第13話 依頼は突然に
探偵部の最初の依頼を終えて一週間が経った。
謎に上から目線だし、全て解決するとか豪語しちゃってるし、倒置法の使い道はそこじゃない。
だが、美少女が二人いるというだけで
成宮と
「ごめんなさい。
「昨年一緒のクラスだったんだけど……」
「ごめんなさい。私、興味が無い人の名前を覚えることができなくて」
「あ、そ、そうなんだ……ちなみに
「初めまして!えっともしかしてどこかで会ったことある?」
「同じ部活なんだけどな……」
「流石に
「クロ君も
ある者は
「私はもう終わりなんでしょうか?」
「終わったとしてもまた次が始まります。人生はそうやって
「あぁ……なんというありがたいお言葉なのでしょうか……私は今、始まったのですね」
「これは探偵というよりペテン師ね……」
「
「多分俺の方が泣かされてるんだよなぁ。あいつら容赦なさすぎ。二度と話すことはないからいいんだけど」
「一体どれほど黒歴史を量産してきたのかしら。少しだけ興味が出てきたわ。とりあえず弱みを
「そんなこと言って教える人いないでしょ……」
「あれは中三の
「言うんだ!?」
ある者は
「明日までに出さないといけないんだけど、答え無くしちゃって」
「こんなとこ来る前に友達に聞けよ」
「と、ともだち……」
「な、なんかすまん。俺の見せてやるから……」
「敗北者同士の傷の舐め合いほど背筋をゾクッとさせられるものはないわよね」
「
「何よ。自分こそ変装したキャラ含めて個性が出てきてない癖に」
「メタなのかメタじゃないのか微妙に分かりにくいテーマで言い争うな」
ある者は友人の大切さに気付くも時すでに遅し。
そんな悩みともいえないような悩みを持ち込まれて早一週間。ブームというのはいつの間にか過ぎ去っていくらしい。
宿題見せてボッチから『友達……』という最後の
「今の今までまともな悩みがこないんだけど……」
「全然人が来ないよりましじゃない?」
一方で
「そう?
「俺も人が来ない方がいいな。初対面の人と話すのが
同じクラスなのに、知らない人扱いされるとやっぱり少なからず心に響くものがある。ハンマーでぶん殴られたような衝撃が身体中を駆け巡った。
ここ数日で慣れたから、今はそこまでダメージはないけど。
「まともに会話したの、宿題の答えを聞きに来た子だけじゃない……それも会話のドッジボールよあんなの」
「チャラ男をぶった斬ったお前にだけは言われたくない。それに、俺は一人の命を救ったぞ」
「あれ凄かったよね。なんていうか教祖様みたいだった!ああやってお金をむしり取って依存させていくんだね」
「
別に好きで対応したわけじゃないぞ。彼女の状況が深刻化する前に、
「今日は誰も悩みを持ち込まないわね」
「いいことじゃない?悩みなんてない方が人生楽しいよ」
「何を言ってるの
成宮はそう言うが、果たして人間に悩みは必要なのだろうか。必要だとして、他人の悩みを俺たちが解決することに意味があるのかどうか、俺には分からない。
「リア充を追放したいっていう悩みは聞いてくれるのか?」
「追放しても残るのは自分が非リア充だという悲しみだけよ。だから教室の
「べ、別に羨ましがってないからな!勘違いすんなよな」
俺がそう言うと、
ちなみに成宮は完全に真顔。シンプルに引かれている。
「そうだよね。私たち以外の他の女子と話してるとこ見たことないもん」
「え、まさか私たちを狙ってるの?やめてよね。一緒の空間にいることができなくなるわ」
「それはそれでラッキーかもしれないな」
そうだ。成宮からの好感度が底辺に達すれば、探偵部を退部することも可能だろう。次の日にはクズ野郎の
「え、クロ君辞めるの?本当に?冗談だよね?」
榊が顔をすごい勢いで近づけてくる。こいつは距離感がおかしい。ただでさえ色んなところが敏感な男子高校生にはただでさえ同級生の女の子は刺激が強いというのに。
「辞めようにも辞めれないしな。この学校にアマゾネスがいる限り俺は逃げられない運命なんだ」
「アマゾネス?誰のこと?」
「俺がこの学校で最も恐れてる存在」
ははは。まさか。あぁ見えても意外と忙しそうにしてるんだあの人は。そんな
「お疲れ~。調子はどう?三人とも」
「す、すみませんでした」
「え?何で
「え、いやそっちじゃなくて」
「先生。彼は別に害はないですよ」
失礼な奴だな。
というか、害になる行動を取れば死ぬ未来は見えている。
「そういや先生は榊のことはどこまで知ってたんですか」
「え?大体おおよそ全部知ってたよ。最後に黒咲の逃げ道を塞ぐ為に出てきただけだから」
話の流れを変えるために持ち出した話題に平然とした様子でそう告げる
この人も一枚噛んでいたのかよ。何も知らなかったのは俺だけか。
「こえぇ……ただただトドメを刺しに来た人だったのか」
「気持ちよかったよ。逃げ道を無くして追い詰めるの」
「ドS女教師とかマニアックすぎんだろ」
「君はそういうの好きそうかと思ったけど」
人の
それにしても俺がこの部活に存在しなくてはならない理由はイマイチ分かりかねる。
「男避けの役割的な何かにする為に
「役割不足だと思いますけどね。ワラワラと寄ってきますよ陽キャ共が」
昨日までは大いに
男子生徒が熱い視線を飛ばすと、榊の
メンタルはへし折れ、真っ二つとなり、
「でも今日はまだ誰も来てないんだろう?」
「え、えぇまぁ。そんな日もあるんじゃないんすか」
「一部では探偵部にいる顔も名前も知らない男子のオーラが怖すぎてちょっと無理かも的な印象を受けているらしい」
「俺は結局、
俺の知名度も上がるかと思いきや
「でも榊の変装も見事だったな。ウィッグとメガネであんなにも別人になるとは」
「姿勢とか喋り方とか気をつけてましたから。クロ君も全然全く一ミリも気付いてませんでしたよ」
「いや、最後に当てたけどね?」
確かにあの変装は分からなかった。榊の友人という設定があったから分かったようなものだ。
逆に言えば、設定がただの落し物を探して欲しい女子生徒だったら俺は正体を当てるどころか、正体を知りたいとすら思わなかっただろう。
「だって、選択肢そんななかったでしょ。あんなのは推理なんて言えないよ?」
「推理したつもりは無いから別にそれはいいんだが」
……結構俺って実は頭いいのかもとか思っちゃってたってことは秘密にしておこう。
「
「だって、ゲームの
意外とお人好しというか、不公平を嫌うというべきだろうか。
だが、正義のヒーローが果たして探偵になれるのだろうか?
「先生は様子を見に来ただけですか?」
「まさか。これでも一応探偵部の顧問だからな。ちゃんと生徒に課題を与えに来たんだよ」
豊満な胸を張って、誇らしげに言っているけども、今週初めて来ましたよね。普通、毎日来るものではないのですか?
「ちょっと最近忙しくてね!残業しないと帰れないんだよねこれが。あまりに忙しすぎて昨日は家に帰って一時間経たずに寝たぐらいだから……誰か有給ください。代休でもいいんで……寝たい……」
柏木先生は社会人特有の死んだ目とドス黒いオーラを発する。よく見れば目の下にクマができている。
この時期ってそんなに忙しいのか……やっぱり働いたら負けだな。社会の
部活も社会における残業と一緒みたいなものだ。俺は常に定時退社を目指している。ならばこの時間は言わば時間外労働。
やはり部活なんかに入ってる場合じゃねぇな。よし帰ろう。
「黒咲。八時間労働しないと定時にはならないからな?それに一時間の休憩があるから実質九時間だ」
「なん……だと……?」
「学校の始業時間は八時半。よって最低でも十七時半までは職場にいなくてはならない。最終下校のチャイムは定時退社のチャイムなんだよ」
「今の時刻は十六時四十五分。つ、つまり、俺はまだ、この部屋から出ることは叶わないのか?」
「そうだ。そこでお前に仕事をやろう。
なんということだ。俺たちを社会人見習いとして扱う事で最低でも十七時半まではこの教室に
やるな。だが甘い。俺にはまだ切り札がある。まさかこの場面で使うことになろうとは。
だが今使わなければ俺は社畜に成り下がってしまう。労働社会の奴隷になるのは死んでも御免だ。今こそ、
「先生、俺、五時から予定が」
「なら明日やれ」
「明日もちょっと」
「なら土曜やれ。暇だろ?」
何。社会人は今日の仕事は明日に引き継がれるというのか。そして終わらなければ休日出勤。なんだこの負の連鎖。もしかして土曜で終わらなかったら日曜に行くんじゃないの?え、死ぬ?みんな過労死するよ?
その
やべぇ。日本の未来がブラックホール。
「まぁ休日に持ち越すかどうかは後回しだ。とりあえず事情を聞いて判断してくれ」
「事情を聞く?」
「あぁ。今回はちゃんとした悩みだ。解決できるよう、力を合わせて取り掛かってくれ」
「てことは、新しい依頼ね。私ワクワクしちゃう」
「人が悩んでるのにワクワクしないの」
あからさまに表情が明るくなる
「じゃあ入ってくれ」
「失礼します」
キビキビとした動作で教室内に入り、成宮と榊には目もくれず、俺の前で立ち止まってそいつは口を開いた。
「話すのは久しぶりだな。黒咲」
「俺から話すことが無いからな。お前からも話しかけてこないし」
「僕から話すことがなかったからな」
冗談が通じない男だ。俺も冗談を言うのは苦手だが、こいつは冗談を言うことすら頭の中にない。
つまり、話すことがないから話しかけなかったとこいつが言ったのは本当だ。
こいつは用がなければ他人と関わらない。それが本人の意思なのかどうかは分からないが。
「まずは自己紹介をお願いできるかしら?」
成宮が自己紹介を
「
俺はこいつのことが、
「
どうしようもなく苦手だ。
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