第48話 聖薬

 

『ルヴァイス様は私のせいで苦しんでるの?』


 私が紙に書いて聞くとテオさんもジャイルさんも困った顔になる。

 ぐしぐしと涙が止まらない。

 タンスから魔方陣を発動させて、ジャイルさんの部屋の隣に転移したら、テオさんとジャイルさんの会話が聞こえた。

 ルヴァイス様のお薬の話みたいだったから、キュイに姿を消してもらってこっそりと聞いてしまったの。


 私のためにルヴァイス様が苦しい思いをしているなんて。


「ソフィア様、確かに間接的にはソフィア様のせいといえるかもしれません。

 ですが、そもそも竜神官達はことあるごとにルヴァイス様に無理難題を押し付けてきました。

 今回もソフィア様は口実にされただけにすぎません。

 きっとこのことがなくても彼らは嫌がらせをしてきたでしょう」


 テオさんが私の肩に手をおいてそういってくれるけれど、でも私のせいで苦しんでるのはかわらない。


「そうだぜ、ソフィアちゃん。

 もしソフィアちゃんをリザイア家に帰したとしてもあいつらの嫌がらせは続くだろう。

 あいつらははやくルヴァイス様を失脚させて、自分たちの息のかかった王族に王位を譲らせたいだけだ。ソフィアちゃんが気に病むことじゃない」


「ルヴァイス様も負けず嫌いですしね、遅かれ早かれこうなっていたでしょう。

 むしろソフィア様がいてくれて我々は助かりました」


『役にたててないよ、だってルヴァイス様苦しんでる』


 私がそう書くとジャイルさんが私に上着を肩からかぶせてソファに座らせてくれる。


「どこから話を聞いていたのかわからないから、一から説明するが、ルヴァイスが竜神官達に逆らえないのは理由が二つある」


 そういってジャイルさんが木版に文字を書きだした。


「一つはリザイア家と同じ、【聖気】を竜王国にもたらしていること。

 そしてもう一つはルヴァイスが魔獣を倒したとき受けた呪いの進行を遅らせ痛みをなくすための薬【聖薬】があいつらにしか作れないことだ」


 そうだ!そのお薬、私も作れないかな?


『レイゼルさんはポーションとポーションをかけあわせて火傷に効く薬をつくってくれたよ』


 私が紙に書くと、ジャイルさんが驚いた顔をして


「……つまり、それって【錬成】は植物や鉱物だけではなく、加工ずみのポーションまで組み合わせ可能ってことか!?」


 って、私の肩を揺さぶるの。


『うん!レイゼルさんは作ってた!』


「……それはすごい!!勝手に鉱物や植物だけだと思っていたけど、加工済みの薬も可能なら……他にもいろいろできるかもしれない」


『他にも?』


「ああ、ルヴァイス様に必要な薬ももしかしたらできるかもしれないぞ!」


『本当!』


「ああ、テオ、ルヴァイス様の部屋に行くぞ。

 調子が悪い時に検体をとっておきたい」


「あ、はい! ではソフィア様、ソフィア様はお部屋に」


 私も行きたいけどダメなのかな? ジャイルさんのほうを見たら、ジャイルさんが微笑んでくれて


「ソフィアちゃんの仕事は薬を作ることだ。

 あしたは【錬成】で忙しくなるぞ。

 薬をどうやって作るかは俺たちに任せて休んでいてくれ。な?」


 そういって、私を抱き上げた。


「あ、あー?」


 私が慌てると、「明日は忙しくなるぞ?ちゃんと夜は寝ておいてくれよ?」ってにししって笑うの。


「そうですよ、ソフィア様。おそらく今頃竜騎士たちが部屋にいないのを察して大慌てしているはずです」


 と、テオさんも頭を抱える。


『ごめんなさい』


 私がそう書くと二人とも笑ってくれた。

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