第64話 無自覚たらし

 

「はぁ、はぁ、はぁ」


 暗い神殿の一室で、デイジアは呼吸を整える。

 魔方陣の上におかれたベッドの上で竜人の少女の体に入ったデイジアは苦しさに悶えた。

 転魂の儀式から3日目。体がミシミシと悲鳴をあげ、全身を激痛が走る。


 大司教の話では竜人の体に人間の魂が入るのは苦痛を伴うとは聞いていた。

 けれどもう3日も苦痛にのたうちまわっている。


 苦しい、苦しい、なんで私ばかりこんな目にあわなきゃいけないの?

 美しいデイジア様が!


 これもそれもみんなソフィアのせいだわ!!

 あんたがルヴァイス様を取らなければこんなことにならなかったのよ!


 観てなさいソフィア、この竜人の体を手に入れて、金色の聖女になってみえるんだから!!

 そしたら私の勝ちよ!!! あんたなんか追い落としてやる!!



 ◆◆◆


「どうだ?転魂はうまくいったか?」


 大神殿にある大司教の私室で大司教はワイングラス片手に部下の報告を聞いた。


「はい。どうやら魂も定着したようです」


「よし、計画通りだ」


「しかし、大司教様、聖獣クロムのほうは、相変わらず調子がよくありません。

 【聖気】を放たなくなっております」


「聖女がいる間くらいはもつだろう、その間に新しい聖獣を見つけ出せ」


「はっ」


 ◆◆◆


 あれから、1ケ月。

 私たちはいろいろな領地をめぐっていろいろ視察してきた。

 そして宮殿に戻ることになったんだ。その帰り道。

 ルヴァイス様の隣に乗って馬車で移動中、ふと人がワイワイ集まっているのを見つけた。


 なんだろう?


 馬車を引率している護衛騎士の人達がルヴァイス様のところにやってきて報告してる。


 なんでも竜神官の人たちが、竜人の聖女様をつれて【聖気】を分けているらしいの。


「竜神官が【聖気】を?」


「……はい。なんでも金色の聖女の再来といわれている竜人の聖女が現れたとかで」


 その言葉にルヴァイス様が眉をひそめた。


『ジャイルさん、竜神官の人は聖女と違って聖杯に祈って聖杯から【聖気】を蒔くのじゃなかったの?』


「ああ、本来はそうだ。昔竜王国にもリザイア家のように【聖気】をもった伝説の聖女【金色の聖女】がいたという伝説はあるが……」


「テオ、その聖女とやらを確認に行ってくれ。我々はこのまま進む」


「はっ」


「見に行かなくていいのか?」


 ジャイルさんが言うと、ルヴァイス様は首を横に振って。


「わざわざ我々の通るルートにいるというのはあちらには思惑があるということだ。

 何もわざわざその思惑に乗ってやる必要はあるまい。

 大方、【ファテナの花】に危機感を覚えた教団側が、探し出してきたのかもしれぬが……聖女の演技をさせているだけかもしれない。

 うかつに動けば竜王に認められたと利用されかねない。

 テオが確認すれば間違いないだろう。

 今日はソフィアも一緒だ。自ら危険に飛び込むのは感心しない」


 そういってルヴァイス様が腕を組む。


「あー……なんつーか、本当にルヴァイス様はソフィアちゃんが大事なんだな」


「……何がいいたい?」


「以前のルヴァイス様なら、突っ込んでいったろ。

 自分で確認しなければとかいって」


 その言葉にルヴァイス様はふむと考えながら


「なるほど、言われてみればそうかもしれぬな。

 以前騎士団長が、妻をもつと行動が慎重になるといっていたがそれがこういう事か」


 ルヴァイス様が言ってくれて、私は顔がかぁーって顔が赤くなる。


 妻って私のことだよね。

 かりそめの夫婦でもちゃんとルヴァイス様は妻ってちゃんと認識してくれていて私はとっても嬉しくなる。


 キュイがきゅいーって私のほっぺをなめ始める。

 だめだめ、視線が集まっちゃう、顔が真っ赤なのがばれちゃう。


 私がぼすって帽子でお顔を隠すと、目の前に座ってたジャイルさんが腕を組んだ。


「ルヴァイス様わりと天然のたらしだよな」


「……なんの話だ」


 ジャイルさんの言葉にルヴァイス様がすかさず突っ込んだ。



 ◆◆◆



「と、通りすぎたですって!?」


「はい、視察に何人かこちらに来ましたが、竜王陛下はすぐに……」


 竜人の体にやっと馴染み、デイジアは行動を開始していた。

 早速人々に【聖気】を見せつけ、金色の聖女という噂を流して回っているのだ。

 セスナの炎による呪いの力も竜神官にもらった聖なる錫杖によってごまかすことができる。

 本当の金色の聖女としてルヴァイスの前に現れ、ソフィアからルヴァイスを奪い取るために、わざわざルヴァイス達の通るルートで待ち伏せしていたのに……。


(せっかく体を竜人と魂をいれかえたのに!!美しい私を見て惚れるはずが!!)


(あんな痛い想いまでしたのに、なんでいつもうまくいかないのよぉぉぉぉ!!!)


 デイジアは悲鳴をあげるのだった。

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