95.カレー曜日

 翌、日曜日。

 ふはははは。

 ついに、ついにトウガラシを発見したのだ。

 我がエド軍は圧倒的に優位に立っている。


 なぜならトウガラシにより、これで悲願のカレーを作ることができるからだ。


 さっそく原料を買い付けにセブンセブン商会に向かう。


「すみません。カレー粉ください」

「はーい」


 いつものメイドさんが対応してくれる。


 そうなのだ。この世界にも俺が「カレー粉」と呼んでいるものがある。

 前に少量だけ購入して試食したのだが。


『なんだこれ、カレー粉だけど辛くない』


 うむ。確かにカレー味だった。カレー風味というべきかもしれない。

 なぜかトウガラシが入っていなかったのだ。

 風味は完全にカレーなので、これでもカレースープとか作れるといえば作れるのだけど。


 カレーが食べたい場合には物足りないという他なかった。

 だからボツにしていたネタだったのだけど、トウガラシが見つかった。それも自生しているほう。

 商品として見つかった場合でもよかったけど、どちらでもよい。


 ということで今日のお昼はカレースープです。

 スープというかシチューみたいにして食べるカレーというか。


 カレー粉と乾燥トウガラシをすり鉢で細かくしたものだ。

 何回も丁寧にすってかなり小さい粒にした。


 すでに野菜各種を鍋で煮てある。

 お肉はイノシシ肉の在庫が少ないので、ウサギ肉にした。

 これなら俺たちが定期的に取りに行けるので。

 イノシシはまた向こうからくるまで狩りようがない。

 さすがに土日の森探検だけではイノシシとの遭遇率が低くてあまり現実的ではない。


「ということで今日はウサギカレーです」

「ふーん。また辛いのなの?」

「そうだよ」

「あんまり辛くしないでね」


 三人ともべーって舌を出して、あの時は辛かったと顔で表現してくれる。

 ちょっとかわいくて面白い。


「では、このへんでカレー粉とトウガラシ粉を入れます」

「ふぅん、なんだかいい匂い」

「そそ、これがカレーの匂い」


 かわいいお鼻をひくひくする三人。

 猫がご飯に顔を近づけているのに似ていて微笑ましい。


 まず黄色い色になり、そして少しだけ赤い色を入れる。

 入れすぎてはいけない。

 子供舌は劇物に敏感だ。

 むしろリンゴと蜂蜜とか甘くしたほうが好きかもしれないけど、俺は辛いのが食べたい。

 なんでもやってみるに限る。


「はやくっ、はやく」

「美味しそうな匂いなので、ミーニャがせかすのも頷けますね」

「シエルも、はやくみゃ、はやくみゃあ」


 うずうずしている子をドウドウと慰めて落ち着かせようとする。

 しかしこのおいしそうな匂いに完全にやられている。


 せめて三十分くらいは寝かせたい。

 地球の母親はいつもそうやって作っていた。

 俺はかなり母親の作ったカレーが好きなので、できるだけ再現できるところは準拠したい。


 モグラ叩きのモグラみたいにぴょこぴょこしているのをしばらく眺めて、ようやく時間になった。


「よし、そろそろいいね」

「やったっ」


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 特製のスプーンで食べる。

 スープ用より気持ち大きめで持ちやすい。

 丁寧に削ってあるので曲線的なフォルムは手になじむ。


 カレーだけを掬って食べる。

 うまい。

 ちょっとだけ辛みもあるが、野菜やお肉の旨味、カレー粉自体の旨味のような何かが調和して、抜群にうまい。

 よくわからんけどハーモニーってやつ。


「おかわり!」

「はいはい。まだ少しあるから大丈夫」

「やったっ!」


 いっぱい食べておおきくなあれ。

 ちんまくて、ぺっちゃんこなのもかわいくて好きだけどね。

 ただしデブらないように運動もしような。


 いつも学校へ行ったり仕事で立っていたりするので、大丈夫だとは思うけど。

 前は痩せ気味表示だったのが、いま普通になっている。

 ちょっと頬っぺたもぷにぷにになって、顔までかわいくなっている。

 この状態を維持したい。


「「ごちそうさまでした」」


 カレーをお代わりした三人は、お腹を膨らませて撫でている。

 幼女のぽんぽこお腹をさすっている姿は非常に微笑ましい。


「エド、毎日食べたい!」

「えぇっ、さすがにそれは」

「じゃあ、毎週!」

「それくらいなら」

「じゃあ毎週日曜日のお昼はカレーね」


 ということでうちでは日曜日のお昼がカレー曜日と指定された。

 カレー粉は渡来品で結構高いんだけど、うちには共有資産のプール金があるので余裕だった。

 俺の貯金を切り崩しているわけではなくて、家族共有費だと思ってくれていい。

 これは家賃やおいしいご飯の材料を買うお金なので、存分に使っていいのだ。




 さてまだ先だけど、三号店を計画をしている。

 うちは手狭なので、このうちの一号店は会員制の少し高級なピザとカレーの飲食店にする。

 今までの低価格なラファリエールの有人自動販売機は近所の空き家に移そうと思っているのだ。

 俺たちが毎日氷を補充して、ハーブティー類の在庫の管理をする以外はバイトを雇うつもりだ。


 まだほとんど構想段階だけどどうだろうか。

 ちょうどキングの魔石代がプール金として増えたので家賃や各種投資もできる。


 借りる家も目星がついている。

 近所の少し行ったところだ。

 うちより狭くて、二階は別の一家が住んでいる。

 一階に広いリビング兼ダイニング、キッチン、寝室があり外にトイレがある。

 リビングダイニングが一部屋で広いので客室に向いているのだ。

 ここはもうあとは契約するだけ。今は仮契約で押さえてある。

 家具はセブンセブン商会とビエルシーラ商店で購入する。


 うちは二階に倉庫と子供部屋と夫婦の寝室の三部屋がある構造だ。

 一階にはリビング、ダイニング、キッチン、隅にトイレ。


 あとは誰を雇うかなのだけど、それは冒険者ギルドのハーフエルフのミクラシアさんにお願いしてある。

 週七日毎日営業。合計三人。

 二人勤務で一人はローテーションで休暇だ。

 その予定で各種準備ができ次第、俺の面接まで行く予定。

 さてどんな人を紹介してくれるだろうか。


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