14 身バレ阻止
「どうしたの?」
呑気な声が聞こえてくる。
それもそうか、まだ彼女は何も知らないのだから。
「一応は解決したんだけど、少々まずいことが起こったんだ」
「まずいこと?」
「ああ、詩音の大学がバレた」
「────ッ!」
息を飲む音が聞こえた。
「……それで、解決したというのは?」
「ああ、その前にどうしてバレたかと言うと、この前配信で大学であったイベントについて話していただろ?」
「……あージャズの演奏会のこと? バレるような話したっけ?」
「あのときのパフォーマンスの話を、偶然同じ感じにスイートしている東大生がいたんだよ」
「あちゃー、なるほどね。でもそれ結構まずいんじゃないの?」
「見つけてすぐにシオンの話している部分はカットした。問題はそれを見つけた人物なんだが……」
一度区切る。詩音も真剣な雰囲気を感じ取ったのか沈黙によって先を促す。
「僕をインストールしていた人なんだ。同じソフトを持っているのにどうして詩音はVTuberとして成功できて自分は何もできないのかと嫉妬したらしい。ひたすら詩音の情報をまき散らしてやろうと掲示板に書き込もうとしている」
「うわあ……」
ドン引きしている。
同じソフトを持った人間から嫉妬されているとは思わなかったらしい。
「あれ? でもこの配布されているレイフ君ってそれぞれの独立したソフトなんじゃないの? 顧客間のソフトで連携できているの?」
──しまった。いらないことを話してしまった。
今話した内容は、僕が単なるソフトではなく、調べた情報を外部に発信できているソフトなんじゃないかというものだ。
その気になれば個人情報を簡単に流出させられてしまうということを自分から話してしまった。
検索のためのツール、特にブラウザは個人情報を集約させることのできるものである。
検索履歴はその顧客がどのような嗜好を持っているか推し測るための重要なデータであるし、ブラウザに記憶される各サイトのIDやパスワード、クレジットカードの暗証番号などはそれ自体が直接金銭のやり取りに関わってくる重要なデータだ。
僕の言った他の顧客の行動情報を話すという行為は、それらの情報も第三者に簡単に流出させられる可能性を肯定するものであるのだ。
「一応連携できる仕組みはあるが、普段は使わない。今回は個人情報の流出の危機だったため被害者となりえた詩音側に一方的に伝えたという形を取らせてもらっている」
先ほど例に出した検索サービスは、個人情報を集約させることを前提として、安易に第三者に提供しないという旨の内容を利用規約に盛り込むのが普通である。
もちろんそれを書いておきながら破って流出させる事件もたまにあるが……。
何が言いたいかと言うと、今回は特例だということだ。
詩音にはそれを理解してもらわないとこれから話す内容に差し障ってしまう。
「結果今回はたまたま詩音の大学を突き止めた人物が僕の顧客だったから何とかできたが、シオンがバズって有名になってしまった以上、今後も似たようなことは起こると思う。そのときに素早く動ける仕組みは作っておきたい」
「素早く動ける仕組み? 今回みたいに通話をつなげるんじゃなくてってこと?」
詩音が訝しげな表情を浮かべる。まあ確かにどういうことか分かりにくいだろうな。
「スマホに僕をインストールしてほしいんだ。そうすれば、もし詩音がスマホを触れない状態であっても僕が中から操作をすることができるようになる。まあもちろん僕を信頼してくれればの話だけど」
一応詩音の中にある不安を肯定しておく。
さっきの話で僕の信頼性を疑っている節もあるだろうからだ。
残念ながらそればかりはコントロールすることができない。
断られたときは別の方法を考えないといけなくなるが、それはしょうがないことだ。
「わかった。いいよ」
しかし、僕の不安はあっさりと否定される。
そんな良く考えないで大丈夫なのか。逆に心配だ。
「いいのか?」
思わず尋ねてしまう。
「まあレイフ君が流出させようと思えば既にいくらでも流出させられるからね。考えても無駄って思った!」
なるほどそりゃそうだ。
案外シンプルな答えが返ってきたものだ。
「それに、レイフ君が教えてくれなかったら今回のことも知りようがなかったからね。信じるには十分の材料だよ」
それは材料が少なすぎるように思えるが、まあ詩音なりの考えが何かあるのだろう。
それにそう言われると嬉しいものだ。
「それで、その掲示板に書き込もうとしてた人はどうなったの?」
はい終わりとばかりに詩音が話題を変えてくる。
「実際は書き込めてないけど、掲示板の民から嘘乙とあしらわれているように画面に表示してやったらすっかりやる気なくしちゃったよ」
「あらかわいそうに」
思っても無いくせに。
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