第九話 魔王と幼女?


 で、今に至る。


 あの攻撃でネズミどもは全て消し炭になり、回収できたのは焼き焦げて残った馬どもだけだった。


「逃げた娘達からの感謝の言葉は嬉しかったな。我の星では感謝を述べる魔族なぞいないからな」


 我のいた星で我は『終炎の魔王』として、全世界から恐れられている。

 こう呼ばれるようになったのも、我の星で数十年前にあった『第二次勇魔大戦』で数百万もの人間を焼き殺したのが原因だ。

 大戦は魔族の勝利で終わったが、我の虐殺ぶりに今日までずーーっと恐怖の対象となっている。


「まあ我の星にある子供に人気のチェーン店。ケーキ屋『てーちゃん』のオーナーが我だとは誰にも知られてないし、しょうがないか」


 そう、我には戦闘以外でケーキ作りの才能があったのだ。

 この事は配下の四天王以外誰も知らない。


「この入隊試験が終わったらまたケーキを焼こうかな」


 森を歩きながら何ケーキを作るか考えていると。


「にゃ~」


 三本先の木の根元に一匹の子猫を見つけた。


「にゃ~」


「こんなところに子猫一匹だけ? 誰かの連れ猫か? こんな森にいたらすぐ死んでしまうから保護しないと」


 我は子猫の元へ駆け出した。


「そこの姉ちゃん止まりな!」


「!?」


 後ろから聞こえる渋い男の声で我は動きを止めた。


「誰だ……幼女?」


 後ろを振り向いたが周りを見渡しても男はおらず、いるのは青髪の幼女だけだ。


「そこの幼女よ、その辺に男はいないか?」


「いや、男はいないな」


「なっ!?」


 渋い男の声は幼女の口から出ていた。


「お前男か!? その見た目で!?」


 我のリアクションに幼女? は「男って俺のことか」と呟き。


「驚かせてすまないな姉ちゃん。今しゃべっているのはこの子に取り憑いた俺なんだ」


「取り憑いた? それは一体――」


「にゃ~」


 後ろから子猫の声が近づいてくる。


「っ、危ない! 姉ちゃん伏せていな!」


 幼女は自分の袋から猛獣の死骸を取り出し、我へ向かって思いっきり投げつけた。


「うわっ! いきなり何を」


 慌ててしゃがみ、死骸をギリギリでかわす。


 べちゃ。


 死骸は子猫の頭上、何もない空間にぶつかった。すると。


「ぎにゃああああああ!」


 不気味な鳴き声が聞こえ、さっきまでいた子猫が消え、地獄の化身のような巨大な化け猫が何もない空間から姿を現した。

 およそ3メートルはあるその化け猫は、怒り狂ったように口から鋭い牙を見せながらこちらを睨みつけている。


「なんだこいつは」


「この化け物は完全に気配を消し、さっきの子猫の姿で獲物を誘き寄せる厄介で非常に強力な猛獣だ」


「そんな奴がいたとは。そこの幼女よ、教えてくれてありがとう」


「お礼は後でいい。そろそろ襲ってくるぞ、構えろ姉ちゃん!」


 その化け猫は我と幼女? を交互に睨みながら剣のように鋭い巨大な爪を伸ばし。


「にぃぃにゃぁぁごぉぉおおっ!!」


 悪魔のように泣き、我達へと襲いかかってきた。


「『インフェルノウォール』」


「ぎにゃぁあう」


 炎の壁で化け猫の動きを抑えながら。


「燃え尽きろ『メガインフェルノ』」


「うぎゃにゃああ」


『インフェルノ』より強力な黄色い炎に全身包まれ、激しくもがく化け猫だが。


「ブルルルル」


 雨粒を落とすように全身の毛を振るわせて、化け猫を包んでいた炎と『インフェルノウォール』を弾き飛ばした。


「今度は俺の攻撃だ。くらえ『蒼天乱牙!』」


 幼女? の体格に合わない大きな青白い爪が幼女? の腕に浮かび上がり、高速で化け猫を切り裂いていく。


「うおおおっーーー!」


「ぎにゃああああっ!」


「うりゃっ!」


「ふぅぅぅしゃあああぁ」


「くそっ、相変わらず頑丈な化け物だぜ」


 幼女? の激しい攻撃は化け猫の体にわずかな傷をつけただけだった。


「にゃぎゃあああああああっ!」


 化け猫が鋭い爪を交互に動かしながら我と幼女を切り裂こうとする。


「くっ」


「うおっ」


 我も幼女? も化け猫の攻撃をかわした。


「『インフェルノソード』はああああ!」


 炎の剣で化け猫を斬る。


「ぎぃぃにゃああう!」


「か、硬い。なんだコイツの体は」


 鋼鉄を豆腐のように焼き斬る『インフェルノソード』の斬撃でさえ化け猫の体をわずかに傷つけ燃やすだけだった。


「姉ちゃん危ない!」


「にぁうん」


「うわっ!」


 化け猫の攻撃を避けられず我は吹っ飛んだ。


「姉ちゃん!」


「大、丈夫。奴の手にあたっただけだ」


 我は立ち上がり。再び『インフェルノソード』で化け猫に斬りかかる。


「援護するぜ。『蒼天連続飛ばし』」


 我が化け猫の爪を止めている間に幼女? の飛ばした爪がガラ空きの体に刺さる。


「んぎゃんぎょおお!」


「いいぞ幼女。くらえ、『メガインフェルノ』」


 黄色い炎が化け猫を包み込む。


「まだまだ。『メガインフェルノ』『メガインフェルノ』『メガインフェルノ』『メガインフェルノ』『メガインフェルノオオオオ』!!」


 今度は振り落とす暇もないくらい炎を浴びせた。


「にぎゃおおおおおおおあああああ!」


 化け猫は辛そうに炎から逃れようともがくが、我はその度に『メガインフェルノ』を浴びせていき。


「んぎにゃああああぁぁぁ……!」


 化け猫は黄色い炎から逃れられず、ついに力尽きて倒れた。

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