74.メリクリウスとベル

 夕暮れに染まる街を眺めながら、冒険者ギルドへ直行する。


 ギルドの建物に着くと、ドアを開けて入る。

 カウベルが鳴る。

 やはりこの音を聞くとなんか戻ってきた感じがして好きだ。


 そういえばカウベルだと思っているけど、厳密に言えば「ドアベル」かもしれない。

 ドアベルなんだけどギルドのは音が低くて、どう聞いてもカウベルに聞こえる。


 ちなみにカウベルっていうのは、家畜のウシが首から下げてるベルのことね。


 夕方だから比較的混んでいる。

 その中でも列がすいている例のエルフさんのところへ並ぶ。


「本日はどのようなご用件ですか、ミーニャ様」

「あ、えっとメリクリウスを取ってきたんですけど、買い取ってくれますか?」


 ミーニャに聞いてくるがもちろん無視して俺たちが答える。


「えっ? メリクリウス? そんな貴重な物を? どこからです?」

「エクシスの滝からですけど」

「あっ、はい。一度にたくさん採ってきちゃだめですからね。一応、保護されてるんです。四人だと週に一回六株までですよ」

「そうなんですか。知らなかったです」


 一人あたり一株でパーティー単位でプラスで二株らしい。

 アイテムボックスから五株のメリクリウスを出す。


「おい、あれ、青い花。メリクリウスだぜ」

「あれがメリクリウスかぁ。綺麗なんだな」

「花は思ったより小さいんだな」

「あんな貴重なものをガキどもがか」


 なにやらうしろのほうから声が聞こえる。


「た、確かに。クマイラス殿、クマイラス殿」


 エルフ受付嬢のミクラシアさんが、鑑定スキル持ちのクマイラスさんを呼び出した。


「これ、見てもらえます?」

「鑑定しなくてもメリクリウスだな。本物だ。まだ新しい。良品だろう」

「そうですか。鑑定いりませんか?」

「これくらいなら見ればわかる。鑑定は不要だ。よかったな」

「あ、え、はい。ありがとうございました」


「代金なんですけど。ひとつ金貨四枚でして。金貨二十枚になります」

「はい。ありがとうございます」


 そそくさとカウンターの列を離れて清算しよう。


「みんな、金貨二十枚だから、ひとり五枚だね」

「うん」

「やりました」

「みゃぅ」


「ラニアは個人分、受け取るよね? はい金貨五枚」

「ありがとう」


 ほいほいと金貨を渡す。

 五枚となるとちょっと重い。


「そうだ。シエル。あのさ、服は買ったから、防具と武器見てかない?」

「私の武器ですか……うーん。見るだけなら」


 まず武器コーナーに向かう。


 いろいろある。

 なにがいいかな、なにがいいかな。


 まだ、後ろのほうではメリクリウスがどうとか騒いでいるけど、知らんぷりをしよう。


「あっ、このメイス、メイスがいいですみゃう!」


 メイスがいいのか。ちょっと変わっている。


「どうやって使うか知ってるよね?」

「うん。殴りつけるみゃうっ!」


 元気のいいことで。

 これなら大丈夫そうだ。


 メイスは刃とかもないし魔石もないので、他の武器に比べて安い。

 値段を気にしてこれにしたとしたら、いい子だなぁとは思う。


「別に高い武器でもいいんだよ。お金あるし」

「いいの。メイスで」

「そっか」


 ということで武器はメイスに決定。


 革の防具、胸当ては俺たちと同じやつでいいだろう。

 また新しく入荷していたので、それを購入した。


 これで俺たちのパーティーはそこそこのメンバーが揃った。

 格好もみんなそれっぽくなった。


 うん、すばらしぃ。


 ところでまだお代を払っていない。


 それから気になっていることがあった。

 シエルがチラッチラッと、見ているものがあったのだ。

 それは「ベル」と言われる武器に準ずる楽器だった。


 エンチャンター付与術師、バッファーなどの支援職、補助魔法使いは魔道具の楽器演奏という手段で、バフの性能アップ、持続時間延長などの効果をもたらす。

 ただバフを掛けるだけではあまり効果は高くないと聞く。


 うちのマッマは知識持ちなので、内容は浅いがいろいろ教えてくれていた。


「なぁシエル、メイスで本当にいいの?」

「うん……」


 一応笑顔だけど、ちょっと作り笑顔っぽい。

 未練はあるようだ。


「ベルって知ってる?」

「ひゃいっ、バレちゃったかみゃぅ」


 えへっと舌を出した。

 まあ、こういうのもかわいい。


「本当はベル装備してみたいんでしょ?」

「うん、でもあれ」


 言いよどむ。

 言わんとすることは誰でもわかるだろう。

 ベルは魔道具なのだ。

 魔道具は概して高い。


 ベルのような楽器を装備してバフをするのは、本当は騎士団とか五十人の大規模パーティーとかを想定しているらしく、置いてあるベルは貴族用の装備しかなかった。


 それも全金属製で装飾があって魔石もついてる。


「すみません。一応、お尋ねしたんだけど、このベル、いくら?」

「これですか? すみません。中古品でして人気もないので今は金貨三枚ですね」

「そうですか」


 よかった。


 これなら買える。


 金貨十枚以上は確実にするのは見ただけでわかる。

 中古だったのか。

 この辺のコーナーは新品と新古品が混ざってるのでよくわからん。


 ラッキーと思うよこれ。こういうレア武器の中古があるのが、さすが冒険者ギルドだ。


「んじゃ、ください」

「いいの?」

「ああ、メイン武器は俺からのプレゼントだから。あ、ごめん金貨一枚だけ出してください」

「はい、いいですよ。契約成立ですみゃう」


 こうしてお代を払って胸当てとベルを買う。


 右手のベルと左手のベルで音の高さが違う。

 いや片手に三つずつ装備して、最大で六音まで出せるらしい。

 これは中古で二つだけみたい。


「ちょっとやってみていいですか?」

「え、あ、はい」


 ギルドのお姉さんに了解を得たので鳴らしてみる。


 緊張した顔でシエルが構える。


「ラファリエール様のご加護の下に……」


 キン、コン。キン、コン。キンキンコン。


 二音だけだけど、確かに曲っぽい。


 みんな、なんだという顔をしてシエルのほうを見ている。


 とても澄んだ綺麗な音色だった。

 なんだか癒される。


 教会の鐘の音もこれにしてくれ。

 そうしたら全員にバフが掛かって大変か。


「おぉぉ、これバフなんだな。俺、攻撃力の変化には敏感なんだ。わかるよ。力が湧いてくる」

「なんだか、いい音」

「元気になってきた」


 その辺の冒険者が感想を教えてくれる。

 ギルド内はなんだかいい雰囲気だ。


 顔を赤くしたシエルが演奏を止める。


「よし、これ買って正解だったみたいだな」

「そうにゃ」

「そうですね」

「はいみゃう、うれしいみゃぅ」


 ぴょんぴょん跳ねてうれしがっていた。かわいい。


 そうそう。メイスも安かったので買っておいた。

 予備にちょうどいい。


 ピンチのときはメイスで加勢してクレ。なんちって。


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