73.エクシスの滝の探索

 大瀑布エクシスの滝の目の前に到着した。


「綺麗にゃ、あ、妖精さん」

「このあたり滝の水の粒子が飛んでるから涼しいんですね」

「お花畑みゃう」


 幅の広い大きな滝だ。

 水が白いカーテンのように左右に広がっている。

 中央やや左には上流から流れてくる川の部分の水量が多いメインの滝がある。

 そのメインの滝の下には滝壺があって、水深が数メートルあるのだろう。

 透明な青い水がたっぷりと泉のようになっていた。


「え、今、妖精って」

「うん、ちらっと見えたにゃ」


 妖精さんはミーニャにだけ見えるのか、俺たちが見逃したのかは謎だ。

 静かに目を皿のようにして探してみるが、見つからない。


 川底には川海苔や水草がところどころに生えている。

 そして魚、イワナのような15センチくらいのサイズの魚が何匹も泳いでいる。


 幅の広い滝の下側には崩落した土が堆積していて、ここだけ川岸が広い。

 その部分は、春のお花畑の様相だった。


 霧のような水の粒子で気温がずいぶん低く感じる。

 だからまだここだけ季節が春になっている。


「これは菜の花畑だね!」


 菜の花はミーニャでも知っているらしい。

 春の早い時期に黄色い花をいっぱいつける。


 実はアブラナなので、種を搾ればナタネ油になるんだけど、有効活用されていないという。

 この世界でも中世顔負けに油といえばオリーブ油だ。

 都市の周辺に大量に植樹されてオリーブの大農園になっているところもある。


 アブラナも栽培自体はされているけれど、小規模なんだとか。

 だからなのかあんまりナタネ油は流通していない。


 アブラナ、ナタネ、ダイコン、ブロッコリーなんかが菜の花のお仲間だ。

 ハクサイ、カブ、チンゲンサイ、コマツナとかも。


 だから掘れば小さいダイコンもついてくる。


 何種類ものチョウチョウが飛んでいて、妖精と見間違えそうだ。

 黄色いチョウチョウ、白いチョウチョウ、アゲハチョウ。

 あと青いチョウチョウ。


「こりゃぁ、地上の楽園だな」

「そうですねぇ」


 俺とラニアでまったりする。

 ミーニャと妹分のシエルはお花畑に突入していった。


「お、これは?」

「あ、はい。これは私知ってます。メリクリウスです」

「へぇ」


 俺たちの足元には、一株の青い花をつけた珍しい花があった。

 鑑定。


【メリクリウス 薬草 良品】


 しかも良品だ。


「あ、これ、薬草なのか」

「はい。えっと、金貨ですね、これ」

「うっ、どうしよう」


 見渡してみる。

 ぽつぽつ、あ、向こう岸に群生してる。ひとつふたつじゃない。


「ちょ、ちょっとまって、群生してるんだけど」

「そうですね。全部採ったら白金貨ですね」

「はあ、白金貨?」

「はい。でも全部採ったら未来永劫、恨まれますよ」

「だろうな」


 群生地を荒らすとか完全に犯罪者だ。


「冒険者は知ってるのかな」

「知ってるんじゃないですか。でも大切な薬草だから」

「ああ」

「それに輸送が難しいと聞いたことがあります」

「ほほぅ」


 つまり時間経過がないアイテムボックスが必要だということだ。

 アイテムボックスのスキル持ちはほとんどいない。


 マジックバッグなら金貨でギルドでも買えるが時間経過そのものはある。


「五株くらい持って帰りましょうか」

「そうする」


 俺とラニアで慎重にメリクリウスを収穫する。

 採取方法はラニアに聞いた。


 根っこと葉の間をレタスみたいに切ればいいらしい。


「やばい。これだけでも金貨何枚だろう」

「暗黒微笑ですか」

「そそ、暗黒微笑」


 ラニアがニッと笑う。

 ラニアも暗黒微笑のつもりなのだろうが、顔がかわいいので、めっちゃかわいい。


 恥ずかしいので視線を遠くに移す。


 金髪サラサラのエルフちゃんと銀髪サラサラの猫耳ちゃんがお花畑で遊んでいる。


 なんだこれ……


 お花に囲まれたミーニャとシエルの周りをチョウチョウがひらひら舞っていた。

 柔らかい日差しが滝の水分の粒子に反射してキラキラしている。


 絵になるというか天国に見える。

 やばい。絵面が完全にシャングリラやユートピアのそれだ。


 俺、ここに定住したい。

 ずっとコレ眺めてニヤニヤして生活したい。


「ふふふ、かわいいですね」

「あぁ、めっちゃかわいい」


 ラニアが俺の視線の先を見てコメントする。

 おまかわ。どっちもかわいい。




 川で水を飲む。

 すごく透明でめちゃくちゃ冷たくて美味しい。


 大丈夫、だろう、たぶん。この辺の水はみんな飲料水にしているし。

 毒があるとか聞いたことがないし。


「ミーニャ、シエル。そろそろ行くぞ」

「あ、うん。わかったぁ」

「はーいみゃう」


 呼び戻して崖を登る。


 非常食。干し肉をかじる。

 今日のお昼はこれだけだ。


 干し肉を崖上でももぐもぐして移動しだしてすぐだった。

 まだこの辺では滝の音も聞こえるくらい近い。


「あれ、なんかここ、ちょっと小高いです」


 気が付いたのはラニアだった。

 そこは標高プラス10メートルくらいの小山になっている。


 ちょっと興味が出たので登ってみる。

 ちょうどいい感じに直線的な登山道みたいに開けた場所がある。


 まっすぐ登っていく。


 頂上に着いた。


「あ、これ」

「そうですね」


 俺とラニアはさすがに気が付いて、目を合わせる。


「え、なに?」

「なんでしょうみゃう」


 ミーニャとシエルは頭にハテナが飛んでいた。


「あぁここ石がよく見ると角があるでしょう。遺跡なんだと思う」

「あぁ、ほんとだ!」

「なるほどみゃう」


 二人も納得顔で周りを見渡す。


 よく見ると石が積まれていて角がある。

 完全に角ばっているわけではなく多少丸みがあるが、長年の雨風で欠けたりしたのだろう。

 コケが生えていて自然みたいに見えるものの違う。


 さっきの登山道、どちらかというと参道から見て頂上の左右に灯篭のような明らかな人工物があった。


「これなんか彫刻だね」

「そうですね」


 灯篭のような石の柱だ。四角い。


 そして奥には石畳があり今も木が生えていなくて向こうが見える。

 石畳の中央には2メートルくらいのピラミッド状の石組があった。

 これも明らかに人工物だった。


 正面の奥にはヘルホルン山の山頂がばっちり見える。

 日本で言えば御神体は山そのもの、ヘルホルン山というところだろう。


 日本にもこれに似たようなものはある。

 東日本各地なんかにある浅間神社には富士山を模した数メートルの小山がちょくちょくある。


「古代の山岳信仰の跡なんだろうね」

「この地にも人が住んでいたのでしょうか」

「さぁ、神社だけなのか周りに住んでいたかはわからないね」

「そうですね」


 俺とラニアが考察をする。

 ふむ。こういう話ができる教養があるとちょっとうれしい。


「ミーニャ、これ古い教会の一種なんだよ」

「へぇ」

「もしかしたらエルフのほこらとかかもしれない」

「なるほどぉ」


 ミーニャたちの故郷はこの山の向こう側だが、故郷をしのんでお参りをするこちら側に住んでいたエルフもいたかもしれない。

 ちょっとロマンがあっていいと思う。


 そうして俺たちは、エクシス森を戻って家に帰った。

 今回も無事に戻ってきた。

 もう夕方になってしまったので、急いで冒険者ギルドへ行こう。


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