第12話校舎裏
転校初日の昼休み、怖そうな金髪クラスメイトに連行されてしまう。
「ここなら誰もおらへんから、大丈夫やろ」
連行された先は周囲にはひと気がなく、校舎からも死角になっている、まさに“ザ・校舎裏”。
多少“何か事件”が起きても、目撃者がいない密室の空間だ。
「え、えーと、本日は、いったいどういう御用でしょうか?」
相手は喧嘩が強そうな別世界の金髪君。
オレはいつでも逃げられる体勢、なおかつ財布も献上できる姿勢で、おそるおそる相手の目的を訊ねる。
「さっきも聞いたけど、自分、“あの”ビンジー芸能の新人君なんやろ?」
「えっ? うん、一応はそうだけど。それが何か……?」
もしかしたら相手はビンジー芸能に、恨みでもあるのだろうか? その可能性は低くはない。
何しろ豪徳寺社長はどう見ても、堅気には見えない人物。もしかしたら業界の派閥争いや抗争に、オレは巻き込まれてしまったのだろうか?
下手を売ったら、このまま東京湾の底に、コンクリート詰めで沈められてしまうのか⁉
――――だが、相手の次の言葉が、こちらの予想を上回る。
「おお、やっぱりか! “あの豪徳寺社長”の事務所に入れるなんて、自分、たいしたもんやな! よかったらワイのダチになってくれへんか?」
驚いたことしてきた。
金髪君はいきなり肩を組んできて、笑顔で旧友のように顔を近づけてきたのだ。
「へっ? ダチ? キミとオレが?」
「おっと、すまんかったな。ワイの名は天道ユウジ! 今、動画でバズっているからワイのことを知っているかと思うけど、エンドレス・ミュージック所属で、将来世界一のミュージシャンをなる男や!」
肩を組んだまま、金髪君は自己紹介をしてきた。
エンドレス・ミュージックは音楽系の事務所で、たしか業界でも中の上の規模だ。
おそらく音楽系の動画で人気の人なのだろう。
基本的にオレはアイドル系の情報しか見ていないから、申し訳ないが天道ユウジの名前は聞いたことがない。
「えっ……市井ライタ、ビンジー芸能所属で、一応は俳優部門です」
よく事情が呑み込めないけど、自己紹介をされたなら、こちらも答えるのも礼儀というもの。自分の名前と所属も名乗る。
「おっ、やっぱりライタは俳優ジャンルなんか? 見た感じパッとせんから、アイドル路線は無しと思っていたからのう。俳優でビンジー芸能入りか……あー、ワイも世界一のミュージシャンを目指さない身だったら、今すぐでも豪徳寺社長の事務所に入りたいぜ!」
何やら距離感が近く、一方的によく喋る人だが、どうやら悪い人では無さそうだ。
彼の話をまとめた感じ、今回はオレという個人に興味があった、というよりもビンジー芸能の新人として興味があるのだろう。
とくに豪徳寺社長に強い興味をありそうだ。
「えーと、ユウジ君は豪徳寺社長のことが好きなの?」
「同級生やから“ユウジ”の呼び捨てでかまへんぞ。あと、もちろん豪徳寺さんは、ワイにとって憧れの存在や! あの人が昔出ていた映像は、もう何万回も見てきたからのう! だがしかし、豪徳寺さんが立ち上げたビンジー芸能にはミュージシャン部門はなくて、ワイは泣く泣く他の事務所に所属したんや!」
ああ……なるほど。
なんとなく事情が少しだけ分かってきた。
知らないけどきっと、豪徳寺社長は昔ミュージシャンか何かだったのだろう。この天道ユウジは憧れていたけど、ビンジー芸能には入ることはできなかった。
だからビンジー芸能の新人でありオレに対して、いきなり急接近してきたのだ。
「ふう……ああ、よかった。ユウジが怖い人と勘違いしていたから、ちょっと安心しちゃった」
「ん? ワイが怖いって?」
「ほら、だって金髪だし、ピアスを何個も開けている跡もあるし?」
「ああ、そういうことか! これはワイの表現や! ミュージシャンたる者、既存の常識にとらわれたらあかんのよ!」
なるほど、そういうことか。
ミュージシャンの世界はよく分からないけど、オタク業界と同じように個性が大事なのだろう。共感はできる。
「あと、そういえユウジは関西弁だけど、もしかしたら大阪からこっちに越してきたの?」
「ん? 何を言っておる。ワイは生粋の東京生まれの東京育ちやぞ」
「えっ……でも、今も関西弁で話しているけど?」
「はっはっは……これは小さい時に見たTVの影響で真似して、未だに抜けないクセや!つまりワイのはエセ関西弁だから信じちゃあかんぞ!」
「えっ? エセ関西弁……そ、そうなんだ………」
何やら色んな設定と属性が、目の前に人物に盛り込まれていて、オレは混乱してきた。さすがは芸能人が集まる堀腰学園といったところだ。
「という訳で、今日からワイとダチになろうぜ、ビンジー芸能の新人ライタ!」
見た目は怖そうで、パーソナルスペースの距離の詰め方がかなり強引。
「えっ、いきなり⁉ まぁ……べつにいいけど」
だけどユウジはどうやら本当に悪い人ではなさそう。とりあえず了承しておく。
「サンキュー! それならまずは飯を食おうぜ、ライタ! 腹減ってかなわんわ!」
「うん、そうだね」
とりあえず転校開幕
オレは連行された時、手に弁当を持ったまま。ユウジは購買部からパンと飲み物を買ってくる。
場所は誰もいない校舎裏で、そのまま食べることにした。
昼食を食べながら、友だちになったユウジと話をしていく。
「こう見えてワイは“内部生”で、学年の情報通やから、なんか知らんことがあったら、なんでも教えたるで!」
「内部生……そうなんだ」
堀腰学園は中高一貫の教育機関で、中等部からエスカレーター式で高校に上がってきた者は“内部生”と呼ばれている。
高等部の約六割が内部生のため、ユウジは学園内の情報に詳しいという。
普通の高校ではない堀腰学園へ転校してきたオレにとって、これは有りがたい存在だ。
「えーと、それなら聞きたいんだけど、クラス内が何か静かというか、ピリピリした感じがない?」
さっそく訊ねたのは、教室での違和感について。
オレが自己紹介をした時に感じた、あのピリピリした感じが、どうしても気になったのだ。
「ん、教室の雰囲気やと? ああ、そうか、ライタは転校生やから、知らんのか。この学園は、というかウチがクラスはちょっと特殊やからなー」
「えっ……D組がちょっと特殊?」
「ああ、そうや。感じた視線は、ライタが“値踏み”されていたからや」
「えっ……オレが値踏みをされていた⁉ どうして⁉」
こうして自称情報通のミュージシャン天道ユウジに、クラスの特殊な事情を聞かされるのであった。
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