143.ストゥルミル村のトマト2年目

 さて夏も本番、うちのエルダニア領主館の小さなトマト畑も実が沢山なっていた。


「そろそろストゥルミル村へ見に行こうか」

「はいぃぃぃ、みゃううう」


 みゃうみゃうことシエルも準備は万端なのか、気合を入れていた。

 久しぶりの実家への帰省だ。

 人を乗せる定期便もない村へ一人で帰らせるわけにもいかないし、ずっと会わせないのも盆と正月に実家へ帰るのがデフォルトな日本人感覚すると、ちょっと可哀想な気がする。

 まぁ俺の母親はそんなに帰ってこなかったから問題になったってのもある。


 エルダニアにできた商業ギルドで馬車を借りる。

 領主代行といっても、権力があるわけではないので定価だ。

 いつものように保証金を支払って費用も出す。


「それじゃあ行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 ミーニャの両親、メルンさんとギードさんをはじめ、その護衛のマークさん、ラプンツェル三姉妹などはもちろんついてこない。

 前回は子供だけで勢いで行ってきたけど、あとでやっぱりよくないねという話になったので、今回はビーエストさんがついてきてくれることになった。

 ビーエストさんはトライエ領主ゼッケンバウアー様の俺たちへの監視も兼ねているらしいので、まあそういう意味でもある。

 監視といっても厄介者だと思っているわけではなくて、近くに人を置いて報告をさせているのだろう。

 ついでに手伝いとかさせればいいと思っているようだ。


「それじゃあ、ビーエストさん、御者よろしくお願いします」

「おおっ!」


 イケメンスマイルをキメて俺たちに合図をしてくれる。

 部下たちにエルダニアの護衛を任せて俺たちとしばらく旅行だ。


 ぱかぱかと馬が進む。


 魔道自動車とかできないかな。もっと早く進める。

 この辺りの街道はトライエ領主により思った以上に整備されていて、もっとスピードを出しても安全な作りになっているのだ。

 もちろん走鳥ランバードなどもいるので、必要性があるのだろう。

 万が一、またスタンピードなどが起きたときには一秒でも早く連絡を入れて、戦力を届けたいだろうし。


 バレル町を経由して懐かしいトライエ市まで、数日掛けて移動した。


「よう、ハリス」

「エド。元気してるか。エルダニアはどうだ?」

「家がだんだん増えているよ」

「俺たちも直にそっちへ引っ越しかもな」

「そうか、もうそんな話になってるのか?」

「いや、話だけだよ。金もないし。俺はちょっと持ってるけどな、あはは」


 ハリスが鼻の下を擦ってちょっと自慢げだ。


「権利料、払うから待っててくれ」

「おう」


 そうそうハリスとはハーブティーの権利の二割の代金を払うという契約がある。

 まぁ実は契約書なんてなくて今でも口約束なので、いつ辞めてもいいし、反故にされてもしょうがないのだが、ハリスは払ってくれるらしい。

 思ったより義理堅いようで感心する。

 ガキ大将だけど、変に真面目なところもあるようだ。

 手が付けられない悪ガキじゃなくてよかった。

 元をたどれば俺を悪者にしてたのも、黒目黒髪とかかわると悪いことが起きるからという正義感からなのだろうし、本質は悪人ではないのだろう。


 金貨を貰った。ハリスよ結構儲けてるようですな。


「おま、こんなにか」

「ああ、他の都市まで流通してるから、ちょっとした額に」

「よく子供に任せてるな。まったく大人たちはお人よしなことで」

「我ながら、まったくだぜ」


 自嘲気味にハリスが笑う。

 ハリスのバックにはドリドンさんやラファリエ教会がいるので、ちょっとやそっとでは手が出せないのだろう。

 どちらもラニエルダで怒らせたらヤバい人トップテンだ。

 宗教組織に歯向かうバカなんて、マフィアでもやらないだろうな。逆にマフィアは地元の教会とグルだったりするんで。

 ということで金貨を何枚もじゃらじゃら貰って、トライエ市をあとにした。


 トライエの西の街道を進む。

 マドルド・トライエ街道だったかな。

 まっすぐ進むと隣国マドルド王国へつながっているけれど、俺たちは右折して北側へ進む。

 北側の脇道は名前もあるんだかないんだか。ヘルホルン山の西砦のルートだ。

 それで西砦までいく手前に小さな村があった。

 そこが目的地、ストゥルミル村となっている。

 俺たちが来たのは二回目かな。


「こんにちは」

「おおぉ、坊主、いつだったか世話になった子か」

「そうです。エドです」

「シエルちゃんもいるな、うん」

「はい。お世話になります、みゃあ」


 シエルが顔を出して、手を上げてアピールした。

 門番さんは笑顔を浮かべて、通してくれた。


 そのまま村の中の道を進んでいく。

 麦畑が去年より広く取られているのか、よく目に付く。

 そしてトマト畑が広がっていた。

 あちこちに赤い実のトマトが枝になっている。

 実の割合は見た感じはうちの畑と同じくらいか、豊作に見える。


「お父ーさん、お母ーさん」

「シエルかあああ、よくきたぁ」


 村長をしているシエルの両親が笑顔で迎えてくれた。

 状況を説明してくれる。

 まず毎年、トマトはトマト畑、麦は麦畑と分けていたものを、今年は逆にした。

 それにカブや大根などのナノハナ科の畑を加えて、ローテーションにするように俺に進言されて、実践をしている第一段階だった。


「御覧の通り、今年は豊作で。ありがとうございます。ありがとうございます。これもエド君の指導のおかげです」

「いやぁ、俺は聞きかじった知識を言っただけで、何かしたわけじゃないですから」

「その知識が重要なのですよ。ほほほ」


 ホクホク顔のお父さんは機嫌がよさそうだ。

 これならシエルの弟妹たちは奴隷に売られたりせずに済みそうだ。


 トマトサラダから、トマトパスタ、トマトピザ、トマトスープなどなど、めちゃんこ美味しいトマト料理をこれでもかごちそうになった。


「そうそう、それで出来すぎてちょっと困っています。うれしい悲鳴ですが腐ってしまいそうなのです」


 村長は困り顔でそう聞いてきた。


「ドライトマトとかどうです。天日で干して、干肉みたいにするんですよ」

「なるほど! その手がありましたか。早速やってみます」


 ということで一日作業でみんなでドライトマトを作った。

 これで余って腐るということはなくなりそうだ。


「来年も是非、いらしてください。シエルまたね」

「行ってきます」


 こうしてシエルや俺たちが手をブンブン振って戻っていく。

 どうやら問題は解決しそうで、よかった。よかった。


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