121.ハロウィンと落ち葉焚きの焼き芋

 もうすぐ十月三十一日。

 この世界にもなぜだか知らないがハロウィンに相当するお祭りがある。

 この前、収穫祭をしただろうと思うのだが、よく分からない。

 まあ北の方のどこかから伝わった風習だろう。


 村々や町でも畑の隅っこのほうにオレンジ色になるカボチャを育てている。

 それを持ってきて、くり抜き目と口を彫る。


「ハロウィンなのでカボチャです」

「わっわっ、ハロウィン!!」

「覚えてる?」

「うんっ」


 ミーニャにも覚えがあるらしい。

 エルフ領のハロウィンなのか、俺んちに流れてくる前、途中のどこかなのかは分からないけど。


 母ちゃん由来のミスリルのナイフでカボチャを加工していく。

 このミスリルは非常に切りやすいのでこういうとき非常に重宝する。


「顔ができたね」

「おう」


 ミーニャやみんなが目を丸くして俺の手元を覗き込んでくる。

 目がまんまるでかわいい。


「ねぇエドぉ、オバケって出ないの?」

「あん? さぁ出ることもあるんじゃないのか」

「ひゃんっ、そ、そうなの……」


 急に顔を青くしてしまう。

 後ろでシエルも同じようにしている。

 彼女たちはオバケが怖いんだっけ。

 以前地下室のときにそんなことを言っていたはず。


「まあ作り物のオバケに本物が混ざってても、お祭りとか好きなオバケなら悪い奴じゃないでしょ」

「そうかもしれないね」

「まあ、大丈夫、大丈夫」

「う、うん」


 レイス系や精霊系とはまだ戦ったことがない。

 闇に落ちた精霊とかめちゃくちゃ強いらしいね。

 うちにはミーニャの浄化とかもあるので大丈夫だろう。


 俺たちだけじゃなくて、みんなハロウィンの準備をした。


 街へ出てみても、みんな難民キャンプみたいな街だったのにどこから調達したのかカボチャを飾っていた。

 街のあちこちにカボチャの飾りが置かれている。

 こういう余裕が出てきたことも領主一家としては非常にうれしい。


「みんな、カボチャあるね」

「うん。思ったよりちゃんとやるんだな」


 さて今日の夕方からが本番だ。

 みんな仮装をして街を練り歩くのだ。


 子供たちは家々を訪ねて「トリック・オア・トリート」に対応する現地語を言う。

 たぶん遥か昔にも、転生者がいて広めた可能性もある。

 単に似た文化がたまたまあっただけの可能性も否定できない。

 何と言ってもこの世界の人も例に漏れずお祭り好きなので。


 俺たちは何の仮装をやろうかとも思ったけど、あまりご予算もそして素材とか洋服屋さんとかもないので、なかなかに難しい。

 無難にメイド服でいつもと変わらんやろがい、と言われてしまうけれど、いいんだ。

 かわいいし。

 それにメイド服は裕福な家にしかない高級品なので、かなりこの世界では仮装っぽい。


 あぁ世の中には草の汁を煮詰めたような緑のものを全身に塗って、ぼろい服を腰に巻いて「ゴブリン」とかやる人もいる。

 あと人気なのはオオカミの犬歯がアクセサリー用としてよく安価で売られているので、それを歯にくっつけて、少し白いお化粧に紫の口紅とかして「バンパイア」とかですかね。

 気合を入れる人はさらに背中にコウモリの羽をつけたりする。


 スラム街ではほとんどやったことがないけれど、トライエ市内ではやっていたらしい。


 こうして仮装をして歩く人が多数。

 仮装だか普段着だか分からないような格好の人も多数。


 街にカボチャを飾り、練り歩く。

 なかなかにいいんじゃないでしょうか。



 もう一つ、ハロウィンに合わせてやることがある。

 カボチャではなくサツマイモだ。

 この世界でも品種改良はそこそこ進んでいて、中が黄色いサツマイモはかなり甘い。


 紅葉した葉っぱが大量に落ち葉になる季節。

 これを掃いては掃いて、集めまくった。


 ここに半分放置農法でたくさん作ったサツマイモを大きな葉っぱに包む。

 それを落ち葉の焚火に放り込む。


「火だねぇ」

「おおう」


 すでにあちこちで焚火の煙が上がっていた。

 なんだか狼煙の日にも勝る煙の量だ。


 領主館ホテルでもメイドさんたちが一生懸命集めてくれた落ち葉を燃やしている。

 たくさん取れたサツマイモを次々に入れた。


「サツマイモ~♪ サツマイモ~♪ た~の~し~み~」


 ミーニャが節をつけて叫んでいる。

 うん。気持ちはわかる。


 目の前で焚火がされているので、ホクホクの甘いサツマイモがもうすぐ食べられる。


「はいできたー」


 木の枝に刺してサツマイモを火からおろす。

 手袋をしてサツマイモを剥いて、みんなに配っていく。


「わわ、美味しそう」

「「「いただきます」」」


 メイド服の衣装に包まれて、牙をつけ紫色の口紅になっている腹ペコ妖精さんたち。


 ぱく。ほくほく。

 ぱくぱくぱく。ほくほくほく。


「はふぅ、はふはふ」


 まだ中が熱い。はふはふしながら一生懸命食べる。

 甘い。サツマイモは蜜が垂れるほどではないにしろ、砂糖が貴重な世界ではかなり甘い部類になる。

 美味しい。めっちゃ美味しい。


「あまーい」

「おいしーです」

「おいしい、みゃうみゃうぅ」


 みんな熱いのをはふはふして食べていく。

 あっという間に完食した。美味しくてよかったね。

 広い空き地に半分放置農法だったので、それほど手が掛かっていない。

 これはアタリだ。来年も是が非でもやろう。


 こうしてお腹を満たした子たちは、夜の練り歩きに参加してハロウィンを楽しんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る