拳で語る系ラブコメ(仮)

獺。

第1話 

「ちょっと、一発殴らせろ」


輝かしい程の笑顔で、委員長系メガネ女子が言い放った。

これは夢か?夢だな、きっとそうだ!


きっと俺の潜在意識が隠れた性癖:ドMを暴露したんだ、きっと。

いや、俺はドMではないし、Sでもない。ノーマルだー!



こんな脳内バタバタ喜劇を繰り広げていると、女子が慌てた様子でこんなことをボソッと言った。


「あ…本音でた」


いつもはクラスの片隅でずっとというか大体、本を静かに読んでいるような子だ。


そんな子の口から殴らせろなんて言葉が出ると思うだろうか?否。思わないだろう。

そんなこと考える時点でかなりのドMだ。そんなのただの変態じゃないか。


「ご、ごめんなさいっ、あのですね、ちょっとイライラが溜まってしまったのです」


まぁまぁまぁ、誰だってイライラすることはあるだろうな。そう、誰にだってだ。

きっとこんな真面目な女子にも、人知れずフラストレーションが溜まっていたのだろう。


「掃除が同じ班なのに、私だけ放置でゴミ箱を持たせた男子に怒っているのではありませんよ?はい、そんな訳ないじゃないですか」


その割には目が笑っていらっしゃらないようで。というか、それ、俺たちのことじゃないですかー。怒ってらっしゃるー!


「あぁ、じゃ、持っていくわ。もう教室戻ってていいよ」


おぉー!我ながらこれはポイント高いんじゃないかな!


「あぁ、そうですか。お願いします」


その女子…たしか、石井 優奈さんだったっけ?は、ニコリともせずに振り返ってサッサと歩いていった。

ポイントは高くなかったらしいですね。


あぁ、彼女、殴っていかなかったな……

と思った矢先に、彼女はツカツカと戻ってきた。その瞬間、ブォンと鼻先で空気が唸った。


今の今まで、バトル漫画とかでよくある、すんでのところでパンチとか避けたときに空気が唸る、、という経験はなかったです、はい!

初体験だ。全然嬉しくない、俺。


「いやなんで殴る!?!?」


キョトンとして目をクリッとさせる女子。

こ、こんなもんで俺は騙されないからな!!


「いや、殴ってなかったなぁと思って」


?みたいな顔をして、俺の顔を見上げる女子。

か、かわいい……?

いやいや、騙されちゃ駄目だ。俺はさっきこいつに殴られかけたんだぞ!


「なんで避けた………」


地の底から聞こえるような声で女子は恨みを告げた。いや、なんで避けたって、怖いから一択でしょうよ。


「こ、怖いから……?」


はい、青筋立てていらっしゃいますね。

怒らせましたかね?

ゴゴゴゴ……というような暗い闇が迫ってくる、ように感じた。

圧力がすごい、怖い。


これ、ほんとにいつもの石井さんか?

教室と違う気がするんだけどね。

猫被りすぎだろ。教室で。

はい、女子は分厚すぎる猫を被っていたことが判明しました。


みんな女子って同じなのかな?だとしたら怖いんだけど。

いや、この子が特異なんだろう、うん。きっとそうだよ。いやだってみんなこんな裏持ってるなら怖いすぎるじゃないか。


「あ、あと教室でこの事言わないでくださいね?抹殺しなくちゃいけなくなるので。よろしくおねがいします」


ニッコリとほほえみながら女子はこう言った。

ま、抹殺って聞こえたよね!?

抹殺!?コロされるの!?

怖い怖い怖い!!!


「アァ、ワカッタヨ」


怖すぎて棒読みになってしまった俺氏です。この子本気で教室とキャラ違うね!?

女子はもと来た道を戻っていった。心の底からホッとした。怖かったよ……


そういえば、”この事”って何のことだろう……?あぁ、あの子の本性のことかな。「一発殴らせろ」の下りだろうね、多分。


まぁそんなこと俺が言ったって絶対誰も信じないだろうな……。それ、言っちゃ駄目かな?どうせ誰も信じないし、良くない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る