第十七話 私とゴリラ

 ◇◇◇


 ――ゴリラってなんだろう。強靭な肉体で、さまざまな形態へと変形可能な腕で私達を心優しく森の中で出迎えてくれる優しい奴? それともつぶらな瞳で、森のあちこちからいつでも見守ってくれている優しい奴? それとも……ふふふ、もしかするとゴリラは皆、私達が大好きなだけの森の妖精なのかもしれないな。


「……こんなキャラじゃないはずなのに」


 血で濡れた体で、頭の消えたゴリラを袋に入れながら、思いついた自作のポエムに恥ずかしくなり、熱を帯びる顔を片手で抑えた。


「はぁ、これも全部ゴリラのせいだ」

 

 八つ当たり気味に呟き、空から赤い絵の具の雨が降った後のように、辺り一面真っ赤に濡れた大地を歩きながら数時間前の出来事を思い出す。


 ーーーーーー


 デコピンでゴリラを倒した私は、更なる強敵を求めて森の奥へと歩き始めた。のだが。


「ウゴォ!」


「またか……」


 うんざりするような顔持ちで見据える先には、鈍器のような物に変形した腕で私を殴りかかろうとしているゴリラがいた。そんなゴリラの腕へ、軽くデコピンを食らわす。


「ウガァアアァァ!」


 指が触れ、腕が木端微塵に吹っ飛び、仰向けに倒れながら痛みに苦しむゴリラ。可哀想に。

 慈悲を与えるように、素早くゴリラの顔面を殴り、この世から消し飛ばした。


「これで終わり――」


「ウゴッ!」


 ドスンと砂埃を立てながら、背後に新たなゴリラが落ちてきた。


「三頭目か……」


 今度は相手が動く前に先にノーモーションで後ろを振り向きゴリラの顔面を殴る。

 ボッと音を鳴らしながら、ゴリラの顔がこの世界から消え地面に倒れた。


「これで――」


「ウゴウゴ!」


「ウガァァ」


 また新たなゴリラが二頭、三頭、いや、数十頭もの数が次々と森の中や木の上から殺気を剥き出しにしながら姿を現し、光の出る砲門をこちらに向けている。


「なんで、この星にはゴリラしかいないのか」


『ウゴガァァッ!』


 リーゼントヘヤーでリーダー格のようなゴリラの合図で一斉に光が放たれた。

 私はため息を吐き、四方八方から撃たれた光をわざと全弾食らってみる。鎧姿の女を貫いた光だが、一度触れた事のある私は、光の熱さや感触にもう慣れていたので、体が光に対応し、少し温い水風船が当たったような柔らかい感触しか感じられなかった。


「ウゴッ!?」


 光を受けても何事もなかったようにその場に立ち尽くし平気でいる私に、リーゼントのゴリラが驚きそして。


「ウガァァァァ!」


 今度は腕をいろんな種類の鈍器に変形させ、数十頭ものゴリラが集団で獲物を狩るように襲い掛かる。


 が。


「消えろザコども」


 向かってくるゴリラを一頭一頭殴っては消し、デコピンしては吹っ飛ばしを繰り返し、一分後には頭の消えたゴリラの屍が数十頭地面に倒れていた。


「そろそろ強い奴が来ないかな」


『ウゴオオ!』


 森の中、木の上、周囲180度全てから数えるのも面倒な数のゴリラの大群が姿を現し怒ったように私を囲んでいた。

 おかしい。この星にはもしかしてゴリラしかいないのだろうか。


「ウボッ……」


「なんだコイツ。ピカピカ鬱陶しい」

 

 一番最初に襲ってきた、他のゴリラより一際大きく金髪で電気のようなオーラを纏ったゴリラの顔をデコピンで吹っ飛ばしながら、周囲から聞こえる怒号を無視して辺りを見渡す。

 だがやはりゴリラしか視界に入らないのでゴリラに疲れた私はもうゴリラ以外考えるのをやめた。

 

「ゴリラが一頭、ゴリラが二頭、ゴリラが三頭、ゴリラが四頭、ゴリラが五頭、ゴリラが――」

 

 単純作業の戦闘が繰り返しが続き、頭を吹っ飛ばしながら数えていく内に瞼が落ちそうになる。


「ふあぁぁ――ゴリラが百二十一頭、ゴリラが百二十二頭…………あれ? もう終わりか?」


 呼びかけるも返事が無い、私を中心に倒れているのは頭の消えた、ただのゴリラの屍の山だった。


「やっと終わったか。ふぁぁ……」


 羊を数える以上に眠気が強く襲ってきたので、私は近くにあった屍の山を枕がわりにして、血で染まったふわふわの毛並みに包まれながら安らかな眠りについた。

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