114.秋ナス、焼き魚

 いよいよ本格的に秋になってきた。


「教会、できたねぇ」

「おう」

「ラファリエール様もお喜びですね」

「みゃうぅ」


 ちょっと真面目なのはラニアだ。

 ラニアさんちは俺らより少し敬虔な信者らしい。

 家々のそういう入れ込み具合とかって結構差がある。


 地元で採れた白い石。

 というか瓦礫の山から掘り出して使える白い石を集めたともいう。

 それをそのまんまリサイクルしたものだ。

 それがラファリエ教会の壁になった。


 ある意味で復興のシンボルといえる。


 隣にはすでにセブンセブン商会の建物が半分できていた。

 こちらも同じ様式の白い石造りだった。


「こっちは冒険者ギルド!」

「だね」


 それから噴水広場の反対側。

 こちらには王都の国内本部とトライエ市などの各冒険者ギルドが出資して、別の大工のチームがエルダニア冒険者ギルド支部を建設中だ。

 木造と石のハイブリッド建築で、この辺の一般的な建築様式となっている。

 すでに冒険者支部の偉い人と係の人が到着していて、指示を出したりしている。

 テントの仮支部を設置しているので、そこで冒険者ギルドの仕事をしている。


 といっても仕事はほとんどない。

 二人いるハンターから魔石を買い取ったり、ギルドカードの更新などを一応はしている。

 獲物の解体作業はハンターの人の仕事だ。


「それから長屋だね!」

「おう、ここは宿舎になるんだ」

「ふーん」


 両方の基礎工事を担当していた最初にきた大工衆は、一本裏通りのすぐのところの土地から道沿いに長屋の建築作業を始めた。

 ここに宿舎を作る計画でいる。

 こちらも基礎工事の一軒目が終わり、隣の二軒目に着手している。

 別動隊が一軒目の上物を建設中だ。


 いろいろと仕事でエルダニアに来る人が増えつつあるので、領主館ホテルだけでは手一杯になるのは目に見えている。

 今のうちに自活してもらうための設備を確保する。


 この長屋とほとんど同じ設計の一般住宅地もその後に作る予定だ。

 同じ設計なので、作業が慣れてくるとスピードが速くなる。

 品質も向上するのが期待できる。


「それで噴水広場の下流の通り沿いはまだ仮設小屋」

「うん。通行の便がいいからこの辺だね。テントよりはちゃんと屋根付きとなっております」

「うちのラニエルダの家とおんなじくらいだね」

「おう」


 長屋とはまったく別に、すでにいる人が生活するためのバラック小屋の建設チームがいる。

 仮設小屋だけど、ないよりましだ。

 今まで大工も何もいなかったので、住民はずっとほとんどテント暮らしをしていた。


 仮設のバラック小屋には料理店も二店舗すでに入居して、お昼の炊き出しなどをしている。

 こうして人口は確実に増えつつある。



「それで、それで、お昼!」

「おう。ここのお店で食べよう」

「やった!」


 じゃーん。出されたは、領主館前の畑で作られている今が旬の秋ナスだ。

 大きく育ったナスを焼いて、魚醤をかけて食べる。

 この魚醤、かなり醤油に近くて、ほとんど生臭くないという優れモノだ。


 魚醤はソース同様、王都からの輸入品だ。

 王都はここから川を下った河口にあるため、漁港もあり海産物を使った産品が特産だ。


「ナス、おっきいにゃ!」

「だよね。ミーニャ。ナスカレーも好きだったもんな」

「うん。私ナス好き!」


 ミーニャにラニアとシエルも首を上下させて同意する。

 俺もナスは好きだ。


 お皿に乗った大きな焼かれた丸のままのナス。

 これにフォークで真ん中に切れ目を入れて開く。


 ナスくぱぁ。


 紫の皮が開いて、中から緑の果肉が出てくる。

 そこに特製魚醤をぴゅーとひと掛けする。


「わわ、美味しそう!」

「んじゃ食べようか」

「ラファリエール様に感謝して――」

「「「いただきます」」」


「美味しいにゃぁ」

「んんんっ、美味しい!」

「うまっ、うまうま、みゃう」


 秋ナスはこうして俺たちのお腹に収まった。



 夜。


「今日はなんか珍しいものが」

「うん。お魚だよ」

「お魚だねっ」


 ためつすがめつ、魚の干物を観察している。


 秋といえばサンマだけど、その代わりみたいなものだ。


「鑑定」


【焼いたアジの干物 料理 食用可】


 うん。鑑定君ありがとう。普通にアジの干物だ。

 確かにひっくり返してよく見ると、背中の真ん中に歪んたゼイゴが見える。


 開きになっていて、そして小骨を処理した後が見える。

 高級品なので小骨にも気を使う。

 干物は王都の主力産業になっていて、トライエ市にも輸送されてくる。

 トライエへ輸送するにはエルダニアを通るので俺たちは輸送途中の分を少し確保した。

 もちろん相応の対価を払っている。

 トライエ市へ送るのと同じ値段で買い取ったので、空き容量は猟師の肉などを積んだようだ。

 だから商人は損がない。


 とにかく食べよう。


「うひひ、いただきます」

「「「いただきます」」」


「お魚、おいち」

「うん、美味しいね。旨味があるのかしら」

「みゃうみゃう、うまいみゃう」


 フォークで身をほぐして、口に入れていく。

 小骨も処理されていて付いていないので、背骨以外は気にしなくても食べられる。


 元から魚醤漬けになっていて、味が染み込んでいる。


 うん、うまい。


 肉も美味いが魚もまた美味い。


 大型の魚となるとこの辺の川にはあまり生息していないようだ。

 ブラックバスに似た魚とかいるみたいだけど。

 だから多くは海魚になる。

 そして王都から輸送してくると、普通は干物、乾物ということになる。

 さすがに生のマグロやアジはエルダニアでは食べられないらしい。


 一応、アイテムボックス持ちがいれば運ぶことは可能だ。

 ただし、あまりアイテムボックス持ちがいないということは十分理解した。

 所有者の半数以上は実りのいい冒険者をしていて商売をしている人もいるにはいる。

 ただし、今すぐ魚を持ってきてくれる人はいないと。


 俺は干物のアジの味、母なる海をかみしめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る