第二十話 地上
爆発でトカゲの全身から血は流れないものの、その体はジュウジュウと周囲のマグマでさえ沸騰させるくらいの熱を帯びるようになっていた。
「グロオオオッ!」
熱で更に真っ赤になった2枚の羽が伸び、私の左右に展開し、押し潰したいのか幅を狭めてきた。
羽の一枚一枚が山のような大きさだが、それを覆う鱗には剣のように鋭いトゲトゲがいくつもついており、触れるだけでもゴリラなら簡単にすり潰されてしまうだろう。
だが私はゴリラではなく、むしろゴリラを食べる側なので。
「鬱陶しいな」
羽がぶつかり、太陽に熱せられた砂の壁に押しつぶされるようなザラザラする感覚が襲う中、私は左右の羽をそれぞれ壊すように殴った。
すると殴られた羽に大穴が開き、それだけでは止まらず衝撃が根本まで届き、2枚の羽は手で千切ったようにブチブチと引きちぎれ、マグマよりも赤い血が流れる。
「グオオオオオオオオオオッ――!」
悲鳴で周囲のマグマが茹り、トカゲが体を車輪のように回し、尻尾が上から落ちてきた。
私は山のような尻尾に叩かれ、音速を超えるスピードでマグマの奥深くまで落ちていき、クルリと重力が反転するような感覚とともに大地へとめり込んだ。
「なんで大地が真上に?」
体を引き抜き、「まあいいか」と大地を足場にして飛んできた方へと勢いよくジャンプした。衝撃で大きなクレーターができたが、ここへ飛んで来たスピードより早くトカゲの元へと戻る事ができた。
「お返しだ!」
スピードを殺さず、トカゲのお腹を両手で突っ張るように押した。
風船を押し潰すようにベコンと大きく凹みながら、マグマを巻き込みながら上へ上へと押し上げる。
「コイツいい硬さじゃないか。大地が苦もなく削れるから便利だな。『穴掘りトカゲ』と呼んでやる」
穴掘りトカゲで大地を削っていくこと数分。最後の薄い大地が削れてついに空が見えた。
「ありがとよ穴掘りトカゲ。これでサヨナラだ」
地上に辿り着き、最後にぐっと両手に力を込めながら上へと押し上げる。
すると噴火するような勢いで穴掘りトカゲはそのまま空の彼方、ついには大気圏を突破して宇宙空間まで飛んで行った。
私は噴き出したマグマをシャワーのように浴びながら、一仕事を終えたように「ふぅ」と一息ついた瞬間、空から目障りなあの鳴き声がキーーンと耳に鳴り響いてきた。
顔を鳴き声の方へ向けると、風船のようにプカプカ浮かびながら光を溜めているトカゲが視界に入る。
「さっきからうるさいぞトカゲ」
大地を蹴り、砕きながらジャンプし、一直線に空に浮くトカゲの腹に蹴りを入れた。
「カアッ!?」
貫通はしなかったものの、刃のない槍の先端で殴られたようにボコっと大きくお腹が凹み、口からキラキラ光る液体を出しながら、トカゲは背中から地面に落ちた。
「トカゲ。そんなデカイ図体してるのにもう終わりか」
「カロロ……」
苦しそうに項垂れるトカゲの腹に乗りながら、初対面でいきなりマグマに落としてくれた仕返しをどうしようか考えていると、トカゲの下、少し離れた場所から聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
「おーーい、クーロノーーー!」
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