第十六話 黒髪美女

 目の前の地面に穴が空いた。

 

「ダメっす。もう逃げられない」


 剣を構えながらその時が来るのをじっと待つ。


「大口叩いてたのにピンチじゃない」


 背中から声が聞こえた。


「その声は……ペンタ殿! どうしてここに」


「ただの気まぐれよ。それよりここから離れるわよ『音飛びの術』」


 体を掴まれ、音速で竜の後ろ側へ移動した。


「ピンチだったから助けたよ」


 移動した先にはテオ殿とペピカ殿もいた。


「二人ともどうして」


「ムサミが心配だったからな」


「おいおいこの姉ちゃんの体あちこち腫れてるじゃないか。俺が治してやる『青狼の月』」


 青髪で男声のペピカ殿? が拙者の体に手をかざす。すると赤くなっていた部分から痛みが消え普段の肌色になった。


「痛みが消えた。ありがとうっす。ペピカ……殿?」


「おう。そういえばはじめましてだな。俺はブルーウルフの『青助』主人を守る神獣だ。以後よろしく」


「よ、よろしくっす青助殿」


 青助殿と握手した。

 この声でこの姿。慣れない。違和感ありまくりでなんだか変な感じっす。

 拙者の心を読んだのか、テオ殿とペンタ殿が拙者の左右の肩にそれぞれ手を置いた。


「ムサミ。お前の気持ちはよーーくわかるぞ」


「アタイも。最初は信じられなかったからね」


「それが普通っすよね。拙者だけじゃなくてよかったっす」


 拙者の言葉に頷く二人。こうして拙者達三人は同じ気持ちを感じる同士として少しだけ仲良くなった。


「おいそこの姉ちゃん達三人。今は戦闘中なんだが」


「カロロロロ」


 竜が体を回転させた。

 そして狙いはやはり拙者達のようで体をこっちに向けながら地上に降りた。


「くっ相変わらず恐ろしいドラゴンだ」


「俺もこんな化け物生まれて初めて見たぜ」


「でもアタイ達なら!」


 ペンタ殿が高速で竜の頭上に移動した。


「これでアンタは終わりよ『影切りの術』」


 忍刀を抜き、竜の影へ切り掛かるが。


「切れない。影なのになんて硬さなの」


「カロロ」


 空中で止まるペンタ殿に竜の羽がはたき落とそうと動く。


「やらせるか『メガインフェルノ』」


「『蒼天連続飛ばし』」


 テオ殿から出た炎が竜の顔を燃やし、青助殿から飛び出た青い爪が竜の羽に当たるが、炎は煙のようにすぐ消え、爪は全部羽に当たるも弾かれた。


「やはり効果はないか」


「俺の爪も全然きいてねえ」


 そうしてる間にも竜の羽が、ペンタ殿の体にぶつかり、我々が蚊を潰すように地面へと叩き潰した。


「ペンタ殿!」


「「ペンタ!」」


 潰された衝撃で地面に大きなクレーターが形成され大地が少し揺れる。


「そんな……ペンタ殿がまさか……黙祷」


「なに勝手に殺してるのよムサミ」


「あたっ」


 黙祷している拙者の頭を叩かれた。


「ペンタ殿。生きていたんっすね。じゃああの潰されたのは」

 

「『変わり身の術』の木よ」


「そうだったんっすね。リアルすぎて本物と思ったっす」


「そりゃどうも。でもやっぱりっていうか、あの竜やばいわね」


「拙者もペンタ殿と同じ意見っす」


「カロロロロ!」


 竜の口が開き、光が溜まっていく。


「やばいやばい。ペンタ、早くここから逃げた方が良くないか」


「俺もこの姉ちゃんの意見に賛成だ」


 テオ殿と青助殿の顔が青ざめる。


「そうね。ムサミも助けたことだし逃げるなら今ね。みんなアタイの手に掴まって」


 拙者、テオ殿、青助殿がペンタ殿の左手に掴まる。


「逃げるわよ。『音飛びの――」


 ドンッ! ゴゴゴゴゴ!


 突然すぐ近くで爆発が起き地面が揺れた。


「何今の爆破!?」


「姉ちゃん達。を見ろ!」


 青助殿の指差す先、そこに顔を向けると大地から溶岩が間欠泉のように噴き出していた。


「アレもドラゴンの仕業か」


 テオ殿が何故か拙者に聞いてきた。

 拙者は竜の顔を確認して。


「いや、おそらく違うっす」


 竜はあの溶岩を見て光を溜めるのを止め、拙者達を無視して羽を動かし空を飛ぶ。


「カアアアアア!」


 そして喧しく鳴き、溶岩の噴き出す方へと口を開けて光を溜めた。すると。

 

「さっきからうるさいぞトカゲ」


 何者かが溶岩の中から出てきて、地面が凹むほどジャンプして空を飛ぶ竜の腹を蹴る。


「カアッ!?」


 ボコっと大きくお腹が凹み、竜の口からキラキラ光る液体が溢れ、倒れるように背中から地面に落ちた。


「トカゲ。そんなデカイ図体してるのにもう終わりか」


「カロロ……」


 苦しそうに項垂れる竜の腹に立つ一人の女性。黒髪で体つきは美しく、『真江戸』で一番の遊女のような美貌だが全身から発せられる力は凄まじく底が知れなかった。

 

「あの竜に一撃喰らわせるなんて、誰なんっすかあの黒髪美女は」


「嘘、生きてたの」


「ペンタ殿?」


 黒髪美女を見るなりペンタ殿の顔がみるみる嬉しそうになり。ついには黒髪美女へ向かって笑顔で叫んだ。


「おーーい、クーロノーーー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る