105.川遊び

 いわゆる夏のピークは過ぎたものの、まだ残暑は続いている。

 今日は近くの川へ行って水浴びをしてこようと思う。


「というわけで、川へ行こう」

「わーい」

「おーぉ、です」

「にゃうぅん、みゃうっ」


 ワンピースの女の子たちを連れて近くの川へ。

 川といっても大きくはなく、どこにでもある支流の一つだ。

 この支流はそのまま南の方へ流れていき、メルリア川に合流するらしい。


「るるんるんるん、にゃららんにゃん♪」


 今日もご機嫌で知っている曲の演奏に当てた声を適当に口ずさんでいた。

 ミーニャがリードをしていて他の二人もハミングなんてしている。


 この曲は俺も知っている。

 トライエ市の広場で吟遊詩人がよく演奏している曲だ。

 わりあり有名な曲なのか、違う人も同じ曲目を披露していたので、よく覚えている。

 いつもは俺のよく知らない曲を歌ったりしているのに珍しい。


 ただ楽器演奏の曲なのか歌はないんだよね、この曲。

 この世界では楽器の曲が多くて、お歌はあまりない。

 だからいつもミーニャたちは楽器の代わりに適当にふんふん言っているわけだけど。


 これはこれで結構かわいいから俺は好きだ。


 さて城門を通ってすぐのところに川がある。

 川は小さめでレンガ造りの橋が架かっている。


「よし、ここをキャンプ地とする!」

「「「わーい」」」


 みんな諸手を上げてよろこんでくれる。

 キャンプ地といいつつ、野営道具は装備していないけどね。

 最低限必要なものはアイテムボックスの中にはあるので出せないことはない。


 とりあえず日差しを避けるための簡易テントだけでも出すか。

 アイテムボックスから引っ張り出して、しゅぱぱとテントを広げる。


「キャンプできた!」

「あぁ、うん」


 もうこれだけでキャンプの気分だから面白い。


 そしてみんなワンピースのまま水にざぶざぶ入っていく。

 元々体を洗うとき以外は服を着ているので、泳ぐときは水着になるみたいな考え方がないらしい。

 ということで服を着たままだった。


 パンツもワンピースもビシャビシャにして水に入って平泳ぎだ。

 この辺は勘というやつで、もちろんクロールなんて知っている訳もなかった。


 それから水深はあまり深くはない。

 川の流れは緩くて遊びやすい。助かる。


「きもちーよー、エドもはやくぅ」

「おー今いく」


 俺もしょうがない行くか。

 岸から見ているのも悪くはないのだけど、誘われてしまった。


 ざぶざぶ水に入ってミーニャたちを追って平泳ぎだ。


 ちょっと向こうではカルガモの親子なんかも水辺で遊んでいる。

 長閑のどかだな。


 水の中に目をやれば、魚なんかも足元をすいすい泳いでいる。


「ひゃんっ」


 ミーニャが変な声を出す。


「どうしたっ」

「お魚さんが足に当たった!」

「あぁ、なんだ」


 魚も縄張りへの攻撃なのか、泳ぎの途中でたまたまなのか足にぶつかることもある。


「みてみて、水の中、よーく見ると、エビとかもいるよ」

「ほーん」


 どれどれ、俺もよく見てみる。

 すごくわかりづらいが、半透明のエビが確かにいる。

 岩陰のほうへみんなで並んでこちらの様子を窺っていた。


 エビ焼きとかにしたら美味しそうだけど、素手で取るのはなかなか難しい。

 以前はもっと浅い沢で籠を使って取ったけど、ここでは無理そうだ。


「ほーらほらほら」


 バシャバシャバシャ。


 ミーニャが水を飛ばしてくる。

 俺は頭の上からひんやりした水をかぶって、水浸しだった。


「あーあ、エド君、頭の先まで濡れてる!」

「ミーニャがやったんだろうが」

「へへーん」


 まったくいたずら好きなんだから。


「そうだ。こういうのはどうだ」

「え、なに?」


 俺がアイテムボックスから木の板を取り出してビート板のようにして持つと、バシャバシャとバタ足で進む。


「え、なにそれ! エドちゃんばっかりずるいっ」

「ミーニャもやるか?」

「やる!」


 ラニアとシエルもやりたそうだ。

 木の板を人数分出して持たせる。


 足を交互に動かして泳ぐんだよと教える。


「わーわー、こんなので進むなんてへーん」

「これは興味深いです」

「わーい、みゃーう」


 みんなでビート板風の木板でバタ足だ。

 さっきまで平泳ぎモドキだったので、だいぶ泳ぎかたが違う。


 小川を登ったり下ったりと行き来する。

 そうしてしばらく泳いで過ごした。


 登りは一生懸命バタ足して、帰りは流れに身を任せて流れてくる。

 流れるプールみたいで面白い。


 川から上がってくると覚悟はしていたけどみんなワンピースが濡れてちょっと直視はしがたい感じにほんのり肌が透けている。

 まあまだ小さい少女のソレなので別にどうってことはないのだけど。


「そういえばミーニャは白いけど、日に焼けたりしないの?」

「え、別に」

「そ、そうか」


 エルフのなせる業なのか、なんなのかあまり日に焼けない。

 かといって日光に弱いというわけでもないようで。

 なかなか不思議だ。


 ミーニャの肌の色は夏でも全然変わらない。

 ラニアもあまり違いがあるようには感じられない。ほんの少しだけ夏仕様のような気もする。

 シエルは前より最近ちょっと黒くなった気がする。まあ程度問題ではあるけど。


 ミーニャが日に焼けて真っ黒になったらダークエルフだな、ダークエルフ。

 どっちの種族かわからないという。

 実際にはそうならないから別の種族として存在しているのだろうけど。


 ダークエルフはもっと南の方に本拠地があって、この辺はテリトリーではないのでめったに見かけることはない。

 あ、ああ、ホテルをするようになってここを通る人をほとんど見ている。

 だから一人だけ見たことがある。

 それくらい珍しい。


 別にダークエルフだからといって邪悪とかそういうのはないらしい。

 魔族に通じるということもないようだ。


 そんなこんなでミーニャは日に焼けることはなかった。

 シエルちゃんは少し日に焼けた。

 俺も思ったよりは日に焼けないみたい。


 こうしてまた夏の一日が過ぎていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る