第42話 魔基配列

 


『ジャイルさんこれなぁに?』


 ルヴァイス様とお使いにいってから1カ月くらいたったころ。

 私はジャイルさん達が会議につかっていた資料をみて質問してみた。

 なにか丸いつぶつぶがつながった不思議な図。

 私が【錬成】を使う時に見えるものに凄く似ている。


「ああ、これは魔基配列だよ」


「魔基配列?」


「うーん。簡単に言うとその生物の特性を決めるための情報とでもいうかな。例えばこれ」


 そう言って、会議で使っていた資料の一つを私に見せてくれた。


「遺伝子についてはこの前説明したよな?」


『うん!その植物がこれによって特性が決められるって教わった!』


「その遺伝子情報の中でさらにその生物の特性を決める部分とでもいうかな。

 同じ植物でもここのデータの違いで特性がかわったりするんだ」


『うーん?』


 よくわからなくて私が首をかしげると、


「説明が悪かったか。んじゃちょっとこれを見てくれ」


 と、別の紙をもってきて私に見せてくれた。


「これがソフィアちゃんが組み合わせてくれたレタの麦の魔基配列だ。

 こっちが聖気を必要としないレタの麦、こっちは失敗して聖気を過剰に必要とするレタの麦。

 魔基配列の記号がここだけ違うだろ?」


 そういって見せてくれたデータは確かにその部分だけ書いてある記号が違った。


「こうやってできた植物の魔基配列を調べて、育てる前に選別してるのさ。

 なるべく割り出した理想の魔基配列のものに近いものを選別している」


『つまり、理想の魔基配列があるってことかな?』


「ああ、この植物でいくとこういう魔基配列になってくれるとありがたいんだが」


 そう言って記号をみせてもらった。


 レイゼルさんに魔法を教わった時、大事なのはイメージだと教わった。


 もしその魔基配列をちゃんとイメージして植物を作ったら?


『ジャイルさんこれもらっていい?』


「ああ、写しがあるから大丈夫だけど、何に使うんだ?」


『これを見ながら作ってみる』


「え?」


 私はジャイルさんの見ている前で【錬成】にとりかかる。


 イメージして。

 一つ一つこの意味不明だった不思議な色の配列をこの図と同じようにするの。

 分解してイメージして構築する。


 大事なのは集中力。


 魔法を唱えた時に浮かぶ意味不明な羅列がなぜか一気に記号に変換されて頭の中に入って来る。

 まるでこの全ての知識を手に入れたかのように錯覚するくらい。


 そして――ここだ。


 私はイメージを強くする。

 記号を一つ一つ分解してそして再構築。

 ジャイルさんたちの魔基配列と同じにするように。


 ――お願い完成して――


【錬成】


 私の魔法とともにそれは完成した。



 ◆◆◆



「凄いっ!!!凄いよソフィアちゃん!!」


 あれから私が作った新種の苗を調べたジャイルさんが遺伝子を調べ大声で喜びの声をあげた。


「理想の魔基配列になってる!!」


「凄いですよ!!

 これが狙ってできるなら私たちの研究したデータがそのまま使えます!!」


 研究員の人が言ってくれた。


「これでもう思い残す事はありませんじゃ!!」


 研究員のおじいちゃんが、どこからか持ってきた棺桶に入ろうとする。


「棺桶に入ろうとするなじいさん!? どっからもってきた!?」


 それをいつもの茶髪の研究員さんが止めていた。

 そしてほかのみんなも本当にうれしそうに、私をほめてくれる。

 みんなが大喜びする中。私も嬉しくてにこにこしていると


「ソフィアちゃん」


 と、ジャイルさんに肩をつかまれた。


『ジャイルさん?』


 私の肩を掴むジャイルさんの手は震えていて、私は不思議に思って顔を覗き込む。


「ありがとう。ソフィアちゃん。

 もちろん一番すごいのはソフィアちゃんだ。

 それは間違いないし、本当に感謝している」


「でも、それだけじゃない」


 そういってジャイルさんは研究所のみんなのほうに振り返った。


「これなら、ソフィアちゃんの力だけじゃなくて、俺たちの20年の研究結果がちゃんと役立つんだ!! 

 この20年みんなで、命がけでした事が、データが、研究がちゃんと役立つんだ凄いことじゃないか!! 

 俺たちのやってきたことは何一つ無駄じゃなかった!!」


 ジャイルさんの言葉に研究所の人たちから「わーー」って歓声がおこった。


 ここの人達はみんな国に逆らったり、命からがら逃げてきたり、神殿に迫害されたり、苦労しても夢を諦めずにずっと頑張ってきた人たち。


 漠然と頑張ろうとして、ただ闇雲に実験してた私よりずっとずっと苦労も努力をしてきた。


 だからきっと私よりもずっと感動が大きいのだと思う。


「しょちょー!

 何泣いているんですか!らしくないですよ」


「うっさい!お前だって涙目じゃないか!?」


「男連中が熱くなっちゃってごめんね、ソフィアちゃん」


 喜んでくれる研究所の人たちを見て思うんだ。

 私もみんなのお手伝いができるようにちゃんと頑張らなきゃって。


 レイゼルさん、ルヴァイス様やみんなのおかげでいま私たちの夢が実現しようとしているよ。

 だからどうか、どこかで生きていてくれますように。

 そしていつか一緒にこの喜びを分かち合えますように。


 もうすぐ夢が叶うよ、だからはやく会いにきてねレイゼルさん。

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