善城こゆの下着

 次の日、早速斎藤さんに尋ねる。


 教室に入るなり、石井さんより桑藤さんより先に斎藤さんを探す。


 誰にも挨拶せず、真っ直ぐに斎藤さんの所へ。


 そして声もかけず肩に手を当てて、


海人「斎藤さん、見てたの?」


 当然斎藤さんはぽかーんとした顔である。


海人「ごめん、聞きたいことあるからちょっと来て」


 俺は斎藤さんの手を引っ張って室外機置場であるベランダに出た。


斎藤「は、三波くん?」


 すると一部の男子に冷やかされるわけだが、そんなことはどうでもいい。


雑兵「フウゥゥゥゥッ! どうしたどうしたー? 告白かー?」


 勝手に言ってろ。


 恐らく斎藤さんは昨日の現場を目視していたはず。


 俺と一緒にいたのが桑藤さんだという事も知ってると言うのは、結構な近距離にいたはず。


 そして君は昨日、こゆちゃんと一緒にいたね?


 俺はこゆちゃんもあの現場を見てたのかを確認しなくてはならない。


 斎藤さんを半ば強引に外へ連れ出した俺はベランダの戸を閉めるが、別の戸から何人かの男女がコチラを覗き見している。


 それを手で払うように「しっしっ!」と合図するのだが、意外とすんなり諦めて戸を閉める雑兵達。


 ふん、ザコか。


 改めて斎藤さんに問う。


海人「なんで桑藤さんと一緒にいたの知ってるの?」


 少しニヤッとした表情で斎藤さんは言葉を返す。


斎藤「何でって、二人を見かけたからだよ? 三波くん達も昨日ダイエーにいたでしょ?」


 oh my god


 これを聞いた時は両手で顔面を撫でまくった。


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!! と。


 撫でるどころか、煙が出そうなくらい顔面を擦りまくった。


海人「・・・こゆちゃんは?」


 両手で顔面をふさいでいるので、こもった声で主語の無い質問をする。


斎藤「こゆねー、こゆかわいいよねー、ふふっ」


 なんだその言い返しは。


 さ て は き さ ま !


 そのヘラヘラした言い方で確信した!


 俺が何を聞きたいのか、何を不安に思っているのか察しているぞコイツ!


 コレはからかわれるな、覚悟しろよ俺。


 こうやってズラしてくる奴の思惑は大体いつも同じだ。


 俺が新しいネタをこぼさないか期待していやがるんだコイツ!!


海人「かわいいのは知ってます、そうじゃないですよね? 僕が聞きたいのは」


 と、もう一度聞いてみた。


 すると以外にも素直に答えてくれた。


斎藤「こゆは見てないよ多分」


海人「多分とはこれいかにっ!!」


 即聞き返した。


 0.5秒くらいで聞き返した。


斎藤「何怖いんだけど!」


 笑っている。


 畜生・・・俺はこうやって下手にからかわれ続けるのか。


 やくざに絡まれた気分だ。


 ちょっと長めに笑った後、斎藤さんは深呼吸気味に息を吸い、俺にこう伝える。


斎藤「三波くんが知りたがっている昨日の私達の動向を教えて差し上げましょう」


 あーっ!


 マジっすか!?


 ムキになってスンマセン!


 ジュースおごるんで、オナシャス! センセンシャル!


 斎藤さんが語ってくれる。


 昨日はそもそもプリクラを取る為にゲームセンターで待ち合わせをしていたらしく、斎藤さんは後から単身でダイエーへ向かったそうだ。


 そもそもこゆちゃんはAクラスと言う学部で、俺たちBクラスとは授業の終了時間が違うのだ。


 普段はAクラスの方が終了時間が遅いのだが、昨日に限ってはAクラスの方が早く終わったので、それで遊びに行こうとなったらしい。


 そこへ斎藤さんが向かう途中で、俺が桑藤さんにナンパしてる所を見たらしい。(駅前)


 いいのかな~、あーいいのかな~と思い、俺へのイタズラを含めダイエーでベルを鳴らしたらしい。


 つまり、うちらがダイエーに行ったときは既にこゆちゃんはゲーセンにいたので、下の階で用を済ませていた俺らには接近しなかったという訳である。


 どこか行くなんて、大体ウチの生徒は行きつけのカラオケかダイエーかスカジャン売ってる商店通り位なものだ。


 俺達がダイエーにいたかどうかは解ってなくても、付き合っていない同級生男女が遊びに行くなど健全な所で言えばダイエー位なものである。


 と言うのを想像した上で「三波くん達も昨日ダイエーにいたでしょ?」とカマをかけられた訳だ。


 ふーっ安心しました、ドキドキしてるけどまだ。


 あのベルの内容「コユトイル!クル?テルナ」は、ほぼ来ないだろうと思って、来れないだろうと察して送ってきたらしい。


 こんのク・・・策士め!!


 




 ここで学部についての解説が必要ですな。


 海人さんがこゆちゃん問題で焦っている理由の1つでもある重要なこと。


 それはAクラスとBクラスの違いについてだ。


 我々Bクラスは3年制なのに対し、こゆちゃん達Aクラスはたった1年で卒業なのだ。


 お近づきになるチャンスはたった1年しかなく、加え、我々が3年かけて受ける授業をAクラスはたった1年で習得しなければならない為、超鬼多忙なのだ。


 これに関してはもうどうしても覆らない。


 そこに斉藤祐樹がねじ込まれたもんだから、俺は居ても立っても居られないわけです。


 初めはもう諦めていましたよ、えぇもうダメですと。


 だけど、石井さんのあの言葉・・・


 「彼氏がいるとかいないとかは関係ないでしょ」


 これが無かったらまだふさぎ込んでいたと思う。


 つまり、これから起こるであろう桑藤さんの不幸は、石井さんのせいでもある!!


 心の中の石井さんに半分重荷を背負ってもらっているのは、そういった理由である。






 さて、問題は解消され、ルンルン気分でベランダから戻る。


 戸を開け、策士を先に入れてから俺も教室に戻る。


 紳士だわぁ、俺。


 平常心とはこれまでに素晴らしい物なのだ。


 平和とは、ここまで人を穏やかにする。


 教室に入る際、とある娘と目が合った。


 桑藤さんである。


 昨日のアレがデートと認識されていた場合、次の日に女とベランダから教室に入ってくる俺を彼女はどんな目で見ているのだろうか・・・。


海人「あ、おはよー」


 普通に挨拶はしてみる、俺は別に普通だし。


桑藤「・・・おはよ」


 あれ、面白くなさそうな声のトーン。


 でも俺、やましい事ないからね?


 ・・・と考えていること自体がやましさの表れである事をこの時の俺は解っていない。


 作戦を始める前から、心の深い所では後ろめたさがあるのだ。


 だがしかし、犠牲はつきもの。


 俺のやってみたい事の達成には桑藤さんの犠牲が必要だし、自分勝手な話ではあるが、俺自身も人に嫌われる可能性と言う犠牲を払っているつもりではある。


 なので、もし今、君が泣いていたとしても、俺はその顔にションベンをかけさせてもらう。


 目的があれば悪事を働いていいとは思っていない。


 でも、達成のために必要な壁があれば、それを乗り越えようとするのは当たり前の事だし、その犠牲となる人が状況を必要な事であると考えてくれるのであれば、俺は前進したい。


 そう、桑藤さん、君が俺に何をされても肯定してくれることを期待して、計画を実行する。


 言い訳だと批判されてもいい、他人の解釈など興味はない。


 俺はこゆちゃんとの為だけに・・・。




 

 この日の3時限目科目は大好きなサービス論。


 うちらの担任が講師をする教科だ。


 その授業中に紙玉が飛んできた。


 紙玉、ほかの学校にもあるだろうか?


 メッセージを書いた紙を丸め、目的の人の教科書の上に投げ置くのだ。


 飛んできた紙玉を音が鳴らない様机の下でゆっくりと広げる。


 コレは・・・!!!


 内容はこうだった。


 「Aクラス時限短いらしいよ! こゆちゃんカラオケに誘うから三波くんもおいで」


 神様! 神様がいるこのクラス!!!


 誰だ? この紙玉を投げた神様はどなたですか?


 一瞬キョロキョロしてみるが、誰だかは解らなかったので神様からのお誘いをもう一度読んでみる。


 「こゆちゃんカラオケに誘うから」


 斎藤さんじゃない、斎藤さんはこゆちゃんを「こゆ」と呼ぶからわかる。


 そして「おいで」と言葉を選ぶ人、女子だろうな。


 あ、でも俺斉藤佑樹とこゆちゃんがいちゃいちゃすんの見たくないんだが?


 そう言えば今日斉藤祐樹・・・いない!!!


 そうだ、俺あいつと距離置いてたからそんな事も気づかなかった!!


 マジか誰だよこの斎藤さん以外の策士は!?


 ・・・いる! 石井さん!!


 くわぁ石井さんあんたって人はどんだけ良い女なんだ今夜も使わせていただきます本当にありがとうございます。


 しかし2日続けて短縮授業とは、Aクラスで一体何が起きているのだろうか。


 ・・・と考えても、俺には一切関係のない事であった。


 

 放課後、俺は神様からのレスポンス待ちで机に板付き状態。


?「よし、三波くん行こー」


 来た! お告げ来た!!


 振り返るとそこにはベルを眺めている彼女がいた。


石井「こゆちゃんもう先行ってるらしいから、早く行こ」


 あああああ女神たま!!!


 と、石崎寿江さんと最近仲良くなった大島達也。


 石崎さんは何故か俺にかまってくれて、結構笑かしてくれるんだよなぁ。


 大島は、最初スゲー嫌いだった。


 俺、ヤンキーとかやくざの類が大嫌いで、大島もそれっぽかったから。


 おうおう、なんだ? 錚々たるメンバーで。


 なんだよ大島、ボディーガードのつもりか?


 飢えた狼に赤ずきんは近づけさせんてか?


 まあいい、見てなさい海人君の紳士さを見せてあげますから。


 全くそんなつもりはないメンバーなのだが、でもとにかく俺は舞い上がっている。


 早く・・・会いたい!


 久しぶりに会いたい!!


 スキップしたいくらいなのだが、いつも行くカラオケ屋へは駅前を通る。


 そう、毎日恒例の桑藤さんだ。


 今日も公衆電話横で立っている。


 目が合うまで近づき、俺は彼女に手を振る。


桑藤「・・・」


 彼女も手を振る。


 いつも通り。


 ではいざ鎌倉!



 

石井「善城で先に入ってると思うんですが」


 カラオケ屋の受付に部屋の位置を聴く石井さん


カラオケ屋のおばちゃん「えっと、善城さん? あ、B部屋だね」


石井「どうもー」


石崎「はーい」


大島「うっす」


 流石サービス論の授業を受けてるだけあって、全員挨拶はできる。


 俺だけは舞い上がってて挨拶できなかったがな!


 

 ガチャ



 石井さんが扉を開けると、爆音が館内に響く。


こゆ「早く中入って早く!」


 こゆちゃんは一人カラオケをして待っていたようだ。


 何で一人?


 急げとばかりにブンブン手招きしている。


 手首取れちゃいそうだなアレ。


 先に「あららら」と言って中に入ったのは石井さん、大島、石崎さんと続いて俺がなだれ込んだ。


 こゆちゃんはお尻をフリフリさせながら歌い続けている。


 何だこれは・・・オルゴールの上に乗ってそうなこのかわいらしい生物は一体なんだ!?


 モニターを見ている後ろ姿のこゆちゃんに俺が見入りながらニヤニヤしていると、もうとっくに皆は席についている。


 こゆちゃんが座るであろうソファーとその対面にあるソファーだけを残して。


 その気遣いに気付いた俺は、皆の顔を見る。


 石崎さんと大島がスゲーにやにやしてる!


 大島に至ってはもうホントムカツクくらいの憎たらしさでニヤニヤしてる!!


 くぅーっ、ありがとうございます。


 石井さんは相変わらずの表情だが、俺と目が合うと、にこっとしてくれる。


 うっわ、流石女神たま。


こゆ「いえーい!!」


 おぉビックリ、歌い終わったのか?


 石井さんと石崎さんがぱちぱちと拍手。


 子供がベットに飛び乗るかのように、ソファーへダイブするこゆちゃん。


 彼女はリモコンを手に取り、演奏を止める。


こゆ「三波くんだよねー、セミナーぶりだね!」


海人「うお! 覚えてくれてたの?」


 コレはなかなか嬉しいではないか!


 周りはニヤニヤが止まらない。


 俺はロマンティックが止まらない。


 なんて考えていられたのもつかの間、さっきのダイブでスカート姿のこゆちゃんの下半身が露出してしまっている・・・。


 ぱっ! パンツ見えてるうううううううう!


 桃色のおぱんちゅモロ見えてるうううううううう!!


 こ、これは何とかしなければなるまいて・・・どうしよう?


石井「こーら、こゆちゃんパンツ出ちゃってるから」


 ナイス女神たま!


こゆ「あっはは!」


 くっ、照れ隠しまでかわいいのか・・・すげえぜこゆちゃん。


 い、いや、ダメだ! 俺の目のやり場はどうしてくれるんだ!?


 くぅぅ、下向くしかない。


 見てなかった事にしてやり過ごそう・・・。


 もうこゆちゃんがスカートを直したのかどうかも確認できないくらいまで俺は萎縮してしまった。


 プライベートの善城こゆが三波海人に見せた初めてのパンツ・・・初めての顔だった。

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