと思う。みんなも良く知っているSNIXだ」
SNIXとは大人気バトルロワイアルFPSゲームだ。
スナイパーとして潜み、対戦相手たちの一撃必殺を狙っていくゲームである。
接近戦はナイフのみであるため、スナイプするかナイフで殺すかの二択しかないシンプルさがウケているらしい。
おかげでSNIXの実況配信を主に行うVTuberはかなり同接人数が伸びている。
リスナーにもゲームが上手いVTuberにはSNIXの実況を期待する人が多い。
事実、今ここのリスナーもSNIXをプレイすると宣言した瞬間に沸き立った。
「みんなの反応が良くて嬉しい。じゃあさっそくやっていこう」
「はい、よろしくお願いします」
ゲームを起動し、オンラインマッチに参加する。
すぐに試合が始まった。
SNIXの試合は2人1組の30チームが生き残りをかけて争われる。
それぞれが均等に散らばるようにフィールド上に配置され、有利な場所や隠れるのに適した場所を探し、射撃を行っていく。
当然占拠すると有利な場所には多くのプレイヤーが集まり、ナイフでの接近戦や占拠しようと戦うプレイヤーたちを遠くから狙う射線が集中する。
いかにして生き残り、一方的に撃てる優位な状況を作れるかという立ち回りが非常に重要なゲームなのだ。
「最初は僕がスポッターをやるのでシオンはスナイパーを頼む」
「わかりました」
2人1組のうち、一人は狙撃手(スナイパー)、もう一人は観測手(スポッター)を担う。
スナイパーは良く知られている通り遠くの敵を悟られないように狙撃する役だが、通常遠くの敵を打つ際に必須となるスコープは狙撃することによってぶれてしまい、狙撃に成功したか分からなくなる。
スポッターはそういったスナイパーの狙撃の結果を見極める重要な役割を担うことになる。他にも索敵や近接への備え、狙撃対象の座標をスナイパーに伝えるなどやることが山積みな役回りなのだ。
「この地点を拠点にしよう」
「わかりました」
選んだのは激戦区だ。
占拠できればかなり優位に試合を進められる地点ではあるが、逆に言えば敵が殺到する地点でもある。
腕に覚えがないと通常は推奨されない立ち回りではあるが、僕達は違う。
「敵発見。座標はこれだ」
「了解」
スニーキングをしながらシオンが撃つ。
スナイパースポッター共に1発ずつで仕留めた。
チャット欄が沸き立つ。
そしてそのまま敵がいないことを確認し、一気に拠点を築いた。しかし……。
「やばい。囲まれてる。6組いるぞ」
2対12というかなり危機的な状況へと変わる。
優位性のある地点を取れているとはいえ、同時に敵にやってこられると数の差が厳しい。
「座標を送ってください」
シオンが冷静な声で促してくる。
全ての敵の座標を送り終わると、装備をナイフに切り替え飛び出した。
「片付けてきますね~」
楽しそうな声でそのまま拠点から駆け下りていく。
そしてそのままアハハハと笑いながら敵を切り刻んでいった。
「ヒエッ」
「やばいお嬢様きた」
「これはサイコパス」
シオンに恐怖するコメントが流れていく。
みんなシオンのことを気に入ってくれたみたいだ。
「シオンあちらから狙っている敵がいる。注意してくれ」
「了解です」
遠くからシオンを狙っている敵が数組いるのでマーカーを付けて知らせておく。
そのまま少しでも減らしてやろうと武器をスナイパーライフルに切り替え、スコープ無しで打ち倒していった。
「シモヘイヘかよ」
「スコープ付けずに一撃で倒していくの化け物だな」
「レイフ君は怪物定期」
僕を怪物扱いするリスナーも通常営業だ。
敵にしてみたら瞬時に一掃されていくのだから理不尽極まりないだろう。
正直チーターと言われても僕の存在自体がチーターみたいなものだから文句は言えない。
「はあ~楽しかった。全員処理してきましたよ~」
朗らかに笑いながらシオンが拠点に帰ってくる。
返り血で真っ赤になった彼女の体とその表情が全く似合わない。
「こっちこないで」
「清楚デスネ」
「アラ、オウツクシイ恰好ダコトデ」
リスナーたちもそのギャップに喜んでいるようだ。
やっぱりサイコパスお嬢様は最高だな!
「残り5組となりました」
周囲の敵を一掃し、一息ついたところでアナウンスが響き渡る。
そろそろゲームも佳境に入ってきたようだ。
「一気に畳みかけよう」
こちらの拠点に敵がいないか移動して様子を窺いにきた敵の座標をシオンに送りつつ、二人でスナイプしていく。
反則だろというコメントを受け流しながら次々と倒していき、残り一組となった。
「どこにいるんだろう」
「近くにはいるはずなんだけどな」
SNIXの試合は時間経過ごとにフィールドが狭くなっていく仕組みだ。
残り二組となるころには視界内に収まる範囲までフィールドが狭くなる。
つまり最後の一組もすぐ近くまで接近してきているはずなのだ。
「──ッ! 真下だ!」
遮蔽物を使って交戦中に上手くすり抜けてきたのだろう。
気付かれたと判断した敵が装備をナイフに持ち替えて、一気に駆け上ってくる。
こちらもナイフを装備し、間一髪で登りきる前の相手の頭を二人でめった刺しにした。
「チャンピオンが決まりました」
YOU ARE THE CHAMPIONの文字がデカデカと表示され、豪華なBGMと共に勝利のアナウンスが流れる。
「やったー!」
「危なかったな」
喜ぶ僕らとは逆にチャット欄はドン引きだった。
「いや、頭めった刺しって」
「相手可哀想」
「これが怪物とサイコパス」
「喜ぶな、人が死んでんだぞ」
いやこれ殺し合いのゲームだろ……。
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