第十九話 トカゲ②

「ふ〜んふんふんふん、ふふふっ♪」


 目覚めの風呂に入るように服を着たままマグマに浸かり、まるで温泉に入っているような心地よさについ表情も緩くなり鼻歌を歌ってしまう。


「マグマには久しぶりに入ったけど、相変わらずいい熱さだ」


 手でマグマをすくい、バシャバシャ顔を洗いながらついでに胸元や腰回りの服を少しはだけて中にマグマを入れて全身くまなく洗う。

 ウルカから支給されたこの服は熱に強く、寒さにも強く、衝撃にも強く、風通しもよく水を浴びてもすぐ乾き、汚れもすぐ落ちるし、他にもウルカ曰く、『万が一ブラックホールに吸い込まれて死んだとしても服だけは無傷で残る安心設計や⭐︎』とのことなので、マグマ風呂でも燃えることのなく脱ぐ必要もないから便利だ。


「トカゲのをボコりに行くのはマグマに浸かってからにするか〜」


 気の抜けた声でリラックスしながらゆったりしていると、マグマの底から上がってきた小さな泡が体に当たり、まるで炭酸風呂に入ったような心地いい感覚が全身を襲った。


「あ〜〜しゅわしゅわする〜〜。

 このマグマ、自然の炭酸風呂機能まであるのか。これはいいな。毎日入っていたいもんだ」


 うーーんと体を伸ばし、炭酸マグマ風呂を満喫していると、時間が経つにつれ上がってくる泡の量が少しずつ大きくなってきた。多少の泡なら気にせず湯に浸かっていたのだが。


「おいおい」


 気がつくと、風呂というより最早泡のトランポリンに乗っているかのようにぽこぽこ巨大な泡が上がってくるようになり、リラックスする気分どころではなかった。


「急に大きくなったな。この下で噴火でもあったのか?」

 

 原因がなんであれ、いい加減そろそろ鬱陶しいと感じていたので拳で解決しようと思い、私はマグマの中に潜る。

 マグマの中は相変わらず水より粘り強く視界も悪くて泳ぎにくかったが、10秒も泳いでいると体が環境に適応し、視界も地上と変わらないくらいクリアになり、最早空を飛んでいるのと変わらない感覚で泡の出どころを探しながらどんどんマグマ深くへと進む。

 ちなみに私はいつ自分がこんな体質になったか忘れたが、水中だろうが宇宙空間だろうが関係なく生存できるようになっていたので、人間に必要な息継ぎ無しでも大丈夫だ。

 おそらく数十キロくらいは進んだだろうか。マグマの底から突然奇妙な鳴き声が聞こえてきた。


「グロォォォォォォ!」


「あのトカゲに似た変な鳴き声だな。まさか、私以外にもマグマで生存可能な生物がいるのか?」


 そんな生物私以外に見たことも聞いたことも無かったが、鳴き声はちょうど泡の出どころと同じ場所から聞こえたので、好奇心がてらその場所目指して進むこと数十分。ついに鳴き声の主らしき生命体を見つけた。


「本当にいたよ。しかもトカゲが」


 視界に映るのは、あの地上にいたトカゲより一回りも二回りも巨大で、マグマの中にいるのに真っ赤で尖った羽が左右に4枚生えている、全身が火山帯のように赤々しいトカゲだった。


「動くたびにボコボコ泡出てるな。コイツが原因だったのか。そうと分かれば、一発殴って大人しくさせるか」

 

 気がつかれる前に殴ろうと思いゆっくりトカゲに近づく。が、トカゲは私が近づいてきたことを察知したのか、私のいる方へと首を動かし、地上にいたトカゲよりも巨大な目で私を捉え、親の仇を見つけたかのように目を鋭くして睨んできた。


「はぁ。このトカゲも地上にいたトカゲもゴリラどもと変わらないな」


 おそらく初めて出会っただろう人間に対しての反応がゴリラとトカゲでまったく同じという事に、私はため息を吐きながら「やれやれ」と呆れていると、トカゲが欠伸をするように大きく口を開き、そこに親の顔よりも見たあの光が集まっていく。


「ほおー、これはなかなか。地上のトカゲとは迫力が違うな」

 

 視界が光一色になるくらい巨大に膨らんだ光は、トカゲの口からはみ出るくらいまで溜まってすぐ、初対面の私へと殺意マックスで放たれた。


 が。


「二度目はないぞトカゲ」


 目測でおそらく100階建てのビル程ある巨大な光に対し、こちらはデコピンを放つ。

 光に私の指が少しでも触れた瞬間、巻き戻されたように光はトカゲの元に帰っていき、最後は口の中に入ってまるで火山が噴火したかのような威力で内部がドカンと爆発した。


「グオオッ――!」


「その光はもうお腹いっぱい味わったから返すぞトカゲ。せいぜい味わって食べろ」

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