115.秋のエルダニア大運動会

 秋になってきた。日本では元々十月十日が晴れの特異日として知られている。

 だから運動会と言えば十月ごろにすることが多かった。

 いろいろあって、五月や六月ごろにやるようになった学校も多いらしいね。


「それでさ、エルダニア大運動会をしよう」

「え、なにそれ、面白そう!」


 まだ家が建っていない空き地がある。

 元々道だったところが四角くあるので、そこをトラックのように使うことにする。


 大工衆もそれから元からの住民も、メイドさんたちも。

 みんな今日はお休みとして運動会に参加する。


 朝ご飯を食べた面々が暫定運動場に集まってきた。


「では大運動会を始めます」

「「「おおぉおおお」」」


 ギードさんにより大会開始の宣言をして開始だ。


「まずは体操からです。しっかり準備運動をしないと怪我をしやすいです」

「はーい」


 こうしてラジオ体操もどきの運動をみんなでする。

 ここは俺が以前に教えたのをミーニャたちが前で披露して、みんなで真似をする。


「最初は五十メートル走です」


 ドーン。


 銅鑼どらだかシンバルみたいな楽器がちょうど領主館の地下倉庫にあったので、それを使っている。

 五十メートル走は直線コースだ。


 大工衆もメイドさんもみんな走る走る。

 タイムはわからないものの、一緒に走れば何位であるかはわかる。


 そうして参加者がこぞって走り、各一位の人を集めて決勝戦をする。


「うおおおぉぉぉ」

「みゃうううぅうぅぅ」


 シエルちゃんも一位だったので、大人に混ざって全力疾走だ。

 でも足が短い子供には不利だ。

 獣人の運動神経をめいいっぱい使ったものの、三位入賞となった。


「シエルちゃん、速い!速い!!」

「えへへ、でも負けちゃったみゃう」

「大人は足が長いから有利なんだよ。すごいよ」

「みゃうみゃう、ありがとう」


 にへへ、とシエルが笑って八重歯が出ている。

 獣人ちゃんなのでもちろん牙なのだけど、笑うと良く見えてかわいい。


 借り物競争もやろうと思ったのだけど「文字が読めない」という人がいることがわかって、これは事前に中止になった。

 そういう人でも数字くらいは読めるようなんだけど、細かい物の名前となると少し難易度が上がってしまう。

 ということでこれは断念。


「次は玉入れです」

「わーい」


 俺たちが空き時間にせこせこ作った玉をやはりせこせこ作ったカゴに投げ入れる競技だ。

 メイドさんチーム、大工さんチームなどに分かれて、玉の数を競う。


 あ、なんかめっちゃうまいエルフのメイドさんが一人いる。

 投げた玉がほとんどカゴに吸い込まれるように入っていくので、目立つんだ。

 こういう特技がある人もいて、結構盛り上がった。


「そしてこれでーす」

「なにこれぇえええ」


 知っているけど大げさに驚いてくれるミーニャ。


「大玉転がしです」

「ぱふぱふ」


 チームごとに大玉をコースに合わせて一周する。

 この大玉も俺たちの苦労の結晶だ。

 薄い木の板をベースに丸く作るのに苦労した。

 ツタで軽く編んでボディーを作って表面はウサギ革だ。


 少し工作技能が成長したと思う。


「大玉、おっと大工さんチーム、苦戦中か。右へ左へ方向が定まりません」

「メイドさんチーム。なかなか器用に転がしていきます。初速は大工さんチームリードでしたが、メイドさんチームの激しい追い上げです」


 実況は俺。こんな感じに解説をして盛り上げていく。

 大玉は見た目の迫力もあって、かなり評判が良かった。


 そして最後の種目。


「リレーです。チームごとに一人ずつ順番に走って、タッチをしたら次の走者へとつなぎます」


 大工さんチーム、メイドさんチーム、それからまだ紹介していなかった地元市民チーム。

 各チームの第一走者の選手がスタートラインに並ぶ。


 ドーン。


 シンバルの低い音が鳴り響き、三者ともに一斉にスタート。

 どのチームも普段からそれなりに運動しているためか、なかなかの接戦だった。


 大工さんチームはスタミナはあるけど、おじさんが多い。初速はじゃっかんリードしていたけどだんだん差が縮まっていく。

 市民チームは二位につけている。一般市民だと言っても侮れない。

 そしてメイドさんチーム。広い領主館内を歩き回っているので、体力にも自信あり。そして何と言っても若い女の子が多いので、元気がある。

 最初三番手のメイドさんチームだったけど、市民チームを抜いて二位へ。

 そしてアンカーにタッチをしたとほぼ同時で、大工さんチームと接戦をしている。


「さあ、勝つのはメイドさんチームか。それとも大工さんチームか」

「差はぼとんどありません。頑張れ、頑張れ、頑張れ、もうちょっとだああ」

「ゴール。ゴールは僅差。僅差でメイドさんチームの勝ちです!」


 こうして一位の座はメイドさんチームとなりました。

 やっぱり若い子は強い。

 おじさんたちはみんな悔し涙を浮かべている。


「以上で、運動会を終わります。ご協力ありがとうございました」


 パチパチパチパチ。


 それでも最後はみんないい笑顔を浮かべていた。


「あぁ、お昼だ、宴会だあ」


 あぁね。大工さんやドワーフの師匠などはエールを片手にみんなで乾杯だ。

 あ、よく見るとドワーフの師匠はどこからか失敬してきた蒸留酒を飲んでいる。

 メイドさんたちはあれだけ動いても給仕をすばやく開始している。すごい。

 メイドさんは何人かいるので最初の混雑の後には順番に休憩と食事をする予定となっている。

 厨房から料理も運ばれてきた。

 今日はエルダニア伝説のトマトスープもある。


「エール。トマトスープ。そして肉、うんめぇ」

「にゃはは、ご飯おいち」

「美味しいですね。みんなで食べると」

「ご飯たのしいみゃう」


 こうして大盛況で運動会が終わった。


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