78.セブンセブン商会

 祭壇の前には「賽銭さいせん箱」がでーんと置かれている。

 その箱の装飾にお金がかかっていそうでちょっと俗物的で笑いそうになった。


 俺たちは通路を通って教卓を避けて賽銭箱の前に立つ。


「えっと、いくらにしようか」

「教会では半銀貨以上と決まってますみゃう」

「そうなの?」

「はいみゃ」


 シエルに半銀貨を渡す。

 俺より詳しそうなシエルがそっと賽銭箱に半銀貨を入れる。

 ということで俺も五円玉みたいに縁起がよさそうな半銀貨を同じようにそっと入れる。

 日本だとよく投げ入れるが、ここでは作法が異なるらしい。


「ラファリエール様のご加護がありますように」


 シエルが聖印を切る。

 右手を開いて右から左、左から右へ動かすミーニャと同じやつだ。


 俺もぎこちないながら真似をする。


 こうして礼拝を終えた。


 賽銭箱の前で向きを変える。


「終わりです。教会でお祈りしたことないんですみゃう?」

「え、ないと思うよ。物心ついてからは。でも教会の構造は知ってるから小さい頃の記憶だけあるんだ」

「そうですか」


 シエルが神妙な目をして、俺を見上げてくる。

 その顔には、俺にも辛いことがあったのだろう、という表情だ。

 実際の所、わからない。

 俺がスラムで遊び惚ける前は、どこで何をしていたか記憶が定かではない。

 これは俺が小っちゃかったからで、転生のせいではない。


 まあ親の動きからすると苦労はしていたのだろう。

 少なくともトマリアは貴族に通じているらしいし。

 エルフとも信頼を交わすほど交流があったことだけがナイフからわかることだ。


 なんだかしんみりしてしまった。


「俺はなにも覚えてないし、スラムでも貧乏だったけど楽しくやっていたさ」

「そうですみゃう? でもお父さんは」

「ああ、父親の記憶はないね」

「そうですか」


 シエルがそうですか妖精になってしまった。

 顔はちょっと悲しそうだ。


「大丈夫、大丈夫。みんないるから寂しくないよ」

「ありがとう」

「ううん」


 俺がそういうとなぜかシエルがお礼を言う。


 さて入口の横に受付があって巫女さんがいるので、声を掛ける。


「すみません。他の村のラファリエ教会まで送金したいんですけど」

「はい。すみません。送金事業は隣のセブンセブン商会でやっていまして」

「そうですか。失礼しました。そちらで伺います」

「はい、そうお願いします」


 ふむ。


 一度外に出る。

 そして隣どっちだろう。


 あ、一発でわかったわ。

 立派なほうがセブンセブン商会だ。

 こちらも白い石でできているし。


「すみません。セブンセブン商会さん」

「はーい」


 奥からメイドさんが飛んでくる。

 ここでもメイドさんだ。

 定番なのかおっぱいが大きい。

 まさかメイドさんっておっぱい採用枠があって、おっぱいの大きさで合格が決まるとかないよな。

 そりゃ、ないわぁ。


「どうしました?」

「げほ、げほげほ」


 俺たちは背が低いので、目の前におっぱいがあって笑うところだった。

 ごめんねメイドさん。

 まるでおっぱい妖精がしゃべってるみたいだったので。


「あの、送金したくて」

「はい。こちらで取り扱っております。セブンセブン商会の名に恥じないよう、精一杯やらせていただきます」

「ストゥルミル村なんですけど」

「はい。ゼッケンバウアー伯爵領内ですね。金額は?」

「金貨十枚、です」


 はぁ? 金貨十枚。彼女の貯金額は俺が記憶している。

 端数省略して全額だ。

 ジャムとかを売った金額も入っていたので結構持っているのだ。


「なぁシエル。シエルが悪いわけじゃない。そんなに出さなくても」

「いえ。私が売られる予定だった金額が金貨十枚だったんですみゃう。聞こえてたから」

「そ、そうか……そっか」


 こういっては何だが、金貨十枚で娘を売る。

 親もよっぽど苦しかったのだろう。

 しかし五歳の女の子がたったの金貨十枚で親から離されて辛い労働をするために奴隷として売られていく。

 売却額とは別に口減らしという理由もあるのだろう。

 でももう少し、なんとか、なんとか……ならないのだろうか。

 俺まで泣いちゃいそう。


「私は売られちゃったけど、しょうがなかったみゃう。年々トマトの収穫は減って、弟たちにも食べさせてあげないといけなくて。村は貧困にあえいでいて。でも両親は私に最後まで優しくしてくれたみゃう。最後まで」

「そっか」

「親に背いたみゃう。少しでも報いたいから」

「ああ、わかった」


「すみません。金貨十枚ですね? あの手数料として銀貨三枚掛かるんですけど」

「わかりました」


 貯金額から引くつもりだったが手数料は俺が出そう。これくらいならバチは当たるまい。


 シエルに金貨十枚銀貨三枚を渡す。


 金貨を握るシエルの手が見るからに震えている。

 その重さは本当なら彼女の命の重さだったのだ。


「確かに受け取りました。世界中の都市七十七を股に掛ける大商会、セブンセブン商会トライエ支部、サラ・バルトロスが神に誓い、このお金お預かりいたします」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 俺とシエルが頭を下げる。

 メイドさんも同じように頭を下げて中に入っていく。


 あぁそれでセブンセブン商会なのか。

 というかどう見ても教会の付属組織だよね。

 教会の権力を振り回して商売しているとか、結構裏側は黒そうだ。

 あんまりお近づきにはなりたくないが、味方であればめちゃくちゃ心強いのも確かだ。


 どうお付き合いするか考える必要があるな。

 白とも黒とも言えないので、とりあえずは様子見だ。

 できれば敵にはしたくない。


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