第十四話 ムサミと竜
◇◇◇
「これからどうする?」
食事を終え、アタイはみんなに今後の方針を聞いてみる。すると真っ先に手を挙げたのはムサミだった。
「はいはい。拙者あの竜を斬りに行きたいっす」
「反対!」
「なぜっすか!」
「あの竜と戦ったら無事では済まなさそうだからよ」
「そんなのやってみないとわからないっすよ」
グイッとムサミの顔がアタイの顔スレスレに近づく。
「わわっ、近い近い」
吐息が伝わる距離だったので、普通の性癖であるアタイはムサミの肩を押して離す。そしたら今度はテオちゃんが手を上げ。
「『竜』というのはあのドラゴンのことか? なら我も戦うのは反対だ」
「テオ殿もっすか!?」
テオちゃんが反対したことで、ペピカちゃんも元気に両手を上げ。
「わたしもかてなさそうだからはんたいはんたーい」
「ペピカ殿まで!? そんな……」
ショックを受けるムサミの肩にアタイは手を乗せ。
「賛成1、反対3だから竜とは戦わないって事で決まりね」
「それがいい」
「さんせい」
アタイ達三人は納得するも、ムサミはアタイの手を肩から振り払い。
「拙者は納得いかないっす。あの竜と戦わずにこの試験に合格したとして、それで本当にいいんすか」
「いいんじゃない」「ああ」「うん。いい」
「腑抜けているっす。それじゃあダメっすよ」
ムサミが個人個人に「みんな戦おうっす」と説得を始めたけど、正直あの竜と戦うリスクより普通に狩をした方が安全だ。アタイも、テオちゃんも、ペピカちゃんもムサミの説得に応じることはなかった。
アタイ達三人に熱意が伝わらないとわかったムサミは悔しそうにしながら。
「もういいっす」
アタイ達に背を向けた。
「世話になったっす。あの竜とは拙者一人で戦うっす」
背中越しにそう言い、ムサミは森の中へと歩き出した。
「ちょっとムサミ。アンタどこ行くつもり」
「何度も言ってる通り、あの竜を斬りに行くんすよ」
「あんなのに一人で戦うって無茶よ。ただ無駄死にするだけだよ」
「死ぬのはあの竜っすよ」
ゾクッ!
「ふわっ!?」「ぬぅっ!」「きゃっ!」
全身を切り刻まれたような殺気がアタイ達を襲う。
ムサミの雰囲気が今までとは違う。ギラギラした目と全身から漂う雰囲気からして、まるで何度も命のやり取りをした死神のようだ。
思わぬ殺気に、暑くもないのにアタイの体中が汗だくになる。
ムサミ。只者じゃないと思っていたけどやっぱりとんでもない実力を隠してたようね。
「さよならっす」
殺気に飲まれたアタイ達三人は、森の中へと消えるムサミの背中をただ眺めることしかできなかった。
◇◇◇
「だいぶ歩いたっすね」
ペンタ殿、テオ殿、ペピカ殿と別れ森の中を歩くことおよそ一時間。時折揺れる地面に戸惑いながらも竜目指して拙者は歩いていた。
「蒸し暑いっすね。故郷の夏を思い出すっす」
竜に近づくにつれ、気温がどんどん高くなっているのがわかる。
暑さで体が水分を欲しがり、拙者は木で作った水筒で喉を潤した。
「ごくごく。プハッ。この星の水は美味いっす」
水分補給して灼熱の森の中を歩くこと数十分。やっと竜のいるだろう焼け野原となった大地と森の境目が見えてきた。
「あの先に竜がいるっすね」
刀の鞘に手をかけた直後、突然正面に太陽が現れた。
「なんっすかこの光は、眩しいっす」
ゾクゾクッ。
「!?」
皮膚が焼かれるような殺気と身の危険を感じ、拙者は刀を二本引き抜いた。
その時。
キュイーーーー!
正面から向かってきた光に、頭で考えるより早く体が動く。
「二神一天流『昇竜滝登り』」
熱をもった光を横から上へと受け流すように二本の刀で受け止める。
「うぐっ。重い、けど。うおおおおりやぁっ!」
両手に力を込め、まるで川の流れに沿うように光を上空へと受け流した。そのついでに暑いから熱波も斬っておく。
「まだ顔すら拝めていないかったのに、随分なご挨拶っすね」
上を見上げる。そこには今攻撃した主人である竜が焼け野原となった大地を見下ろしながら拙者を睨みつけていた。
「カアアアアァ!」
「いい殺気っすね。そうこなくちゃっす」
まだ出会ったばかりだというのに、あの竜は拙者を殺す気満々のようで殺気が全身から溢れていた。
拙者は二神一天流の基礎の基礎である仁王立ちの構えをしながら、挨拶とばかりに竜へと殺気を飛ばした。
「いざ、尋常に命をかけて拙者と殺しあうっすよ!」
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