第四話 入隊試験開始
来て早々、なんだこの少女は。
「おっとすまない、自分は『ルーベスト・クール・スリカーラ少佐』だ。『スリカ少佐』と呼んでくれ。自分が今回の試験監督だ」
スリカ少佐は言い終えると同時に、右手を前に出し何やらブツブツと呟いている。
私は一見してそれが高度なエネルギーの操作だと気がついた。
「あのスリカ少佐とやら只者ではないようだな」
「そうだね。下手したらアタイよりも……いや、あのタイプの敵は接近戦へもっていけば――」
一人でぶつぶつ呟くペンタ。私は気になって声をかけた。
「どうした?」
「だけど忍術は危険そうだね。手っ取り早く刀で対処したほうが――」
「おい、聞いてるのか?」
肩を揺らすとようやくハッとなり。
「へ!? どうしたのクロノ」
「どうしたは私のセリフだ。一人でぶつぶつ呟いて何かあったのか?」
「あの……えと……な、内緒」
ベロを出し片目を瞑ったペンタ。なんだそのポーズは。
「それじゃあ転移するぞ!」
そんなやりとりをしている間にもスリカ少佐がエネルギー操作を終えたようだ。
「うっ、眩しい」
地面に謎の模様が浮かび上がり輝くと、周りの景色がどんどん変化していく。
――――――
「キキキ」「ピーピー」
視界が晴れ生き物の鳴き声が聞こえて来る、あたりを見渡すと全てが木……木!?
「よし着いたぞ。ここが今回の試験会場の惑星。『デスジャングル』だ」
『!?』
一部の女達はその名前を聞いた途端に動揺していた。
ですじゃんぐる? 一体どんな星なんだ? そうだ。ペンタに聞いてみよう。
「ペンタ。この星のこと分かるか?」
「えっ……うっううんさっぱり。アタイの情報にはない星だね」
動揺しながら、ペンタは降参のポーズをとっていた。
明らかに怪しいけど知らないって言ってるし。
周囲の女達もそのほとんどが動揺しているし。
うーんわからん。
「諸君はテーブルにある、これら一式を取りに来てくれ」
「テーブル?」
スリカ少佐のいる場所に、いつのまにかテントが建っていた。中にテーブルが複数あり、その上に片手サイズのボールと、同じく片手サイズの袋がセットで置かれてある。
ざっと見たかぎり数からしてここにいる人数分ありそうだ。
私はスリカ少佐の言う通り、テーブルにあるボールと袋を取る。
全員がテーブルにある物を取り終えると、まるで最初からテーブルなんて無かったかのように全て消えていた。
「全員取ったな。それじゃあ今回の試験内容を説明するぞ」
スリカ少佐は胸ポケットから四つ折りに折り畳まれた紙を取り出し、両手サイズに広げると。
「諸君らにはこの星で『猛獣の狩』をしてもらう。狩った獲物は手持ちの袋に入れてくれ。この袋はどんな物でも入れる事ができる。こんな風にな」
見本とばかり、スリカ少佐が持っていた袋を叩くと、中から巨大な生物の死骸が出てきた。サイズは10メートル近くありそうだ。
その死骸は腐ったりしておらず、まるで今死んだかのような新鮮な状態のままだ。
「この袋は改良されていて、ここの生物の死骸しか入らないようにしてある。この死骸も自分がこの星で数年前に狩った猛獣の死骸だ」
数年前だと? 今死んだようにしか見えないが。
「諸君はこの猛獣が死にたてで驚いただろう。種明かしするとこの袋の中は時間が動かないようにしてある。つまり収納すれば腐れることはないのでその心配はしないでくれ」
なんだそんな理由か。この袋便利だな。
「それとこの袋には数字が0とあるはずだ」
袋を見るとたしかに数字が0と書かれていた。
「この数字が今の諸君らのポイントだ。この数字は猛獣の『大きさ・希少性・強さ』で大きさが変化していく。例えば自分が先程取り出したこいつを再び入れると――」
スリカ少佐が袋の開き口を死骸にかざすと、吸い込まれるように死骸が入っていく。
「このようにかざすだけで、獲物が入り袋の数字も変化する」
袋の数字は0から500に増えていた。どうやら先程の死骸は500ポイントのようだ。
「諸君はこの数字を『1万』にして自分の元に来い。そしたら合格だ。期限は明日の18時までとする。空に数字を映し出すからそれを見てくれ」
スリカ少佐が空に右手をかざすと、何もなかった空に数字が浮かび出した。数字は1秒ごとにどんどん減っている。
「それと死にそうになったら、一緒に取ったこの『ギーブボール』を割ってくれ。割った瞬間試験不合格となり、諸君らが集まってもらった広場に戻る事ができる。広場には医療班が待機しているから、死にそうだと感じたらすぐ逃げることをおすすめする」
『ギーブボール』を全員に見せつけながら、説明するスリカ少佐。
「説明は以上だ。何か質問はあるか?」
「はい! 殺して奪うのはありですか?」
スリカ少佐に一番近い女が、片手を上げ質問する。
「ありだ。試験中は何しても構わん。まあ
……他にはいないか?…………よし。いないようだな」
説明が終わると。
「うふ、うふふふふふっ!」
「はっはっー! いよいよだぜ」
「殺っちゃうよ。さー殺っちゃうよ!」
広場にいるほとんどの女達が、早く獲物を殺したくてウズウズし始めた。
「アタイは負けない。最強の忍者として誰にも」
隣にいるペンタでさえ、気合を入れるかのように両拳を握っていた。
「いよいよ……か」
試験が始まる。獲物たちの狩が――。
場の空気に呑まれたのか、自然と表情が緩んできた。
「おっといかん。すぅーーーはぁーーー」
気持ちを落ち着かせるため、深く深呼吸する。
「ふぅ……よし」
私が1人リラックスしている間にも広場の殺気はどんどん膨れ上がっていく。
スリカ少佐はそんな女達の様子を見ると、満足そうな笑顔で高らかに。
「それでは試験開始だ! 諸君、思いっきり暴れてこい!」
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