オタクVTuberはお姫様になっても動画配信する日常
御厨カイト
オタクVTuberはお姫様になっても動画配信する日常
「今日も私の配信見てくれてありがとー!明日も来てねー!」
ふぅ、終わった。
今日のお仕事も無事終わり!
私はそう思ってパソコンのモニターを切る。
その時ちょうど扉のノック音が鳴り響いた。
「ミレーヌ様、今よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
私は「ウゲッ」と思いながらもそう声を掛ける。
「それでは、失礼します。」
その声と共に扉が開く。
「はぁ、また配信活動していたんのですか?あなたという方が。」
まーた始まったよ。
クローネメイド長のお小言が。
「いいですか、あなたは高貴なるカサエルゴ家の公爵令嬢なのですよ!そんな方がこんな動画配信などをするなんて、嘆かわしい。」
「ですが、御父上は私が配信活動することを許可してくれましたよ。」
「確かにご主人様は以前そんなことを言っておられましたが、私は許可しておりませんから。それにこんな事よりも淑女としてのマナーなどの方に力を入れて欲しいのです。」
「うっ・・・、ま、まぁ、ボチボチやっていきますよ。」
「・・・・・」
「ちゃ、ちゃんとやりますから。」
「そうですか?それならいいのですが。まぁ、私が懸念しているのはそれだけですから、お嬢様がそうおっしゃるのなら心配は無いようですね。それでは失礼いたします。」
そう言って彼女はドアを閉める際に一礼して立ち去る。
うぅぅ、クローネさんのジーと見る目にまた負けてしまった。
あー、めんどくさいな。
淑女のマナーなんて分からないよ。
というかただのオタクでVTuber活動やっていた人がそんなこと知っているわけなくない?
今までそんなことに触れて来なかったんだから。
元々私はYouTubeで活動するVTuber。
それに加え、重度のVオタク。
そんな、私がどうしてお姫様になっているのかと言うと、簡略的に言えばどうやら異世界転生というものらしい。
転生と言うよりか、憑依と言うべきかな。
こういう設定のラノベをよく読んでいた私からしたら、こういう展開に関してはある程度の見込みが早い。
まったく家から出ない人が久しぶりに外に出たことで事故に遭い、命を落として、その影響で異世界に行くというテンプレ通りの道をたどって私は今ここにいる。
少しテンプレじゃないところがあるとしたら、私は転生ではなく、依り代があったので憑依に近い。
だからこの私は「私」ではない。
これはカサエルゴ家のミレーヌ・カサエルゴの体。
病気で死ぬはずだった彼女の体を私は借りているだけ。
彼女には感謝しかない。
私は今も動いている心臓に手を置いて、顔を知っているけど中身は知らない彼女のことを想う。
まぁ、というわけで私はここでお姫様として生きているわけだが、この世界にはある意外なことが根付いていた。
それは動画配信活動。
この世界には日本の「YouTuber」のように動画配信を生業としている人が存在する。
と言ってもこの世界には電波というものが無いため、魔法を使っているらしい。
なんか色々な技術が使われているらしいけどよく分かんないや。
だけど日本でVTuberとして活動していた私としてはこれをやらないわけにはいかない。
元々、ミレーヌちゃんは本ばかり読んでいる大人しめの子だったらしく、私が動画配信としたいと言ったら、御父上は驚きながら快く許可してくれた。
その時でもクローネメイド長には反対されたけど。
そんな訳で私はこの世界でも動画配信をすることになった。
と言ってもやっぱりここはファンタジー世界。
ゲームなどがあるわけではない。
じゃあ、一体どんな動画があるのか。
ここもやっぱりファンタジー世界だと思うのだがこの世界で人気があるのは冒険中の自分たちの姿を映した姿。
そうこの世界ではゲーム実況動画ではなく、自分たちの旅路を実況した動画が人気がある。
そんな中、私はあまり人気ではない雑談などの配信でやっていくことにした。
理由は簡単。
戦えないから。
・・・やめて!そんな目で見ないで!
だって仕方がないでしょ。
元々オタクのVTuberで今はお姫様よ。
戦闘能力なんてあるわけないじゃない!
コホンッ
という訳で私は今、雑談メインで配信をしている。
でも、やはり雑談メインだと見てもらえる人は少ない。
だけど、そこでたくさんの人に見てもらえるようにするのが元々登録者10万人以上いた私の腕の見せ所よ!
この世界の雑談というのはその言葉の通り、配信者がリスナーに向かって一方的にお話をするというもの。
日本のとは違って本当にただ喋っているだけ。
企画とかをする人は全くおらず、つまらないから必然的に人気が下がっている。
じゃあ、そういうときどうするのか。
皆がやらないことをやろうじゃないか!
早速私は企画ものやドッキリものの動画を雑談配信と織り交ぜてやるようになった。
辛い物を食べながら歌を歌ったり、大食いをしたり、魔法を使ったマジックをしたり。
時にはクローネメイド長が飲む紅茶の砂糖と塩を入れ替えるというドッキリもやってみたり。
案の定、その後めちゃくちゃ怒られたけど。
こういうものは日本ではもう見慣れたものだけど、この世界の人からしたらとても新鮮なものに感じられたそう。
反響も良く、こういったことをどんどんとやっていくうちに私の存在はどんどん多くの人に知られるようになり、見られる回数も増えてきた。
正直に言うと日本でやっていた時よりも反響がすごくてびっくりしてる。
と言ってもこんなことを私のようなお姫様がやっていいのかと懸念される人もいると思うが、流石ファンタジー世界。
まるで日本のVTuberのようなアバターが存在する。
これも魔法でやっているらしい。
詳しいことは分かんない。
とまぁ、そういう訳で私はそのアバターを使って活動している。
名前も「クレア」という本名と全く関係な名前で。
意外にこういうことをしている配信者は少なくないらしく、結構貴族や皇族などもこういう形で配信をしている。
以前コラボした人の正体が皇族だったときは腰が抜けるかと思ったけど。
まぁ、私はこういう感じで配信活動をしている。
だからと言って、生活のすべてが配信活動という訳ではない。
私はこれでもお姫様。
やらないといけないことはたくさんある。
この家に訪ねてくる客人の相手をしたり、お茶会をしたり。
ほとんどが経験がないことだったから新鮮でもあったし、楽しくもあった。
だけど、唯一辛いのがマナー。
本当にたくさんのマナーがあって嫌になる!
正直に言うとサボりたい。
でも元々ミレーヌちゃんはそういった授業はちゃんと受けていた子だったらしく、逃げ道は無い。
だから私は仕方なく受けています。
・・・本当に難しいんだよ!
歩き方とか、食事の仕方とか、仕草とか、踊り方とか。
ナーロッパの貴族もここまでしてなかった気が。
まぁ、そんな訳で私はお姫様としての公務と配信活動を両立する生活を送っている。
そんなある日。
「ミレーヌ様、本日は勇者様御一行が来られますよ。」
「勇者様が?どうして?」
「今回の冒険で得たことについてのご報告があるそうです。ご主人様は勇者様たちに金銭的な援助をしていらっしゃいましたからね。それのお礼も兼ねてかと。」
「へぇー、そうなんだ。」
「・・・?ミレーヌ様も知っているはずですよ。その場にいましたから。」
「あっ、そうだったけ?てっきり忘れていたわ。」
「もうー、これから会うというのにしっかりしてくださいね。それでは勇者様が来られたら、またお呼びに来ますね。」
「はーい。」
はぁー、焦った。
だってそれ見たの「私」じゃないのだもん。
今の私が知っているわけないわ。
というか私、勇者様の顔も何も知らないのに大丈夫かしら。
これから会うというのに・・・
「さぁ、ミレーヌ様。勇者様に挨拶してきてください。」
「えっ、ど、どなたが勇者様ですか?」
「なに寝ぼけたことを言っているのですか?お顔知っているでしょう?」
「うっ・・・、もちろんですけど・・・」
「それなら大丈夫ですよ。ほら行ってきてください。」
「はい・・・」
全然大丈夫じゃなかった!
今は勇者様が報告に来て、それが終わって打ち上げみたいなのをしているところ。
そこで私は勇者様に挨拶しろって言われたけど、そもそも人がたくさんいて、勇者が誰か分かんない。
そもそも顔分かんないし。
うーん、どうしよ。
一か八かで勇者っぽいと思う人に話しかけてみるか。
多分こういうファンタジー世界の勇者って金髪で蒼眼でイケメンでしょう。異論は認める。
そう思って周りを見渡すと、いました想像通りの人が。
金髪で蒼眼でイケメン!
早速声を掛けてみよう。
「勇者様、本日は長旅お疲れさまでした。」
「おお、これはミレーヌ様!ご丁寧にどうもありがとうございます。」
ビンゴ!
「そう言えば、ミレーヌ様とは出発する際にも声を掛けていただきましたね。その時よりも尚更美しくなっておられるようでびっくりでございます。」
「うふふ、そう言っていただけて嬉しいです。勇者様もお変わりなく。」
「見た目は確かにあまり変わってませんね。強いて言うなら傷が増えたぐらいでしょうか。この傷とかはキングベアーに引っかかれた時の傷で・・・」
あ、これは長くなりそう
「この額の傷は・・・」
案の定、長くなったので割愛
でも知らない情報ばかりを知ることが出来たから、面白かったけどね。
そんな感じで話をしているとこんな話題に移った。
「そうだ、ミレーヌ様は動画などはよく見られますか?」
「えぇ、色々な動画を見ますよ。」
「私も冒険の合間に見たりするのですが、最近面白い動画を見つけましてね。『クレア』という配信者を知っていますか?」
ギクッ!
「え、えぇ、し、知っていますよ。お、面白いですよね。」
「ですよね!今までにない形の動画内容でとても面白いんですよね。私あの方のファンなんですよ。」
「へ、へぇー、そうなんですか。」
「でもあの方、アバターを使って配信をなさっているようなんですよね。ということは結構な位についている方がしているようなのですが・・・。もしかして、ミレーヌ様ではありませんよね?」
ギクッ!
「そ、そんなわけ、あるわけないじゃないですか。」
「そうですよね。これは失礼を。」
「いえいえ。それではそろそろ失礼いたしますね。本当に本日はお疲れさまでした。」
「こちらこそありがとうございました。」
私は一礼して彼の元から離れる。
あー、ドキドキした―。
バレるかと思ったよ。
でもまさか勇者までもがファンだったとは。
そこまで知名度が広がっていたことにびっくりしている。
私はまだドキドキしている心臓と共にその場を後にした。
その後もその場は恙なく進んでいき、勇者たちは帰っていた。
フゥ・・・
あの後もいろんな人の対応をしていたからすごく疲れた。
やっぱりお姫様は大変だ。
でもこれからは楽しい配信だ。
気持ちを切り替えて配信の準備をする。
そういえば今日も彼は見るのだろうか。
先ほど本人の前で「ファンです」と言った彼。
・・・逆に見られていると思うと緊張する。
まぁここは頑張って乗り切るしかない。
そう思い、配信準備を整えた私はマイクをONにして元気な声で
「どうも皆さんこんばんわ~!」
さぁ、配信の始まりだ。
オタクVTuberはお姫様になっても動画配信する日常 御厨カイト @mikuriya777
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