第31話
***
ヴェンディグがレイチェルに秘密を明かして以降、ライリーのレイチェルに対する態度はほんの少しだけ変化を見せていた。最初の頃のライリーはレイチェルに何もさせないようにしていたが、今では自分の仕事を手伝わせてくれるようになっていた。仕事、といっても、「これをヴェンディグ様に渡してきてください」とか「この棚の整理を手伝ってもらえますか」ぐらいの簡単なことだが。
それでも「一時的に離宮に滞在しているだけのお客さん」扱いからは脱却できたと、レイチェルは嬉しく思っていた。
だがしかし、やはりもっとヴェンディグの役に立ちたい。
そう考えたレイチェルはヴェンディグと真正面から睨み合った。
「駄目だ」
ヴェンディグはその一点張りだ。
「お願いします!」
「駄目だ」
何度頼み込んでも駄目だとしか言わないヴェンディグに、レイチェルはむうっと頰を膨らませる。
「何度言っても無駄だ。連れて行ける訳ねえだろ。諦めろ」
呆れたように言って、ヴェンディグは紅茶を一口飲んだ。
「大蛇の背に股がって夜空を飛ぶんだぞ。侯爵令嬢にそんなことさせられるか」
夜の捜索に自分も同行させてほしい。そう頼んだレイチェルに、ヴェンディグは冷ややかに言う。
「今の私は侯爵令嬢ではなく、閣下の婚約者です」
「とにかく、駄目だ」
取りつく島もなく、結局その夜もヴェンディグはレイチェルを置いてナドガと共に捜索へ出て行ってしまった。
レイチェルは肩を落として自分の部屋へ帰った。ヴェンディグの部屋で疲れて帰ってくるであろう彼を迎えたい気持ちはあるが、前のように自分が眠り込んでしまってはまた迷惑をかけてしまう。
「はあ……」
レイチェルが何度訴えてもヴェンディグは首を縦に振ってくれない。
確かに、レイチェルは大蛇の背に股がったことも夜空を飛んだこともない。役には立たないかも知れないが、ヴェンディグが毎晩どんな風に、どれだけ力を尽くして民を守っているかをこの身をもって知っておきたかったのだ。ヴェンディグの苦労を肩代わりすることは出来なくとも、せめて知っておきたかったのだ。
でもそれは、レイチェルの独りよがりだろうか。ヴェンディグとナドガ、ヴェンディグとライリーには確かな信頼関係があるのに、自分はヴェンディグの信頼を得られていない。迷惑しかかけていないので当然だが、秘密を打ち明けてもらった身としては、もっと役に立ってヴェンディグに認めてもらいたかった。
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