94.トウガラシの発見

 土曜日だったので、また森を探索した。

 街で売っているものも多いのだが、中には売ってすらいない種類の植物があったりする。


 お隣へ寄ってラニアを連れてくる。

 エルダタケを探して切り株の平原を通過しつつ探す。


「お、エルダタケだ」


【ドクエルダタケモドキ キノコ 食用不可(強毒)】


 そんなぁ。


 近くにもう一個。


【エルダタケ キノコ 食用可】


「セーフ。やったぜ」


 こうして近くにあると油断しそうになるが、ちゃんと全部確認しないとだめだ。


 森の入口でミーニャに祝福してもらう。


「ベルもよろしく」

「はいっ」


 ちょっとシエルは顔を恥ずかしそうにするが、真剣な顔になってベルを鳴らし始める。


「ラファリエール様のご加護の下に」


 キンコン、コンコンキンコン、コーン、キンコン。


 曲が前と違う。

 非番の日とかあるので、そういうときに練習しているのだろう。

 向上心があるようでよかった。


 こうして俺たちは当社比倍のパワーで森へ入る。


 ふふふ。今日は北東方向だ。

 まっすぐ進むとエクシスの滝だけど、そのときは周りの草木を全部無視して進んできたので、今回は草木のほうをターゲットにしている。


 ふふふ。


「あ、倒木。キクラゲだぁ」


 ミーニャが目ざとく発見する。


 うん、確かに鑑定でもキクラゲのようだ。

 キクラゲに似てる毒キノコなんて聞いたことがないが用心はしておこう。


 そうして歩くことしばし。


「トマト? あれ、なんか細い」


 トマトに似た枝がある草には、赤と緑の実がいくつもなっている。

 しかし形は丸ではなく、長細かった。


 俺が思い当たるものは数種類しかないが、鑑定してみるに限る。

 ちなみに鑑定も一応魔力を使う。

 俺の魔力は多いほうだとは思うけど、無限ではないんで、見かけたすべての植物を鑑定して歩くことはできない。


【トウガラシ 植物 普通】


 おぉぉお。トウガラシちゃんだったか。

 シシトウや細い種類のパプリカかと思った。


 今まで辛みは、山椒、コショウを使っていた。

 トウガラシが欲しかったのだ。


「これ甘い? おいしい?」

「いや、辛いんだこれ」

「え、辛いの? いらない」

「そんなことないって。これはこれで美味しいんだ」

「そうなの?」

「うん」


 ミーニャちゃんの食いしん坊さんめ。



 さて追加でトマトも取れたし、他にもトウガラシは近くにいくつかあったので、採って歩く。


 そうして家に戻ってきました。


 お昼は適当なメニューを作って凌ぐ。


 午後、トウガラシをみたいな籠に入れて、干す。

 乾燥トウガラシだ。


 よく輪切りとかにして使うし、生より乾燥かなってなんとなく思って。


「こんなにおいしそうな色してるのに辛いの?」

「うん」

「ふーん」


 よくわかっていない顔をする。三人とも。


「食べてみる?」

「うん」

「一本三つに分けて、隅だけ、ほんのちょっとかじってごらん。それでもすごく辛いよ」

「ふーん」


「ぎゃあああ」

「うえぇぇ」

「みゃうううう」


 三人の悲鳴が聞こえる。

 台所にある水瓶に走っていく。

 柄杓ひしゃくみたいなものがあるので、それで水を飲んでいた。


「はわわわ、死んじゃうかと思った」

「これは、ナシですね」

「こんなのないみゃう、辛いみゃう、絶対おいしくないみゃう」


 さんざんな目にあって三人とも辛いことは納得した。

 何事も経験だ。

 俺はやらないけど。


 みんな復活して夕方。


「じゃじゃーん。夕食は、ぺぺろんちーのー」


 少し道具を出すネコ型ロボットっぽく。


「え、なに?」

「ペペロンチーノのニョッキにしたいと思います」

「ふーん。美味しくなるの?」

「まあ、一応」


 さすがに何かわからないだろう。


 三人とも不思議そうな顔をしながら見ている。


 ニョッキを作った。

 パスタ類が市販されていないのは痛い。


 売り出してほしい気がするが、乾麺の知識が皆無で製法がわからないという。

 乾かせばいいというものなのか、どうか。


 ニョッキをだいたいで茹でる。


 草原産のニンニク、森産のトウガラシに市販のオリーブオイルと塩とコショウを少々。

 ちょいとアレンジ。

 イノシシ肉を少し入れて炒める。

 それからタンポポ草を投入。


 これでニンニクオイルみたいなものが出来たら、そこへニョッキを投入して絡める。

 はい、完成。


「なんだかいい匂い」

「匂いはだいたいはニンニクだけど」

「あぁニンニクかにゃ」


「では食べますか」

「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 さて食べるぞ。


 三人が俺の顔を見ている。


「え、みんな食べないの?」

「「うん」」「みゃう」


 あ、そう? じゃあいただきます。


「……美味しい!」


 俺は一人でご満悦だ。

 ペペロンチーノここにあり。

 また出会えてよかったペペロンチーノに。


「そこまでいうなら、じゃあ、食べてみるね」


 三人とも不安そうだけど、食べてはみるらしい。


「おいちぃ」

「美味しいです。エド君」

「ちょっと辛いけど、美味しいと思うみゃう」


 うんうん。

 なぜなのか知らないけど、トマトとかは売ってるんだけどね。

 トウガラシが売ってないんだ。

 料理とかにも使われていないみたいで。


 メルンさんとギードさんにも好評だった。


「辛いには辛いけど、美味しいよ、エド君」

「そうね。これは変わっているけど美味しいわね」


 だそうだ。

 エルフ様の口にもあったようでなによりです。


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