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「はっはーっ!! 不死者とは、これはこれは!!」
ノーラと共に小屋の窓の向こうに現れたのは、これはまた絵に描いたような<マッド>だった。白髪小柄でガリガリの爺さんなんだが、自分の考えや感情がそのまんま表に出ちまって、他人からは常に躁状態の<頭おかしい奴>に見えるそれだ。
落ち着きがなく、とにかく『動きが煩い』タイプってことだな。
「はっ! 私の研究テーマはゴーレムだから不死者なんてどうでもいいが、なんか実験には使えるかもしれない!! だから当分の間は飼っておいてやる! 感謝したまえ!!」
とかなんとか。相手の話も聞く気がない。典型的な<コミュ障>だ。
<人見知りの口下手>
という、一般的に<コミュ障>と称されるタイプとは違う、
『自分の中だけですべてが完結してて相手とのコミュニケーションを取るつもりがない』
ってタイプのコミュ障だな。そうだ、やたら声が大きくて一見しただけなら<陽キャ>に見える奴でも、相手の話を聞かずコミュニケーションを取るつもりのない奴はれっきとした<コミュ障>だ。
ネットスラングとして広まったそれじゃなく、本来の<コミュニケーション障害>という意味でだが。
この爺さんはまさにその典型と言えるか。
こういうタイプは逆らっても無駄なので、ゲンナリとはしながらも、しばらく様子を窺うことにした。可能なら隙を見て逃げるさ。なんだったらジジイをぶっ殺してもいい。他人を捕まえて『実験には使えるかもしれない』『飼ってやる』とか言う奴は、快楽殺人者と同類だ。身を守るためなら
さいわい、この辺には他に人目もないしな。このジジイも人目を憚るようなことをするためにこんなところに根城を築いてるんだろう。
それに俺はこの時、ノーラのことを、
『生きたままこのジジイに実験材料にされたんだろうな』
と思ってたしな。正直、ムカついてたのもあったんだよ。この世界じゃ別に珍しいことじゃないものの、やっぱ、いい気はしなかったし。
が、その夜、なんか一緒に食事することになって、
「このノーラはな! 飢餓で全滅した村で一番生きのよかった死体を使ってつくったのだ!! 今の時点での私の最高傑作だ!! 誰よりも強く! そして家事もできる!! どうだ! すごいだろう!?」
小屋の窓越しにそれぞれにテーブルを置いて一緒に食事をするという異様な状況で、ジジイは終始、一方的にしゃべり続けた。そんなジジイを、ノーラは甲斐甲斐しく世話をしていた。不満一つ口にすることなく。
なのに、その夜、ジジイは呆気なく死んだ。朝、ノーラが起こしに行ったら死んでたそうだ。
まったく。人騒がせなだけのジジイだったな。
でも、ノーラにとってはまぎれもなく<マスター>だったからな。彼女はジジイの遺体を丁寧に埋葬し墓を作ってやってた。元々、死んだらそうするように指示されてたそうだ。
その間も彼女は一切の感情を見せなかったが、最後に、
「私はこれからどうすればいいのでしょう? マスターは『自分が死んだら好きにすればいい』とおっしゃってくださっていました。でも、『好きにする』とは、具体的にどういうことなのですか?」
って、墓の前で俺に訊いてきたんだ。だから俺は、
「しゃあねえ…俺と一緒に旅でもするか?」
と言ってやったんだ。
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